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第153話 平和ボケからの鞍入手

 飢餓の騎士を撃破し、街にやって来た俺たち。

 悠々と正門から入ってきたので、町の人々が仰天していた。


 バギーは野蛮な凍土の王国カスタム。

 バーバリアンたちが棘をたくさん取り付けたりしてるぞ。エルフはそこに癒やしをイメージしてか、木の枝を配置している。

 結果的に野戦仕様かつ世紀末バージョンみたいな見た目になった。


 俺の愛馬ラバーはアンデッドホース。

 体毛のない表皮は真っ白に漂白され、目だけが血のように爛々と赤い。

 漏れる呼気が紫色なので、多分瘴気をはらんでる。


 その上に、普通の人って感じの見た目の俺が乗っているのだ。


「やあやあ」


 俺がラバーを走らせると、人々が「ぎえー」と悲鳴をあげて逃げ惑う。

 こらこら、逃げるな逃げるな。

 馬の鞍を売っている店を聞きたいだけなのだ。


「ちょっちょっと」


「ぎえー」


 逃げる逃げる!

 逃げるんじゃなーい!!


「マナビさんがすごく逃げられてます!」


「マスターはいつも侮られるタイプですから、これは新鮮な体験でしょうね」


「カオルンも怖がられたいのだ!」


「あれ、ラバーが威圧的な外見すぎるんじゃないのかねえ」


 ナルカがただ一人、まともな意見を言ったぞ!

 なんか、たしかにそれっぽい気がする。


「ラバー、降りるぞ」


「ぶるる」


 ラバーは大変物わかりがいい馬なので、ちょっとしゃがみ込んで降りやすくしてくれた。

 いい子である。

 首筋をもりもり撫でる。


 往来のど真ん中でそんな事をしていたら、向こうからわあわあ言いながら兵士たちがやって来るではないか。

 完全武装だ。

 超長い槍に盾を構えて、ファランクスの陣形を組んでやって来る。


「侵入者よ、何をしに来た!! 街に害をもたらすというなら許さんぞ!!」


 おお!!

 ちゃんと相手の目的を聞いてきた!

 フォーホース帝国は理性的だなあ……。


 四騎士の機能で自衛を行っているから、人間たちが実戦慣れしてないだけかもしれないが。


「うむ、実はな」


 俺が口を開いたら、兵士たちが身構えた。

 周りで見ていた人々は、「ぎえー」と悲鳴を上げて逃げる。

 逃げるな逃げるな。


 ビビりすぎだろう。


「魔法が使えなくなっていますからね、ちょっとしたことでも怖いのでしょう」


 アカネルの説明で腑に落ちた。

 つまり彼らは、箸が転がるだけでも怖い状態なのであろう。

 ……本当にそうか? なんか魔法が使えた人たちの反応じゃなくない?


「落ち着いて聞いてくれ。俺はフォーホース帝国への害意はない。とあるものを手に入れたくてここに来たのだ」


「とあるもの、だと……!? まさか、街の核にある魔導石のことか……!?」


 最悪の想像をすぐにして、ヒリつく兵士たち。

 落ち着け落ち着け。

 そんなんじゃ胃が持たないだろ。


「いいか、俺の馬をよく見てみろ。何かおかしいと思わないか?」


 ラバーを指し示す。

 兵士たちはラバーをじーっと見て、「禍々しい」「恐ろしい見た目だ」「怖い」とか言う。


「外見じゃなくてな。人も馬も外見で判断しちゃいけないんだぞ。だが、乗るための馬として、何か欠けてると思わないか」


 俺がヒントを与えると、兵士たちはウーンと唸った。

 分からないようだ。


「マスター、彼らは乗馬をする習慣がありません」


「なんだって」


 そりゃあ分からないんじゃないか!

 そう言えば、魔法帝国では魔導バギーを使ってるパターンが結構多かったな。


 馬ではなく自動車の時代だったのだ。


「いいか? 馬はな、こうやって乗るんだ。だが普通だと馬の背骨と俺の尾てい骨が当たって痛いだろう。走ったら尻と股がこすれるし、つるっと落ちる」


 俺は兵士たちにレクチャーを開始する。

 兵士たちは妙にものが分かりがよく、ちゃんと話を聞いてくれるのだ。


「ほうほう」「ふーん」「馬に乗るのは大変なんだなあ」


 平和ボケしているなこれは。


「なので、安定して乗れるように鞍というのをだな。ここに載せて、そこに乗る。アカネル、鞍のイメージ画像出して」


「はい。既に検索済みですマスター」


 優秀!

 眼前に展開した鞍の立体映像に、兵士たちが「オー」とどよめいた。

 そしてこちょこちょと内輪で喋り始める。


 少ししたら、兵士たちの中心から指揮官みたいなのが出てきた。


「つまり、買い物に来ただけ?」


「そうよ」


「買ったら出ていく?」


「宿を取りたいなあ」


 ざわつく兵士たち。

 いちいち反応が面倒くさいな!


 自動車の時代に入っているフォーホース帝国なのに、武装がファランクスだし。

 馬に乗った騎士を防衛システムとして使っているのに、鞍のことを知らないし。


 この国の普通の人間は、自分で戦うことを忘れてしまっているようだ。

 さっきの兵士たちは、特別なんだろう。


「そうだったのか……。言われてみると、この鞍というのは騎士が乗っている部分に似ているな」


「似ているというかそのままだよ」


「そのままだったのか! だったら早く言ってくれればいいのに……」


「ずっと言ってただろ!」


「マナビさんがツッコミに回ってます! 珍しいですねえ」


 俺もまさかこんなやり取りになるとは思わなかった。

 結局、この街では鞍は作っていないということが明らかになる。


 だが、街の博物館に騎士のレプリカがあり、その馬には鞍が据え付けられているのだそうだ。

 これをもらえることになった。


 あと、宿は勘弁してくれ、水は提供するからということになった。


「弱っちいやつらなのだ! カオルン、拍子抜けなのだー」


「一般の街はこんなもんなんだろうな。で、国内をうろつく奴らは防衛装置と、タッグを組んでる特殊な兵士で対処すると。これ、あんまり防衛装置壊したらフォーホース帝国がバーバリアンに取られちゃうな。こんな平和ボケした連中、ジェノサイドだぞ」


「弱肉強食ですよマナビさん!」


「自然界で真っ先に脱落しそうなむちむちが何か言ってる……!!」


 ともかく、鞍はもらえた。

 ラバーに設置すると、ぴったりではないか。


「いいぞいいぞ、かっこいいぞラバー」


「ぶるるー」


 鼻息を荒くして、ちょっと嬉しそうなラバーである。


「じゃあわたしが乗ります!!」


「当機能が当機能が」


「カオルンが乗るのだー!」


 その後、俺は三人を手伝いながら、日暮れまでかわりばんこにラバーに乗せたのである。

 なんというのどかな状況なんだ……!

面白い!

先が読みたい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今までは警備システムと人造兵士が優秀過ぎたんだなって…
[一言] うわあ… 日本より酷い…
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