第147話 帝都と魔獣と儀式前
やってきました、フィフスエレ帝都!
ここで、俺はルインマスターを別の世界に吹っ飛ばすつもりである。
そのために、フィフスエレの元魔法使いたちを連れてきたのだ。
『もがーっ!!』
襲いかかってくる魔獣たち!
虎みたいなのや狼みたいなのや、鳥みたいなのや猿みたいなの。
これを、双子率いるバーバリアン・エルフ・アビサルワンズ連合軍と、フィフスエレ側についた魔獣たちが迎撃する。
もうね。
圧倒的ですわ。
裏切った魔獣たちが次々に撃滅されていく。
普通の魔獣では相手にもならない。
俺がのんびり眺めていると、双子が背中合わせに魔獣の群れに飛び込み、斧を振り回し、魔法でサポート、今度は魔法を使ってた側が槍を回転させて、そこを魔法でサポート、あるいはダブルで魔法、ダブルで攻撃、と変幻自在である。
双子は一瞬たりとも止まらない。
相手に合わせて一瞬で攻め手を変えて、攻め続ける。
魔獣の群れがバカみたいな速さですり減っていった。
「あれは確かに強いなー。俺が今まで見てきた中で三番目に強い」
「そうでしょー。マナビさんが見て三番目っていうことは凄いんですねえ」
「おう、凄いぞ。上にはコンボの達人と真・カオルンしかいないからな」
オクタゴンの場合、戦うステージがそもそも違うので比較できない。
と、ここで俺はチュートリアル。
そして戻ってきた。
『もがーっ!!』
横から飛びかかってきた、全身から結晶をはやした狼型魔獣。
だが、もうそこには俺のネクタイブレードが用意されているぞ。
俺がしゃがみながらちょっと移動したら、魔獣は自分の勢いで二枚おろしになって死んだ。
「でな、双子のあの強さでもちょっと怯ませるのが限界だったルインマスターがどれだけヤバいかと言うと」
「マナビさん、ちょっと落とし物を拾うくらいの動作で魔獣を片しましたねー」
「どこに来るか分かってるんだから全然怖くないだろ。そしたらもう作業だよ作業。ま、俺が作業にならないレベルの相手が出てきたら、世界の危機だ。つまりな、ルインマスターは世界の危機ってわけだ。それくらいヤバい」
帝都に巣食っていた魔獣は、ザッと片付けた。
俺たちのことを、本当にヤバい集団だと理解した賢い魔獣だけが生き残り、そのうちでさらに賢い連中が恭順を申し出てきた。
人間を舐めて襲いかかってくるおバカさんは全滅したよ。
「警戒すべきは、黒竜の眷属だけだね」
「あいつらは本当に強い。父さんがタイマンして勝てるくらいの強さだ」
双子がそう評価するということは、黒竜の眷属は通常の魔獣とはステージが違う強さということであろう。
バルクが取っ組み合いして首を折るくらいの強さ……。
「じゃあ、そこはカオルンに任せれば勝てるだろ」
「任せるのだー!!」
元気いっぱい、カオルンが空に舞い上がる。
腕組みして、警戒を始める姿が頼もしい。
あっ、空中から俺に投げキッスしてきた! 可愛い!
俺がニッコニコになってカオルンに手を振っていると、ナルカに小突かれた。
「何してるんだい! あんたが指示を出さなくちゃ始まらないだろう? 魔獣……それも、世界を滅ぼしかねないような特大の大魔獣を別世界へ吹き飛ばす方法なんか、誰も知らないんだよ?」
「おう、よくフィフスエレはあのドラゴンを召喚できたもんだよな。命がけでやったでしょ。アカネル、そこら辺の解析」
「はい、マスター。フィフスエレ皇帝が己の存在を触媒にして召喚しています。歴代皇帝が残した魔法結晶も全て使われたようです。そして出がらしになった皇帝はパクっとモヤシのように食べられました」
「そこまでしてあれか。凍土の王国が嫌いだったのかあ。連中の侵入を止めるためとしてはオーバースペック過ぎるわけだが」
「そうですね。ヘルプ機能によると、フィフスエレが過去に蓄積した全ての魔力と、未来において国家を維持するための可能性全てを触媒に……いえ、ルインマスターによって食い尽くされていますね」
「わはは、絶対にあかんやつだ」
笑ってしまった。
呼んではいけない存在を呼び込んでしまった。
それで、フィフスエレという国家の可能性は全て、そいつに持っていかれてしまったわけだ。
こりゃあ、フィフスエレは完全に終わりだ。
「詳しいことは全部わかった。じゃあ、送還の儀式を指示しまーす」
俺は声を張り上げて、フィフスエレの人々を集めた。
『コトマエ・マナビ。だが我々はすでに魔力を持っていない。そんな我々がどうして必要なのだ?』
「いい質問だ、フィフス・シー。この儀式、フィフスエレの住民が行うという、縁を用いて逆回しでやってあのドラゴンを元の場所に送り返す」
「そ、そのー。さっきの話を伺っていると、ドラゴン召喚のためにフィフスエレは魔力や未来や、何もかもを差し出したそうですけど……。それが、出がらしになっちゃった私たちでやれるものなんですか……?」
ピコルがメガネをクイクイしながら聞いてくる。
これもいい質問である。
「万全なドラゴンなら無理だろ。だが、今のあいつはコンボの達人がめちゃくちゃに削ってくれてる。いけるぞ」
「コンボの達人……!? そんな、個人の力であの災厄そのものみたいな存在にどうやって……」
「どんな災厄だろうが、タイマンに持ち込んで絶対にいい勝負する能力を持ってるやつなんだよ。あいつがタイマンできない存在は世界に存在しないぞ」
存在自体が裏技みたいな男だ。
そりゃあ、あいつから見たら自分以外のほとんどの奴らは弱いし、伸びしろが無いように見えることだろう。
「アカネル、コンボの達人どう?」
「嬉しそうですね……。理解できません」
全力で戦えるのが楽しくて仕方ないんだろう。
今は、ルインマスターとにらみ合いの状態で小休止中らしい。
「さっき、全方位を滅ぼし尽くすレーザーブレスを前転して回避してましたよ。なんなんですかあの人……」
「ゲームにな、前転中は無敵で回避できる技があるんだよ」
アカネルは全然理解できない顔をしている。
そうだろうそうだろう。
こうして、集めた人々を上手いこと配置し、儀式の準備はよし。
「コンボの達人、ゲージ溜まってる?」
「マスターの言葉の意味がよくわかりませんが、ヘルプ機能からはゲージ三本全てが溜まっていると返答が来ています」
「よし。じゃあ、あいつ、間違いなく最高のタイミングで超必殺技叩き込むだろうから、その瞬間に儀式を発動する。みんな、今は一休み! コンボの達人が動き出したらこっちで指示するから、そしたら儀式本番な! あ、もう立ったままでこっちが指示するこの呪文ね。これを唱えて。はい、空中に呪文浮かべておくから」
ヘルプ機能を用いて、カンニングペーパー的な儀式の呪文を掲示しておく。
「じゃあ飯にしまーす! 今のうちにトイレも済ませといて!」
俺の指示で、みんながワイワイと動き出した。
「世界の命運を賭けた一大儀式なのに……全然緊張感がないねえ……」
ナルカが唖然としているのだった。
そんなもの、一大事こそ自然体でやるのがベストに決まっているだろう。
面白い!
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