第132話 旅の途中とロマンとママ力
たくさんの荷馬車が用意され、一斉にフィフスエレとの国境を目指す。
こんな集団と一緒に行動するのは初めてだなあ。
護衛とは言ったけれど、彼らルサルカ教団にも自衛の能力はある。
アンデッドがたくさんいるし、夜になれば司祭のレッサーヴァンパイア、ドミニクが起きてくる。
こいつが強いらしく、夜間ならガガンともいい勝負できるようなのだ。
夜はおまかせでいいな。
「さすがにガツガツしている当機能も、馬車の中はどうかと思います。もっとロマンチックなところに到着したら致しましょう」
「アカネルはいきなり何を言っているんだ。あ、ナニか」
単純明快だった。
奥さんたちの最後発であるアカネルは、出遅れを取り返したい。
だが、最初の夜はちゃんとしたお宿を使いたい。
複雑な機械……乙女心である。
もうこの人、機械じゃないでしょ。
この間聞いてみたら、「当機能、普通にマスターの赤ちゃんを産めますからね! 任意のタイミングで妊娠できますから!」
なんてとんでもないことを言っていた。
恐ろしい女だ。
だが、俺の旅が続く間は自重するらしい。
身重になったら旅についてこれないもんな。
「カオルンはどこでもいいのだ! マナビ、したいのだ?」
「わたしもそんなに気にしないですねー。あ、じゃあカオルンといっぺんにしちゃいます? マナビさんとすると結構疲れてお腹減るんですよねえ」
「うわーっ、二人共積極的に!!」
「むきーっ」
アカネルも暴れる。
俺に割り当てられた荷馬車は大変賑やかなのである。
ナルカが御者をしているのだが、車内の騒ぎを振り返って一言。
「みんな大事な戦力なんだから、しばらく大人しくしててもらえないかい? あたしが頼める立場じゃないってのは分かってるんだけどさ、ほら、信者の命が掛かってるから……」
「アッハイ」
大人しくなる俺とルミイとアカネル。
ナルカは間違いなく、とっても真面目なのである。
なお、カオルンは特に大人しくならない。
「なるほど、カオルンの力が必要なのだなー。じゃあ、カオルンは早く寝て早起きして、ドミニクの手伝いをするのだ!」
そう言うなり、荷物から毛布を取り出してくるまり、ぐうぐうと眠り始めてしまった。
行動が早い!
「物わかりがよくて助かるね……! 頼むよ、みんな」
荷馬車はルサルカ教団の持ち出しだし、俺たちがありつく食事もルサルカ教団のものだ。
つまり、俺たちは宿と飯で雇われているのだから、ここは雇い主の頼みを聞いておく方が良かろう。
俺の場合、ナルカだから言う事を聞くというのもある……。
下心があるからだぞ。
一発目でチュートリアル世界に入り込める女子。明らかに相性バッチリ。
仲良く(意味深)なりたい。
アカネルとアカシックレコードの前で、これでラストと告げてしまったので、最後のチャンスでもある。
我ながら、まさかたくさんのヒロインに囲まれることになるとはなあ。
うんうん。
「マナビさんがまたエッチなことを考えてますよ。わたしには分かりますからねー」
「マスターは常にエッチなことばかり考えてません?」
俺のことをよく理解している二人なのだ。
さてさて、日暮れころにフィフスエレとの国境に到着した。
相変わらず、見渡す限りの森だ。
ここに夜間入り込むのは危なかろうということで、国境線にて夜を明かすことになる。
焚き火で肉を焼いたり、スープを作ったりしてみんなで飲み食いするのだ。
ウトウトしているカオルンを起こして、飯にやってきた。
暗くなってきたので、ドミニク司祭も棺から出てきたようだ。
「やあ皆さん、昼間は護衛ありがとうございました」
「セブンセンスは平和になったから、何もなかったけどな」
「それもまた、皆さんのお陰です。さらにはこの護衛まで引き受けていただき、本当にありがたい限りです」
俺が知る創作のヴァンパイアを見回しても、ドミニク司祭ほど腰が低くて人間できてる人はいないな……。
彼と、今後の予定について話し合う。
明日の朝から森を超えて、フィフスエレを横断する。
そこでバーバリアンたちと合流し、一旦シクスゼクスまで行ってしまう、と。
ルサルカ・バーバリアン・エルフ連合軍なら、普通にシクスゼクスの魔族兵団より強いらしい。
シクスゼクスを蹂躙しながらイースマスに到着したら、そこにルサルカ教団の街を建設すると。
バーバリアンも補給を行い、アビサルワンズの有志が戦力に加わる。
これで再びシクスゼクスを横断してフィフスエレ攻撃を行う。
こういう作戦だ。
あちらはドラゴンを召喚している。
しっかり体勢を整えねば戦えまい、という話なのだ。
ちなみに、俺はチュートリアルを発動すればまあ勝てるだろうと踏んでいる。
それでも、バーバリアン王バルクこと俺のお義父さんがそれを許さないわけだ。
「パパも頑固ですからねー。マナビさんに全部頼っちゃったら負けだーって思ってるんじゃないかなあ」
「やはり。そんな感じの人だよなあれは」
「ママは全然オッケーって言ってるんですけどねえ」
「やっぱりな。そんな感じだよなお義母さんは。たまーに俺を誘惑してくる……」
「ママは男心を惑わしてきますからね! マナビさんにはわたしがいますからね!」
「うむうむ……。ルミイがベストマッチだと思います。あと、俺は鍛錬がまだ足りないので二人がかりは勘弁して下さい」
俺もルミイのママこと、ルリファレラさんはちょっと怖いからな!
精力的に圧倒されてしまいそうだ。
こっくりこっくりするカオルンに、スープを飲ませたりする。
「美味しいのだ~」
「カオルン、寝ないでちゃんと食べるんだ。食べたら寝ていい」
「美味しいのだ~」
「あー、こぼれた」
「マナビさんがカオルンのママみたいになってますね」
「マスターの意外な一面ですね……! カオルンと一夜を過ごして母性愛に目覚めてしまった……?」
「マナビさんママ……略してママビさんですね! いいですねー。わたしも甘やかされたーい」
好き勝手言うなあ君たちは。
「マナビ、小さい子に食べさせるやり方はこうだよ! よく見てな!」
ここでナルカ。
テキパキとした動作で、半分寝ているカオルンに見事にスープを全部平らげさせ、そのまま抱っこして馬車に連れて行ってしまった。
あれはかなりレベルの高いママ動作である。
戻ってきた彼女を、俺たち三人で称える。
「凄い。ママ力が高い」
「ナルカママですね! 略してママカです!」
「母性愛が強い。あまりにも強力なライバルです!」
「うるさいよあんたたち!?」
面白い!
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