第167話 ユーリン合流からのイースマスへ
再びバーバリアンを蹴散らしながらツーブロッカー帝国を縦断する。
たまに魔族も出てくるが、とにかく魔法使いがいなくなってしまった国なので、実に移動が楽ちんだ。
強いやつがいないからな。
あっという間にツーブロッカーを抜けて、フォーホースに入った。
フォーホースの帝都はツーブロッカーに近いところにある。
これ、ユーリン曰く『かの国は分かりやすい力のみを信奉しており、言うなればチョロかった。故にこの国の近くが最も安全だと踏んだのだ』
だそうだ。
ユーリンが眠りについた頃には、ワンザブロー帝国にとどめを刺したスローゲインはいなかっただろうからな。
帝都付近を走ったら、向こうからビューンと魔法使いが飛んできた。
おおっ、まともに魔法を使える魔法使いだ!
「失礼、マナビ殿!! こちら、ユーリン様の意志が強めに宿っている魔導石です!」
「おっ、サンキュー」
魔法使いから魔導石を受け取る。
しかし、さすがは魔力の星が落ちるまでの間、魔法を封印して魔力を保っていた連中だ。
この時代に、自由自在に魔法を使えるというのは凄まじいアドバンテージだろう。
実質、魔力の星が落ちたことで、フォーホース帝国の守りは万全になったと言えるのではないか。
バギーを止めて、ボンネットを開く。
「ここからは当機能の仕事です。どれどれ……」
アカネルが半身を乗り出し、バギーの魔導石の交換作業を行う。
うちのメカニック要員なのだ。
頼れるなあ。
「機械いじりができるのか。俺も筐体の中身の入れ替えくらいは……。ゲーセンの店員だったからな」
今明かされる、コンボの達人の前世!
そうだったのか……。
すぐにバギーは、ユーリン仕様に改造された。
何が起きたかというと……。
『私だ』
「お前だったのか……って、フロントガラスに顔を大写しにするな! 前が見えないだろ! 事故る事故る!」
『その発想はなかった』
ユーリンの映像が、助手席側のフロントガラスに寄った。
器用なことができるなあ。
「マナビ、こいつはなんだ?」
「現代に生き残った太古の魔法使いだ」
「なにっ、強いのか!」
「実体が無いから殴り合え無いぞ」
「なーんだ」
達人ががっかりした。
「ダーリンは実体があるあたしとベッドの上で対決すればいいのよー」
「た、たすけてくれーっ」
後ろからエリイに襲われて悲鳴を上げる達人。
女性関係だと本当によわよわだな!
「で、ユーリン、状況は進んでる?」
『うむ。魔導王がゴーレムによる軍勢を作り上げ、ツーブロッカー帝国に侵攻した』
「さっきまで俺たちがいた場所じゃん! 全然その傾向は無かったが……?」
『ツーブロッカー帝国は最大の国土を持つ。君たちがいた場所はその端であり……。アカネル君、ヘルプ機能で表示できるか』
「いきなりアカネルの能力を把握してくるじゃん」
俺たちの旅を、魔導石を通して確認できるだけのことはある。
「はいはい。こちらがツーブロッカー帝国です」
どんと表示されたのは、なるほど、大陸の北西部の大半を占める広大な国土だった。
平坦な大地が広がっており、文明やらが進歩しそうな国に見えるが……。
『この国土の大半を、チャリオットを走らせるためのコースにしたバカな国だ』
「なんだって」
国土が広い割に、人口は少ないらしい。
なぜなら。
「馬が多いのか。他の国土は、馬の飼料を育てるための畑だったか……」
『大半の馬はバーバリアンが接収して大切に育ててる』
「馬は財産だし資源だもんなあ。なるほど、この国をバーバリアンが大挙して押し寄せて隅まで支配した理由がわかる……」
ここに定住したバーバリアンは、遊牧民みたいな存在になっていくのかもしれない。
「それはそうと、侵攻した魔導王の軍勢がどうしたって?」
『凄まじい勢いでツーブロッカー帝国を制圧していっている。バーバリアンは突っ込んでいくバカが死に、賢い者たちは馬だけを連れて撤退しているな』
「頭いいなあ」
とりあえず、魔導王が動き出したことだけは分かった。
それも、本人が何かするのではなく、尖兵を動かしているということだ。
これは……舐めプをしているのではないか?
「じゃ、次はスリッピー帝国狙いか」
『うむ。スリッピー帝国を落とせば、他の全ての国家へアクセス可能になる。私の領土へは踏み込ませないがな』
「マナビさんいつまでお喋りしてるんですかー! 行きますよ行きますよ! それともマナビさんが運転してくれるんですか!」
「あっ、ルミイがカッカしている」
多分、腹が減ってきたのだろう。
「あれは、あたいがずっとマナビの後ろにいるから、嫉妬してるんだよ」
「なるほど!! じゃあここからはナルカが運転で、ルミイを後ろに……」
「わーい!」
ルミイがバギーの中を乗り越えてきて、ラバーの上にどーんと座った。
「ひひーん」
突然の重量物に驚くラバー。
どうどう!
俺が乗り込んで安心させるのだ。
ラバーの上に座ると、後ろから柔らかいものがぎゅっとくっついてきたので、大変心地よい。
「ではオクタゴンを迎えに行こう~」
「マナビが緩くなってるのだ。ルミイはふわふわしてるから、抱きつかれると気持ちいいのだなー」
カオルンがふむふむと頷きながら、自分の胸とかをポンポンしている。
君は君のままでいいんだからな!
アカネルはなんか、自分の腹をポンポンしているな。
そしてカオルンのお腹をポンポンした。
「ハッ、腹筋……!」
違うと思うぞ。
「カオルン、手伝って下さい! 後部座席で腹筋します! あ、達人とエリイは前にギュッと詰まってて下さい」
「だってさ、ダーリン! くっつこうよー」
「たすけてくれーっ」
魔導王が動き始めていても、こちらはいつも通り。
わいわいと騒ぎながらイースマスへ向かうのだ。
面白い!
先が読みたい!
など思っていただけましたら、下にある☆を増やしたりして応援してくださいますと、作者が大変喜びます