第128話 謎の動き・神核・神殺し
『たわけが! させねえって!!』
技巧神が、周囲一帯を罠に満ちた迷宮に変化させる。
壁が四方八方、上や横からもそそり立ち、そこから殺意に満ちた攻撃が襲いかかってくるのだ。
強酸がぶちまけられ、炎が吹き上がり、極寒の冷気が叩きつけられ、雷撃が放たれる。
これを、カオルンは高速で飛翔しながら回避、あるいは白銀の翼を振るって打ち消す。
「行くのだ! カオルンビット!!」
カオルンが宣言する。
彼女が装備した鎧がバラバラになり、意思を持つかのように飛翔した。
その先端から、カオルン同様の光の刃を生やす。
罠が、壁が切り刻まれる。
カオルンを邪魔するものなどなくなる。
再び鎧となったカオルンビットを装備し、カオルンは技巧神へと斬り込んだ。
『ぬおおおおおっ!! 化け物め!! 神の力にここまで抗うかよ!!』
「今のカオルンは、三分の一くらい神様なのだーっ!!」
光の刃と、光の棍が激しくぶつかり合う。
目にも留まらぬ剣戟だ。
金属音が高く響き渡った。
これを見て、呆然としていたアリスティアとガガンとナルカ。
流石にもう、入り込む余地すらないのでまごまごしている。
「そこで見学してて大丈夫だから! もうちょっとで終わるからなー」
俺は彼らに手を振った。
振りながら、周囲から襲いかかる罠を振り返りもせず、尻移動でジグザグに回避する。
横目でこれを見ていた技巧神が、『なんだそれ!?』と凄く驚いた。
隙ありである。
カオルンは見逃さない。
ざっくり、いい感じの一撃が技巧神の肩に叩き込まれた。
『ぬおおおーっ!! 神殺しをするかよ、魔神との混ざりものが!!』
「カオルンのやることは、戦うことなのだ! それしかできないのだ!! ……と思ってたけど……」
カオルンが俺を見た。
すぐに技巧神に向き直る。
「これからマナビといいことするから、そのためにお前は消えるのだーっ!!」
カオルンの両手のみならず、両足からも刃が出現する。
さらに、翼からも刃が生えて、鎧が再び分離してカオルンビットとなった。
手数が十倍くらいになったな。
それが技巧神に叩きつけられる。
『ぬうおおおおおっ!! なんの、これしきぃぃぃぃっ!! 俺っちは技巧の神だぞぉぉぉぉぉっ!!』
技巧神の腕が複数出現し、それぞれが棍を持つ。
頭も増えた。
三面六臂というやつか。
これで、カオルンと真っ向からやり合うのである。
カオルンの猛攻撃を、弾く弾く弾く。
さすがは技巧神、一見して全く隙がない。だが。
「時は来た」
俺はスーッと戦いの最中に移動していった。
後ろから、ナルカの呆れ声が聞こえてくる。
「なんだってあの男、神を相手にしてるのに平然としてるんだい……!? 当たれば死ぬような罠と攻撃の嵐の中、鼻歌混じりで飛び込んでいったよ」
「それがマナビって男なんだろう。盟友ながら、とんでもねえやつだ……」
「おお……アクシスよ、かの者をお守り下さい」
『わしが(略)いらないんじゃないか』
今バルガイヤーまで会話に加わってなかった?
久々に法国に戻ってこれて嬉しいんだろうな。
で、カオルンと拮抗して動けない技巧神。
俺は、二人が刃と棍を交わし合う隙間にスポッと入った。
『!?』
「マナビ!」
技巧神はびっくり。
カオルンは凄く嬉しそうである。
なんか、彼女からの好感度が突然爆上がりしてカンストした感じがする。
今まで好感度にキャップがされてたのだが、内部でスキスキメーターみたいのが上がって行っていたのかもしれない。
そんな期待する顔をされたら、やるしかないよな。
「やりますかあ、神殺し!」
ネクタイブレードを伸ばし、俺は尻移動からのドリフトと立ち上がりをやってのけた。
無論、罠と二人の攻撃軌道は完全に読んでいる。
回避とかっこいい立ち上がりと、すれ違いざまに技巧神の神核を正確に切り裂くのを同時にやった。
神核って、神様の力の源みたいなものね。
チュートリアルやったら、そういうのがあると分かった。
これを突けば俺でも強大な相手をぶっ倒せる。
それが、最初から存在していたのか、俺が能力を使ったために生まれた攻略法なのかは知らない。
神核を切り裂かれた技巧神は目を見開き、動きを鈍らせながら後退した。
無論、カオルンにボッコボコにされる。
もはや回復不能なほどのダメージを負いながら、技巧神イサルデは俺が切りつけた傷口から、溢れ出す金色の光を手に取った。
何が起きたのかを理解できないでいる。
神は、神核という弱点があったことを知らなかったのだな。
『な……なんじゃこりゃああああああああ!?』
それが技巧神の断末魔だった。
セブンセンス法国を混乱の底に叩き込んでいた黒幕、技巧神イサルデは消滅したのである。
『わしが(略)正確には千年ほど眠り、また復活するぞ! ただし、大半の記憶と力を失っているが!』
解説ありがとう、バルガイヤー。
技巧神の打倒と同時に、空に張られていた神々の結界が破られたのが分かる。
もはや、セブンセンスと外を隔てるものは何も無くなったのだ。
おお、塀の外から、耳慣れたバーバリアンたちの歓声が聞こえるではないか。
あいつら、バルガイヤーに導かれてこっちに来たな。
セブンセンスはバルガイヤーの古巣。つまり、バーバリアンたちにとっても仲間になりうる連中なのだ。
この国は一時的に平和になった。
目覚めた戦神とか、その信者とか、技巧神信者がごねるとは思う。
そいつは後でどうにかしてもらおう。
今は、やり遂げた解放感とともにゆっくりすべき時だ。
オクタゴンもルサルカとよろしくやっているだろう。
ガガンは、向こうでアリスティアに抱きしめられ、顔を真っ赤にして硬直していたりする。
こっちの任務も達成だ。
「マナビ!」
「はいはい」
呼びかけられ、振り返ったら抱きつかれた。
翼も鎧も無くなったカオルンが、俺にむぎゅーっとくっついてくる。
素晴らしい運動能力で、俺の体を上ってきたと思ったら。
カオルンの顔がアップになり、熱烈にキスをされた。
うおーっ、アカネルと、昨夜のルミイ以来!
ルミイとはむちゃくちゃな中でしたので、エッチな思い出とともにあるが。
カオルンのキスが長い!
しばらくしてから離れたら、彼女は肩で息をしているのである。
「息をするの忘れてたのだ! 苦しかったのだー」
そう言って、カオルンが笑った。
屈託のない笑顔である。
彼女はなんか、いろいろなものから解放されたようだ。
良きかな良きかな。
「いいかカオルン。キスされても唇の端をちょっと、こう舌で開けてだな、ここから呼吸をする……」
「えー! なにそれ! ちょっと気持ち悪い動きなのだー!」
カオルンが爆笑したのだった。
面白い!
先が読みたい!
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