第135話 戦闘終了と合流とバーバリアン
アンドロスコルピオの群れは全滅した。
人の姿が全く無かったな。
魔獣が反逆してこっちも全滅したかな?
なんか、立ち上がった俺を見て絶句している男がいる。
確か、ルサルカ教団のアンデッド使いの一人だったよな。
どうでもいい話である。
「さすがだねえ、マナビ。あたいも支援したけど、必要なかったみたいだね」
ナルカも馬車を降りてきて、いつの間に放っていたのか、アンドロスコルピオたちに刺さっているナイフや手斧を引き抜いている。
これを、纏ったマントの裏側にぶら下げるのだ。
そこに大量の飛び道具を装備してたのか……。
「ああ、これかい? こいつはね、あたいの死んだ友達が憑依してるマントで、重さを軽減してるのさ」
「まさかのお友達連れだったかあ」
ナルカもルサルカの聖女である以上、アンデッドに関わる神聖魔法を使えるのだ。
単純に、死の魔眼を用いた直接攻撃の方が圧倒的に強いからそっちを使っているというだけだな。
なにせ、神の眷属すら死に至らしめる能力だ。
「おや? 一緒に友達がいると何かまずいのかい?」
「うむ……実は俺は最後の奥さんにナルカを狙っているので気まずい……。こんな男やめときなよナルカ! とか言われそうじゃないか」
「そ……そんな下心があったのかい……!? あんた、あたしみたいなのがいいとかもの好きだねえ……」
自分の魅力に無自覚系のヒロインか。
明らかにさっきのアンデッド使いの男とか、恋する男の目でナルカを見てたじゃん。
今が平時なら、きっと彼にも可能性はあったのだろう。
だが、魔力の星が落ちた今、世界は緊急事態なのだ。
力の法則が全てを支配する──。
「マナビさーん」
馬車の中からルミイがにゅるっと出てきた。
「なんだねルミイ。ちゃんと立ち上がって馬車から降りなさい。座ったままこぼれ落ちるみたいにして降りちゃいかん」
「あのですね、ママから連絡が来たんですけど、もうすぐパパたちが合流するそうです」
「おっ、バルクも合流か! 賑やかになるなあ!」
フィフスエレ帝国に大攻勢を仕掛けていた、凍土の王国最強部隊である。
王国の最高戦力が王様なので、最前線に出ているという状況だ。
ルミイ曰く、「兄さんたちはパパの顔を立ててますけど」と言うから、あの双子のハーフエルフ兄弟も、一人ひとりがバルクと互角の可能性があるんだよな。
凍土の王国、並の魔法帝国よりも保有戦力が高いのではないか。
その後、合流地点を指定され、そこまで移動することになった。
道すがら、ルサルカの信者たちがルミイやカオルンにお礼を言っている。
ルミイが馬車の中から行使した精霊魔法が、アンドロスコルピオたちの動きを拘束していたらしい。
お陰で、犠牲者は出ずに済んだと。
カオルンは空を飛び回り、木々の間から飛びかかってくるアンドロスコルピオを、猛烈な勢いで駆逐したそうだ。
真・カオルンとなった今の彼女にとって、アンドロスコルピオなど敵ではないのだ。
魔神将と神の血を宿してて、ホムンクルスボディの弱点を完全に克服したからな。
肉体的にはうちの奥さんで最強だ。
ちなみに、肉体的な成熟度合いも前より多分、一歳ぶんくらい成長しているっぽい。
「荷馬車で運んでくれますから、寝転がってても皆さんの役に立てますもんねえ。楽チンで感謝もされて、すごくいいところですねえ」
ルミイがホクホクしている。
動かないことに対しては、誰よりもこだわりを持つハーフエルフだ。
「カオルンは相手が弱っちくても気にしなくなったのだ! ちょっと大人になったのだなー」
それは本当にそうね。
なお、アカネルは戦況分析などをしていたが、今回はうちの方が圧倒的に強かったので、必要なくなってしまった。
最終的には、馬やゾンビホースたちと遊んでいたそうである。
ドミニク司祭が起き出してくる頃合いに、向こうから松明の群れがやって来た。
「ウオーイ!」
「バーバリアンの呼びかけですよ! パパー!」
ルミイの呼び声が夜の森に響くと、バーバリアンたちの咆哮が返ってきた。
「こわい」
「魔獣よりこわい」
震え上がるルサルカ教団たち。
そうか、テンション上がってる夜のバーバリアンを知らんのだな。
あいつら、知性を持った猛獣だからこんなんだぞ。
木々をへし折って、バルクの巨体が現れた。
月明かりに照らし出される、毛皮を纏ったその姿は、まさにオーガかトロールか。
「パパー!」
ルミイがぴょーんと飛び上がって、バルクに抱きついた。
「おおー、ルミイ! 元気にしてたかー? しばらく見ない間に、またちょっと色っぽくなったんじゃないかー?」
バルクが相好を崩す。
娘バカなパパである。
「それはそうです! わたしだってもう大人になったんですから!」
「ほうほう、大人に! 大人……に……?」
バルク、気づいてしまったか……!!
彼の目の前に立つ俺が、深く頷く。
バルクはルミイを抱きかかえたまま、ガックリと膝を突いた。
「そうか……。ルミイはもう、パパのルミイじゃないんだなあ……」
「なんて寂しそうな声出しやがる。バルク、そういうのは後でだな。ほら、こっち。ルサルカ教団指導者のドミニク司祭」
レッサーヴァンパイアのドミニク司祭は人格者なので、一瞬でバルクの悲しみを見抜いた。
彼の肩に手を置きながら、
「愛する子もまた、新たな命を紡ぐ親となるのです。あなたは親としての責務を果たし、子を新たなる親として育てました。親となった子もまた、新たな命を送り出すでしょう。あなたの愛は失われず、こうして繋がり、連なっていくのですよ」
めっちゃくちゃ優しい声で言うのだ。
「おお……あんたいい事言うなあ」
バルクの傷心がちょっと癒やされたようなのだった。
その後、今後の方針について、バルクとドミニクとの間で会話が交わされている。
俺はルミイの兄の双子王子とおしゃべりなどする。
「ドラゴン出たらしいじゃん。どうだったの」
「あれは強いね。異常に強いよ。さすがは伝説の大魔獣だよ。いや、むしろ伝説を遥かに超えてたね」
「バーバリアンの勇敢な戦士が何人もやられた。皆、婚期を焦る男たちだった。いいところを見せられたら女たちの心にも残っただろうが、一瞬で消し炭と肉片になった」
悲しいことを言うな。
「これ以上の被害はまずいということで、僕らがドラゴンに連携攻撃を仕掛けたんだ」
「僕らはともに精霊魔法と闘気を用いた武技を使える。これを間断なく仕掛け、ドラゴンの爪を三枚剥がした」
「ドラゴンが怯んだところで、全員で逃げたわけさ」
「凄いじゃん」
双子王子も、あちこちダメージを受けた跡がある。
だが、大怪我をしてないのは、彼らがかなり強いからであろう。
「ちなみにその時バルクは?」
「父はドラゴンの眷属と格闘して首を折ってた」
「素手で勝ってたね」
「やっぱあいつはおかしいな」
俺の言葉に、双子王子は実に楽しそうに笑うのだった。
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