第144話 評価とネバネバと精霊の愛し子
ルミイの姉、エリイ。
むちむちしている妹と違い、すらりとしてて精悍な印象である。
闘気を使って肉弾戦を得意とするタイプなので、筋肉質でスレンダーなのかもな。
俺は身近に色々なタイプの女子が多いので詳しい。
まず、カオルンは細身で筋肉があるタイプ。脂肪はそんなに多くない。
アカネルは細身だけど、筋肉がそんなにないタイプ。脂肪はそこそこあるのでぷにぷにしている。
ルミイはむちっとしてて大変柔らかいタイプ。ウエストそこそこ細いのでマンガ体型だ。
ここで難しいのがナルカであろう。
長身で筋肉質。だが、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
筋肉と柔らかさが同時にあるのだ。
うーん、新体験の気配。
体感してみたい……。
「うっ、マナビがあたいにネバネバした視線を向けてくるんだけど……」
「マナビさん、ナルカを狙ってますからねえー」
「あたいをかい!? もの好きが過ぎるんじゃないかねえ……」
自分の魅力に無自覚系美少女め。
で、エリイだが。
ナルカとカオルンの間みたいなタイプ。
ルミイとはかなり違うな。
オレンジの髪を編み込んで背中に垂らしてる、野性的な美女である。
胸は……ナルカよりは小さい。
「うふっ、あたしの胸気になる? 触ってみるー?」
「えっ、いいんですか」
「だめですよう!!」
俺が一瞬で魅了されたら、ルミイが飛び込んできた。
「ひひーん」
ルサルカラバーが三人分の重量は勘弁して下さい、という感じで横倒しに転がった。
「ウグワーッ!」
「ウグワーッ!」
「ウグワーッ!」
俺とルミイとエリイが地面に投げされた。
何事もなかった顔をして、ラバーが立ち上がる。
あ、二人までしか乗っちゃだめなのね?
「みんな何をしてるのだ? 先を急がないのだー?」
「そうだった」
我に返った俺である。
バギーにエリイを詰め込んで、走り出した。
「えー。あたし、ルミイの旦那さんの後ろがいいなあ」
「ダメー!! 姉さんはなんか、マナビさんを取りそうだもん!!」
「ルミイがこんなむきになるの初めてだわ。あたし、あんたを敵に回すのゾッとしないのよねえ。それに、バーバリアンには親族のつがいを取ってはいけないって決まりがあるし」
そんな決まりがあるのか。
これはつまり、血族による繋がりを大事にするバーバリアンにおいて、親族のパートナーを寝取ったりするとそこから関係性が瓦解し、殺し合うしかない状況になるから発生した決まりらしい。
確かになあ。
魔法文明時代なんか、周りが全部敵だし、自国は凍土の大地だし、内部分裂してたら即全滅だ。
生き残るためには、身内への手出しを禁じるしかない。
他人への略奪はアリだが、身内は大事にしようってわけだ。
だから、一見して奔放な感じのエリイだが、俺に手出しをしてくることはあるまい。
俺が誘惑に負けて手出ししない限りは。
自信がないぞ!
チェリーであった頃の俺は、自制心がたっぷりあった。
結婚するまで手出ししなかったからな。
だが!
今、リア充になって生の喜びを知ってしまった俺は、何かあったらグラッといきそうな感じになっている。
これは大変よろしくない。
今、俺はハーレム系主人公の気持ちを理解している……!!
歯止めが効かなくなるのな!
「マスターが大変揺らいでいますから、ここは当機能たち三人でしっかりとマスターを管理せねばなりません」
「そうですねー。マナビさん、最近誘惑に弱いですし! 頼りない旦那さんをわたしたちで守ってあげないと!」
「そっち方面はマナビは弱いのだなー? うん、カオルンも賛成なのだ! 他の女子から守るのだ!」
「むうっ、敵が強くなってしまった……!」
警戒するエリイ。
すぐに笑い出した。
「なんちゃってね。冗談よー! あたしはきちんとルールは守るの。それに、フィフスエレに来たのはあたしの胸がときめくような、新しい血を持った男を見つけるためだもん。ルミイの旦那だったら、あたしたちの家が広がっていかないじゃん」
一族の話をしてる。
恋を求めて旅をしてるが、根底にある価値観は一族の繁栄なんだな。
これは将来性のある思考である。
俺はリスペクトする。
そりゃあ、妹の旦那には手出ししないわ。
バーバリアン、この辺りの価値観はロジカルなんだな。
「それで姉さん、なんでこっちに来たの?」
「ああ、それそれ! あのね、ドラゴンのやつが何故かあっちに行ったでしょ。様子がおかしいから確認しに来たらあんたたちに出会ったのよ」
「おうおう、それな。俺たちはドラゴンとタイマン張れるやつを探してきてな。ぶつけて来たところだ。これで安心だぞ」
「は!? ドラゴンと!? タイマン!? 一対一ってこと!?……そんな化け物がいたの!? どんなやつよ!」
「女性に免疫のない地上最強の男だ」
「へえー! ふうーん!!」
「姉さんが興味を持ちましたよ! これでマナビさんは安心ですね!」
「コンボの達人の貞操に危機が訪れたな」
だが、あいつは女がいると静かになるから防御は固いだろう。
エリイの矛先はしばらく動かなくなりそうだな。
「ああ、そうそう! それでね、あたしはお願いに来たんだけど!」
「お願い?」
「フィフスエレの生き残りが集まってるの。魔法も使えなくなった頼りない連中なんだけど、たまたま魔獣と絆を作ってて裏切られなかったみたいでさ。魔獣はあたしたちの戦力にできるでしょ?」
なーるほど、そういうことか。
フィフスエレに潜入したエリイは、この土地で友人や仲間を作っていたようだ。
そして、彼女の仲間たちは人間ができていたので、魔獣とも深く繋がり合って、魔力を失っても見限られなかった。
エリイは彼らを助けるために、森の中を走り回っていたというわけだ。
きっと、バーバリアンたちとはすれ違っていたんだろう。
「ルミイ、これはバルクに連絡するときだな」
「そうですね! パパ呼びましょう!」
「うげっ、パパが来るの!?」
家出同然で飛び出してきたエリイだもんな。
娘ラブのバルクに怒られるかも知れない。
いや、あのバルクのことだ。
めちゃくちゃ甘やかすかも知れない……。
ともかく、精霊魔法を使えないエリイにルミイの連絡を遮る手段はない。
精霊に好かれてるエリイ以上に、ルミイは精霊に愛されてるらしいし。
「ルミイは、全ての魔力が遮られる状況でも精霊を呼ぶことができる特異体質ですからね。魔法を封印されてていても普通に魔法が使えますよ彼女は」
「アカネルが新情報を吐き出してきたんだけど」
「前から言ってたじゃないですか。マスターが興味を示さなかったんです」
そうだっけ。
ヘルプ機能でルミイを見てみる。
『精霊の愛子・精霊の湧き出す泉・精霊特異点の3つの力を持っています。過去、未来において、ルミイのみが持つ能力です』
「凄いチートじゃん」
すぐ近くに凄いのがいた。
だが、ルミイの性格上、この力をほとんど有効に使えないことを、俺はよく知っているのだった。
面白い!
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