第120話 チェリー・卒業・生の喜び
『まあ落ち着け、兄弟のワイフたちよ』
ここに割って入ったのがオクタゴンである。
邪神らしからぬ人格者ぶりで、今はそれどころではない事を告げる。
『コンボの達人がうろうろしている。あれは気分で妙なことをやって、策略とか作戦をずたずたにするタイプの男なんだ。あいつがなにかする前に片付けておきたい。マナビがチェリーを卒業するっていうなら一日空けるぞ。こちらは実働部隊でカオルンに頼むからな』
「カオルンに任せるのだー!」
やる気満々のカオルンである。
最近はあまり元気がない気がするが、魔力や闘気抜きでも、彼女ならば神官戦士程度は一蹴できるだろう。
だが、問題はそこではない。
「チチチチチチェリーちゃうわ」
『声が震えているぞ兄弟。ちなみに俺もチェリーだ』
ハッとする俺。
オクタゴンに手を差し出すと、彼もまた俺の手を握り返してきた。
深まる友情!!
「チェリーってなんだ……?」
「女性経験が無いということですね」
「ほうほう」
アカネルに聞いた後のガガンが余裕っぽく頷いている。
ま、まさかお前ーっ。
「バーバリアンは成人すると、年上の女性が手ほどきしてくれるんだ。よっぽどの無能でも無い限りは、そいつの血が受け継がれないと困るから、いつまでも片付かないやつはお見合いがあって結局七割くらい結婚する」
「う、裏切り者めえ。ガガンの嫁探しは考えさせてもらう」
「そ、それは困るぅ」
ガガンが泣きそうな顔になった。
「ガガンのそんな顔初めて見ました!」
「お、オレはルミイじゃなければ一生独身を貫くくらいの気持ちで……!!」
ちなみにバーバリアンの独身者は統計的に寿命が短いらしく、三十代前半までに大体死ぬらしい。
恐ろしい世界だ。
孤独では生きていけないのだな。
まあ、戦いの中で成果を得るため無理をして、突出した結果死ぬものばかりらしいが。
『俺様はチェリー歴が長いから焦らない。だがマナビはそうではないだろう。ワイフを三人抱えており、序列がある。いさかいが起こればコンボの達人の思うツボだ』
「まるでコンボの達人が企みをしているような言い方だなあ」
『何も考えてない男だがな。事は急げだ。慈愛神の歓楽街へ行こう。そして兄弟とルミイを連れ込み宿に放り込んで一日放置する。こちらはカオルンに主導してもらうぞ』
「と……当機能は!?」
『アカネルはヘルプ機能としての役割がある。マナビ、あらかじめアカネルにある程度の権限を渡しておいてくれ。アカネルの知識が必要になる』
「よし」
「よしじゃありませんが!?」
アカネル必死だが、ならぬものはならぬのだ。
己の有能さを悔いる他ない。
ルミイなんか、いてもいなくても変わらないのでこうやって大っぴらに任務を外されるのである。
「今なんだかわたしにシツレイなこと考えてませんでした!?」
「なーんにも。じゃあ行こうルミイ! めくるめく待望のアレのために!」
「む、むむむむっ、行きましょう行きましょう!」
二人で手をつないで、歓楽街へゴーなのである。
俺の頭の中は、すっかりこの後の卒業でいっぱいなのだが、仕事は果たさねばならん。
慈愛神の神殿へ赴き、そこの最高司祭に目通りを願う。
オクタゴンがちょっと出てきたら、すぐに取り次いでもらえた。
慈愛神の最高司祭は、前法皇。
よぼよぼしたおばあちゃんである。
彼女はオクタゴンを見て、目を見開いた後、また元のよぼよぼした感じに戻った。
さすが年の功、無駄に動じたりはしない。
「ほう、邪神の神殿を領域に……? 本来ならば否と答える他ありませんがの」
「魔力の星が落ちた。凍土のバーバリアンのみならず、東方からもバーバリアンが来るぞ。内戦している場合じゃない。意固地な光輝神を呼び出して、分かってもらわないとセブンセンスそのものが消える」
「はい。そうなりましょう。神々の力も、信者の減少によって落ちています。ですがむしろ、今こそ信者拡大の好機。魔力を失った民に信仰を広げるべく、我らは壁を捨てて外の世界へ出るべきかもしれませんのう」
「頭が柔らかいなあ……」
「ほっほっほ、このようにまぶたは垂れ下がっていますが、ババの視野は広くなっておりますからな」
食えない最高司祭だ。
ということで、オクタゴン神殿を設置して、光輝神の危機感を煽るため、協力を得ることができた。
鍛冶神側にも働きかけてくれるという。
慈愛神の神官だというむちむちのお姉ちゃんが説得要員で同行してくれることになった。
ガガンが挙動不審である。
こら! むちむちのカワイイお姉ちゃんだからと言って色目を使うな!
「バーバリアンの勇者は気が多いですからねー」
ルミイがのんきに言った。
こうして……。
最低限の義務は果たした。
オクタゴンに『がんばれよ、兄弟』と肩を叩かれ、ガガンに「ちくしょう……ちくしょう……!! 辛くて悲しいのに、なんだか体の一部が固くなって止まらん!!」とか言われ、いよいよ脳が破壊されだしたかと危惧する俺。
なお、暴れるアカネルはぐるぐる巻きにされ、ガガンに担がれて行ってしまった。
「じゃあマナビ、頑張るのだ! 多分次はカオルンなのだ? 色々終わったらなのだー!」
なんか快活にカオルンに言われてしまった。
ナルカはちょっと赤くなっている。
君もそういう方向に耐性ないね?
さて、ルミイと二人きりになる。
所々の事情で、詳しい事を話すことはできないが……。
まず、俺は女々しくもチュートリアルをした。
するとチュートリアル世界にもルミイがやって来て、お説教された。
シラフで向かい合っているとお互いに緊張して進まないので、お酒を注文してお互いにちょっと飲み、酔っ払った。
よし、行くか!
初回で大いに失敗し、気まずくなった。
お互い言い訳をしまくった後、飯を食い。
二回目。
ど……どうにかいけた! いけたぞ……!!
ヘルプ機能を活用しまくりながらだった。
アカネルの怒りの声が今にも聞こえてきそうである。
ここでルミイから物言い。
「そのう、雰囲気がー!」
全身火照った感じの彼女が、タオルケットを纏いながら抗議してくるのである。
「あっすみません。じゃあ三回目は雰囲気重視で……」
「マナビさん、元気ですよねえ……」
「ずっとある意味禁欲生活だったんで……。あとチュートリアルを繰り返して体が鍛えられていたらしい」
そういうわけで、三回目。
いやあ、生きてて良かった。
七回目辺りでオクタゴンが戻ってきて、呆れているのだった。
『一日中やってたのか!! 呆れた精力だな……! だが喜べ。慈愛神と鍛冶神を味方につけたぞ。彼らの物わかりはいいな。近く、ルサルカも壁の中に招いて俺様との仲を取り持ってくれるそうだ』
「兄弟ウキウキじゃん。俺もなんか生の喜びを知ったので、全力でサポートに回れるぞ! なあルミイ!」
「はい~」
体力を使い切って、ベッドの上でぐでーっとなっているルミイが、へろへろした声で答えるのだった。
ご卒業おめでとうございます
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