第162話 第二の帝国からのウグワーッ連発
フォーホース帝国を縦断すると、その先にあるのがツーブロッカー帝国だ。
入ってすぐ、第一ヒャッハーと遭遇した。
つまり、いきなり襲いかかってくるバーバリアンのたぐいというわけだ。
「獲物だヒャッハー!!」
「女がたくさんいるぞ!」
「奪えー! 男は殺せー!」
「ヒャッハー!!」
凄い!!
ワンザブロー帝国でも出会ったが、今回のヒャッハーは教科書にあるような典型的ヒャッハーである。
乗り物は俺たちが乗っているものによく似た、棘付きの魔導バギー。
向こうも、俺たちが棘付き枝付き、なんならその枝から果物が実り始めているバギーに乗っていると気付いたようだ。
「いいもん乗ってるじゃねえかよぉーっ!」
「ちょうど果物がほしかったんだあー!!」
「乗ってる女達もあまーい果実じゃねえかあーっ!」
「甘酸っぱい経験がしたいぜえーっ!!」
おっ、上手いことを言ってる。
これを聞いて、アカネルは大変びっくりしたようだった。
「彼ら、なかなか語彙が豊富ですね」
「おう。学があるのかもしれない。じゃあカオルン、ナルカ、蹴散らしてくれ」
「分かったのだ!」
「あいよ!」
バギーから飛び立つ、銀の翼の真・カオルン。
バギーの後部座席に立ち上がり、マントを翻すナルカ。マントの中に仕込まれた無数の飛び道具が光る。
かくして、一方的なバトルが始まった。
高速で自在に空を飛び回り、腕から展開した銀光の刃で全てを切り裂くカオルン。
一投必殺のナルカ。
勝負にならない。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
24人ほどいた第一陣のバーバリアン全員が倒されるのに、時間は掛からなかった。
その他のバーバリアンが、与しやすそうと見て俺に突っかかってきたが、チュートリアルを使うまでもない。
ラバーが「ひひーん!」と前足を上げて、バーバリアンの斧ごと相手を踏み砕いた。「ウグワーッ!!」
強い。
「あっという間の全滅である。本当に何の工夫もなく力押しだったので逆に驚いたな……」
「わたしたち、強敵とばっかりやり合って来ましたもんねえ」
ルミイの言う通りである。
初見殺しで致命的な攻撃を放つやつばかりと戦っていると、こういう普通に奥の手も何もない連中は新鮮なのだ。
戻ってきたカオルンが、俺の後ろにぴょいっと降り立った。むぎゅむぎゅしてくる。ハグ魔が出たぞー!
「マナビさんがニヤニヤしてます! だめですよカオルンー! カオルンはさっきたくさんくっついたでしょ! 次はナルカの番なんだから!」
「ちえー。仕方ないのだー」
不承不承、バギーに戻るカオルン。
ナルカは、「は? あたいが!? なんで?」などとポカンとしている。
だが、他の女子たちに「まあまあ」「そろそろナルカも自覚を持つのだ」「当機能にとって妹分みたいなものですからね! 世話してあげませんとね!」などと言われて、馬上に押し上げられた。
「こりゃあどうもどうも」
俺が挨拶したら、ナルカはちょっと赤くなって頷いた。
「よ、よろしく頼むよ。ええと……こうすればいいのかい?」
後ろから腕を回して抱きつく辺りが、俺の胸元である。
ナルカはでかいからなあ!
他の女子たちとはまた違った感触である。
「むくむくとテンションとか他のものが漲ってきた。さあ行こう!!」
俺は鼻息も荒く出発した。
いきなりバーバリアンが襲ってきた事からも分かるように、ツーブロッカー帝国は荒れ果てている。
魔力の星が落ちてから、およそ一ヶ月くらいだろうか。
その短い間で、帝国は滅ぼされ、バーバリアンに国土を蹂躙されてしまったわけである。
なお、バーバリアンとは言うが凍土の王国とは人種が違う。
凍土の王国のは北国で、バイキングっぽかった。
こっちのバーバリアンは褐色の肌で、南方の民っぽい。
「でも、気性はうちの人たちと同じでしたねー」
凍土の王国のお姫様、ルミイが言うなら間違いない。
古今東西、男のモチベーションとは同じようなものなのだ。
バーバリアンたちを踏み越えて、ずんずん突き進む俺たち。
ツーブロッカー帝国の気候は、温暖である。
海が近く、あちこちに城塞都市みたいなのがある。
都市の周囲には農園があり、荒らされてしまってはいるが、元はオリーブとかそういう地中海っぽい作物が収穫できたんだろうと想像できる。
俺は思うんだが、こう言うところで略奪できるだけやってしまって、何も残らないくらいやり尽くしたら、どうなるんだろうな。
略奪する側が考えているとは思えない。
そのまま農園を利用すればいいのになあ。
「マスター、持っている文化が異なるので、農園を運営するという概念が存在しないのです」
「なーるほどなあ」
俺はふんふん頷き、あちこちをキョロキョロした。
すると、俺に抱きついているナルカが、「あまり動かないでおくれよ! その、こすれるからくすぐったいんだよ!」とか言うのである。
大変可愛い。
真面目にずっとくっついているのも可愛い。
彼女、基本的にすごく真面目なのだ。
「……それで、あたいはいつ降りればいいんだい?」
「これは別に強制ではないので、降りたい時に降りればいい……」
「そうだったのかい!? みんなが乗れ乗れっていうから、そういう決まりなのかと思ってたよ! んもうー」
ちょっとむくれた。
これも可愛い。
荒れ果てた農園から飛び出してきたバーバリアンを殲滅しつつ、俺はナルカの可愛さを愛でるのだ。
「つ、つええー」
「こいつら、この間通った男と女くらいつええー」
「逃げろ逃げろ! 化け物だ!」
「くっそー! 女がたくさんいるから一人くらいゲットできると思ったのによー」
なんか今、逃げていくバーバリアンが重要な情報を口にしなかったか?
「ラバー、走れ! ナルカ、捕獲!」
「ぶるる!」「あいよ!」
走り出したラバー。
ナルカはマントの中から、短いロープの両端に錘を付けた道具、ボーラを取り出した。
疾走するラバーの上から、投擲だ。
ボーラは、情報を知っているらしいバーバリアンの足に絡みつき、「ウグワーッ!」転倒させた。
後はのんびり近づくだけだ。
さあ、知っている情報を吐き出してもらおう。
面白い!
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