表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/196

第127話 寿命・克服・真カオルン

 俺は、チュートリアルを行う際に様々なシチュエーションを想定して行うことにしている。

 例えば、カオルンをその中に含めないでチュートリアルするとか。


 なお、これ、ルミイだけはどうしても近くにいると巻き込まれる。

 あの人だけ特別なのな……。


「ヘルプ機能。一通りやってみて気づいたんだが、カオルンはパワーダウンしているよな?」


『カオルンはパワーダウンしています』


 出会った頃の強さに比べると、最近は明らかにおとなしい。

 光の刃の明度も下がっているし、あまり飛ばなくなっている。


「原因について」


『ホムンクルスとしての肉体に設けられた、リミッター。寿命です』


「あっ、そうか」


 カオルンの肉体はホムンクルスで、ワンザブロー帝国が用意したものだった。

 それを忘れていた。


「あと何年くらい生きられるの?」


『半年です』


「なるほど。リミッターを解除する方法は」


『アカシックレコードに記録されていません』


 つまり、存在しないということである。

 なるほど。

 このままでは、カオルンは半年で死ぬ。


 で、寿命の効果が彼女の肉体に現れてきているということだ。

 カオルンが戦いにはやるのも、食事する時間を惜しむのも納得だ。


 残された時間が少ないのだな。


「では、改めてチュートリアルを再開だ。技巧神イサルデを攻略しつつ……カオルンの寿命を攻略する」


 俺の視界が、バリバリとぶれた。まるで、本来チュートリアルに設けられていた機能の限界を突破し、エラーが発生したみたいだ。

 チュートリアルの表示が消え、戻り、その速度がスローになった。

 あたかも、新しい機能がダウンロードされ、インストールされているかのように。


 さて。

 チュートリアルは、その名の通りのチュートリアルではないと俺は睨んでいる。


 これは恐らく……。


 視界に文字が表示される。


『技巧神イサルデと、カオルンの寿命リミッターを攻略します。チュートリアルモードがver2になりました。チートモードと併記します』


 攻略、訳し方によってはCheats……つまりチート、となる。

 俺の能力とは、アカシックレコードに存在しない攻略方法を作り出し、世界の理を変えること。

 やっぱり、これがチュートリアルモードの真価だったか。


 何度かのチャレンジで、俺は流れを掴む。

 俺の行動が、思考が、世界の法則を捻じ曲げて、神の打倒とカオルンの救済を同時に行うルートを導き出したのだ。


 こうして、俺はチュートリアルからの帰還を行う。

 技巧神イサルデとの戦いが始まる、直前だ。


『てめえ……。何をやった?』


 イサルデが凄い目つきで睨んでくる。


『ほんの僅かだ。ほんの僅かだけだが……今、おめえが戻ってきた瞬間に世界が変わりやがった。世界を変えたのか? まさか。俺っちじゃなきゃ気付かねえくらいに僅かな変化とは言え、こんなことは他の誰にもできねえ』


「ご明察だぞ。俺は世界の有り様を変えられる。具体的には、攻略不可能なものを攻略可能にする」


 ネクタイブレードを伸ばす。

 背後で、カオルンも光の剣を構えた。


 視界の端で、それが明滅しているのが分かる。

 カオルンの顔色も、よく見たら前よりもちょっと悪くなってるのだな。


 すぐ助けるからな。


「なんなのだ、マナビ?」


「なんでもないぞ。後で全部教えるぞ」


「そうなのだなー。じゃあ、今は戦いに集中するのだ!!」


 カオルンが真っ先に、技巧神に飛びかかる。

 半身をコンボの達人に倒されているとは言え、腐っても神。


 カオルンの剣による連続攻撃を、どこからか取り出した光る棍によっていなす。

 そして受け流しながら、カオルンの背中を打つ……というところで、俺が割り込んだ。


 つるりと滑り込んだネクタイブレードが、技巧神の棍をさらに明後日の方向へ受け流した。


『ぬおおおっ!? 馬鹿な!? 俺っちの技があり得ない場所へ流される!?』


「ここから攻撃だぞ。ほいほい」


 俺はネクタイブレードを振り回す。

 これは、技巧神、余裕を持って回避する。


『まぐれか? てめえははっきり言って弱え。あのコンボの達人とかいう化け物よりも、全然弱え。なのに、俺っちの背筋はずっと冷えっ冷えのまんまだ。ここで仕留めなきゃ、危ねえ』


 技巧神の周囲から、光り輝く壁が隆起してきた。

 それは、全てが触れれば即死するトラップだ。


 ギロチン、鉄球、槍衾、電撃網、降り注ぐ矢。

 つまり、俺の得意ジャンルでもある。


 スルリスルリと回避し、前進する俺。

 この罠の群れは何か?


