第14話 俺の行く先はダメダメか
地図には、近場のレジスタンスのアジトが書き込まれていた。
レジスタンスなのに、もろにアジト書き込むとか大丈夫なの……?
「魔法帝国の人たち、魔法偏重主義なんですよ。だから地図もこういうマーキングも、魔法で描かれたものを探知するんです。魔法じゃなくてこうして普通に書いてると案外気付かないんですよね」
「節穴じゃん」
魔法偏重、よくない。
全ての価値を魔法の有無に置き、魔法が使える、使えないで人間としてのレベルも決定される世界。
それがこの、魔法文明時代なのだった。
ヘルプ機能いわく、魔力を供給し続けるシステムが壊れてしまって、今まさに崩壊の途上にあるということだったが。
それはつまり、空に輝く魔力の星、エーテリアが近く落ちてくるということだったりするのだ。
「やっぱり、こういうのは空から落ちてくるもんだ。俺は詳しいんだ」
「マナビさん何言ってるんですか? エーテリアが落ちてくるわけないじゃないですか! そんな事が起きたら、魔法文明時代の終わりですよう」
「ヘルプ機能が、今まさに魔法文明時代は絶賛崩壊のさなか、みたいに言ってたんだよね」
「えっ、じゃあエーテリアが落ちてくるんですか!? ひええ、それじゃあ魔法文明時代は終わりじゃないですかあ!」
さっきからそう言ってる。
こうして二人賑やかにお喋りしながら、次の街を目指すのだった。
レジスタンスが拠点にしているのは、幾つかの街だ。
さっきの施設は、滅びの塔を監視するためのものだったらしい。
「今度はまともな街だったらいいな」
「そうですねえー。でもわたし、マナビさんと一緒に旅をしていると嫌な予感しかしなかったりするんですよね」
「そうなの? どうして?」
「まだ二箇所ですけど、マナビさんと巡ったところは必ず粉々になってるじゃないですか」
「ほんとだ」
滅びの塔は崩壊し、レジスタンス施設はズタズタだ。
「だけど、まだ二箇所だろ。偶然だよ、偶然。それにどっちもめちゃくちゃになっても全く心が傷まない、ろくでもない場所だったじゃないか」
「そう言われればそうですね! 今度の街はもっとまともなところかも知れないですし……」
そう思って、新しい街へと向かう俺たちなのだった。
そして……時は流れて今。
俺とルミイは難しい顔をしながら、魔導カーを走らせていた。
後ろからは、何台もの魔導カーが追いかけてくる。
「待てえー!! お前たちも、お前たちもアイナ様のファンになろうぜー!!」
「アイナ様を信じているととっても幸せなのよーっ!! 待ってー!!」
「アイナ様の下で人は初めて解放されるんだー!! ちょっと話だけでも聞いていってくれー!!」
うーん。
案の定というか、予測が当たってほしくなかったというか。
その街は、おかしいところだった。
俺たちが到着すると同時に、街の人々は張り付いたような笑顔で近寄ってきたのだ。
服装は素朴なもので、なるほどファンタジー世界っぽい、なんて観察する余裕はあった。
だが、彼らが俺たちを囲み始めたところで余裕は吹っ飛んだ。
アイナ様とやらに、俺たちを引き合わせようとしているらしい。
ルミイは物も言わずに魔導カーのエンジンを掛けた。
そしてアクセル全開で逃げ出す。
ナイス判断だった。
「ねえマナビさん。わたし、嫌な予感が凄く当たる人なんです」
「そうらしい」
今後、ルミイの嫌な予感は信頼しておくことにしよう。
しばらく走ると、街の連中はすぐに追跡を諦め、戻っていった。
ここは、街の姿が見えなくなるギリギリくらいの距離だ。
戻れなくなるのを心配したんだろうか?
「とりあえず、いきなり妙な状況になってしまった。ヘルプ機能、この状況について教えて」
『曖昧な質問には答えられません。キーワードをどうぞ』
「ファジー対応はできないか……。ええと、さっきのおかしな感じになった街の人は何?」
『異世界召喚者アイナによって、チャームされた人々です。アイナに奉仕する存在となっています』
「うわーっ」
「どうしたんですかマナビさん、のけぞって叫んで。ついにおかしくなりましたか」
「ルミイが冷静に恐ろしいことを言う。あのな、ヘルプ機能で調べたんだ。街の人たちがおかしいのは、召喚者の能力によるものらしい」
「召喚者の!? ひええええ!」
「わあ、魔導カーを運転しながらガタガタ震えないでくれえ」
少し行ったところで魔導カーを停めて、今後の対策を話し合うことにする。
まず、街に立ち寄りたいなという気持ちはある。
レジスタンス施設から様々な食物や道具を回収してきたものの、補給の心配は常に付きまとうからだ。
街を見て回って、今後の補給について考えたい。
「それにしても、凄くファンタジー世界って感じの街だったな。レジスタンスは魔導カーとか使ってるのに」
「それはですね、魔力が弱いものは二級帝国民とされるんですよ」
「二級!」
「まともな帝国民として扱われないということですね。ですから、ここに住んでいる人たちは二級という扱いをされていて、魔法が使えないから原始的な生活をしている……と帝国の人たちは考えてるんですよ。ついでに、全く魔力が無いと三級帝国民ということで、それはもう酷い扱いに」
「なるほどなあ」
「魔力が無くても、パパは闘気だけで魔法使いの軍勢を撃破できるのに! 何も分かってません! それにママは強い魔力を持ちますけど、エルフだから自然と調和した生活してますし。基準がおかしいですよねえ」
「うん、そうだねえ」
ルミイがプリプリ怒るので、うんうん頷いておくのだ。
そして、荷台から取り出したガムみたいなのをモグモグやる。
これ、ヘルプ機能で調べたら、歯磨き機能がある魔法の道具らしい。
歯磨きガムではないのか?
だが、噛むほどに歯がツルツルになる。
「んもー! マナビさん、モグモグしながら聞かないでください! だから、魔力が無いからって駄目な人ってわけじゃないんです! むしろ不思議なのは、召喚者がどうしてこの街で暮らしてるかなんですけど……」
「ああ。なんか企んでるのか。それとも自分を姫扱いさせて悦に入ってるのか……。あるいは両方か……」
どちらにせよ、ろくでもない相手が街には潜んでいると、俺は思うのだった。
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