 これこそ、技巧神を守る結界だ。

 一見して隙間など無いほどに発生する罠の数々が、技巧神の攻撃であり、守り。


「うわわっ! き、きついのだーっ!!」


 さすがのカオルンも悲鳴を上げている。

 俺はと言うと……。


 カオルンをチラチラ見ながら、罠が発生する一瞬前にちょっと横に動いたり、ちょっと座ったり、そのまま尻移動したりしながら避けるのだ。


『当たらねえ!? なんだそれ!? 俺っちの罠に隙間なんかねえぞ!!』


「安全地帯というやつだ。罠と罠が干渉して、偶然そこに隙間ができる……」


『そんなもの、ありえねえ!』


「今までは無かった。だが、これからはある」


 それが俺の能力だ。

 俺は罠をかいくぐりながら、あえて後退する。


 罠の嵐に閉口し、進むことができないカオルンのところまで。


『だが!! てめえの弱点は分かってる! この娘だあ! この娘は強えが、弱っていってる! さてはてめえ、すぐに死ぬな!? 命が消え掛けてるな!?』


「そ、そんなことはないのだ!!」


 カオルンがハッとして、言い返す。

 俺に隠していたのだな。

 本人は気づいていたのだ。


 最近、他の女子に紛れておとなしいと思っていたのだが、本当に元気がなくなっていたとは。

 だが、それもここまでだ。


『てめえの全盛期なら分からねえが、今のてめえは簡単に殺せる! さあ、こうだ! こうやって殺す!!』


 罠の中から、突如浮かび上がるように出現する技巧神。

 その腕から、光り輝く棍が伸びた。


 棍はカオルンの胸の中央を一撃で打ち崩す……はずが、既にその真下まで俺が尻移動していたので、目論見を達成できない。

 ネクタイブレードが棍を反らした。

 戦端が、カオルンの鎖骨辺りを削るに留まる。


『また俺っちの攻撃を!! てめえは一体なんなんだ!!』


 その誰何には答えたいが、ここから俺の大事な仕事なのだ。

 技巧神がカオルンに与えた傷の位置は……。

 ちょうど、心臓の真上くらいだ。


「うくっ……!! た、助かったのだ!」


 苦痛に顔をしかめながら、どうにかそれだけ告げるカオルン。


「いや、助けるのはこれからだぞ」


 俺は立ち上がりながら、ネクタイブレードをカオルンの頭上に置いた。

 そこに、


『隙ありだぜ!! 俺っちがこの程度で……って、なんでここに刃が置いてあるんだああああああっ!?』


 出現した技巧神の足が、踵落としをしようとして、刃で深く切り裂かれた。

 イサルデの絶叫とともにばらまかれる、神の血。


 それが、カオルンの傷口に入り込んだ。

 カオルンの心臓は魔神将のものである。

 それをホムンクルスのボディに合わせて、恐らくパワーダウンしている。


 ワンザブロー帝国の魔法使いたちは、カオルンの暴走を恐れたんだろう。

 魔神将の心臓を持つ彼女が自由にならないよう、入れ物である肉体が早く滅びるようにした。


 だがまあ、その心臓を自由にしてしまったらどうなるだろう?

 今、傷口に降り注いだ神の血と、吹き出した魔神将の血が混じり合う。


 それは魔法的反応を起こし、白銀に光り輝きながらカオルンの傷に戻っていくのだ。

 動画を逆再生するように、カオルンの傷口が消えていく。


 そして、彼女の肌色が真っ白なものから、血色のいい薄ピンク色へと変化していった。

 腕から発生した光の刃は、紫色から白銀へ。


 髪のピンク色が、艷やかに輝き出した。


「ほい、カオルンのリミッターを解除だ。寿命のキャップもなくなったから、普通に人間くらい生きられるぞ」


 俺は立ち上がり、周囲の罠を回避しながらカオルンの後ろに回った。


「マ、マナビ……! もしかしてカオルンのこと……」


「嫁さんを助けるのは旦那の役割だからな。元気になったカオルン、夜はエッチな感じでお願いします……!!」


「もう! マナビ、しっぽがお尻に当たるのだ! 仕方ない旦那さんなのだなー。じゃあ、カオルン、さっさとこいつをやっつけて、マナビといいことするのだ!」


 俺が一歩下がると、それに合わせたようにカオルンの背中から、白銀の翼が広がる。

 羽毛の量がめっちゃ増えてるなあ。

 健康的な鳥の翼に見える。


 それと同時に、カオルンの全身に鎧みたいなものが生まれた。

 これこそ、フルアーマーカオルン。

 またの名を、真・カオルン。


 全てのリミッターが外れ、神の血のパワーもゲットした、うちの奥さんたちの中で最強の姿である。


「ゴーゴー! 俺はいい感じのところでとどめを刺す」


「させないのだ! いいところは全部、カオルンがもらうのだー!」

面白い!

先が読みたい!

など思っていただけましたら、下にある☆を増やしたりして応援してくださいますと、作者が大変喜びます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 真カオルンの寿命は人と同じくらいなのね。 でもマナビ死ぬイメージわかないし、もうちょい延ばしちゃえばいいのに。 しかしやばいパワーアップしたなあ。
[一言] 無限回廊視点の違和感はこれかぁ! 1つでも有ればこじ開けるTASだけど、それが0なら1にするチートでもあったのか
[良い点] 涙腺がガバい自覚はあったんですが、今回の更新でじんわりと涙ぐんでしまい自分で自分にびっくりしました 尻移動やネクタイブレードを駆使したバトル回なのに…! カオルン良かったねえ! [気にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