第12話 三人称視点・戦乙女の主と煽る男
戦乙女の主の異名を取る、異世界召喚者スローゲイン。
またの名を、刃の雨。
彼の異能は、虚空から召喚する無数の刃と、それを自在に操る能力。
「滅びの塔をぶち壊しに来たら、まさかぶっ壊されてるとはなあ」
彼は唸る。
背中と手足に刃を装備し、棘だらけの甲冑を身につけた男である。
額冠の下で、脱色された金色っぽい髪が揺れている。
「俺のソード・ヴァルキュリアでも破壊できなかった塔を、誰がどうやって壊した? こいつは、俺以外の召喚者が関わっている予感だな」
彼はにやにや笑いながら、周囲を歩き回る。
その背後には、スローゲインに従う魔法戦士たち。
魔法文明時代において、魔力を持たない者は戦士にすらなることができないのだ。
「なあお前ら、どう思う?」
「そ、その通りだと思います!」
そんな魔法戦士たちも、目の前の怪物は恐ろしい。
召喚された者たちは、魔力とか闘気とかそんな次元ではない、とんでもない異能を有しているのだ。
「その通りってのはどういうことだ?」
「そ、その……」
「俺のソード・ヴァルキュリアじゃあ弱くて、塔をぶっ壊せなかったって言うのか?」
「い、いえ、その!」
「そんな塔を壊したヤロウは、俺よりも遥かに強かったって言いたいのか!?」
「ひ、ひいー」
「こりゃあ見せしめに殺しておかないとなあ。ソード・ヴァルキュリア!」
スローゲインの声に応えて、彼の周囲を飛び回る刃が、魔法戦士の一人に向けて飛翔する。
「や、やめっ」
咄嗟に張られた魔法の壁だが、それを刃は易々と貫通。
奥にいた魔法戦士を切り裂き「ウグワーッ!」絶命させた。
「なんだ、俺のソード・ヴァルキュリアはつええじゃねえか。なあお前ら!」
「は、はい!」
魔法戦士たちが頷いた。
スローゲインの刃の前に、並大抵の防御は無力。
これを防ぐには、圧倒的な魔力を注ぎ込んだ防壁が必要となる。
言うなれば、滅びの塔はそれであった。
これが、スローゲインのプライドをいたく傷つけた。
ということで、再び滅びの塔に挑戦したわけだが……。
「しかしよ、誰がこいつをぶっ壊したんだろうなあ。あ、内部から壊されてる? ってことは……滅びの塔の中に送り込まれたヤツかよ。おい、ワンザブローの連中は、失敗作の召喚者を塔にぶちこんで処刑するんだろ? んで、その光景を楽しむとかいう外道のはずだ」
外道はお前もだよ、と魔法戦士たちから思われているスローゲインである。
先程から、にやついていたスローゲインの顔から笑みが消えた。
「……ってことはだぜ。ってことは……こいつ、失敗作だと思われて塔にぶちこまれて、中から塔をぶっ壊したってことか? は? なんだそりゃ? 化け物じゃねえか」
呟いた後、彼はまた笑みを浮かべた。
「ってことはだ! 俺がそいつをぶっ殺せば、実質俺が滅びの塔をぶち壊したってことになるんじゃねえのか!? なあお前ら!」
「は、はい!」
スローゲインは、うんうんと頷く。
「なら話がはええ。さてと」
ツーブロッカー帝国の召喚者は、ぶらぶらと歩みを進めながら、空に手をかざした。
彼の周囲に輝く球体が無数に生まれ、そこから刃が出現する。
気づけば、数を数えることすらできないほどのソード・ヴァルキュリアが浮遊していた。
「探れ、ソード・ヴァルキュリア。この辺りに塔を壊した召喚者がいる。そいつを見つけ出せ。そして殺せ!」
主に忠実な刃は、行動を開始した。
それらが、目的のものを探知するやり方は簡単。
隙間なく飛び回り続け、触れたものを主に伝えるのだ。
どのような視認できなかろうが、探知魔法避けが掛かっていようと、直接触れに来るものには無力だ。
すぐにスローゲインは、対象を発見した。
「ほう、でかい建造物か。探知避けがされているということは……ワンザブローのものじゃねえな。レジスタンスってところか。この間潰した連中と一緒だろ」
彼は鼻を鳴らし、その後に少し考えた。
「ってことは……。滅びの塔に送り込まれたヤツなら、ワンザブローに恨みを持ってレジスタンスに入ることもあるよな。なあお前ら」
「は、はい! つまり、こちらの仲間にできるかも……」
「俺に意見するんじゃねえ!」
「ウグワーッ!!」
また一人、魔法戦士が倒れる。
彼らは皆、口をつぐんだ。
この召喚者の前では、何かを口にしただけで命取りになる。
「仲間とか言ってんじゃないよ。俺よりも先に滅びの塔をぶっ壊した野郎だぞ? 俺が殺さなくてどうするよ。そぉれ! 切り裂け、ソード・ヴァルキュリア!」
命令に従い、刃が嵐となって吹き荒れた。
視認も魔法による探知も許さなかった建造物は、あっという間にずたずたにされ、その姿をあらわにした。
石材で作られた神殿のような建物である。
だが、今はもう完全に破壊され、あちこちからレジスタンスであろう死体が転がり出ていた。
「三分くらいか? ま、こんなもんだろう」
跡形を留めぬ建造物を見回し、念のために刃の雨をさらに降り注がせてから、スローゲインは満足気に頷いた。
「おい、戻るぞ。転移の魔法を使わせろ」
「は、はい!!」
魔法戦士に命じ、ツーブロッカー帝国への帰還を行う。
「召喚者とやらがいたんだろうが、抵抗も無かったな。ま、俺相手じゃ仕方ねえよなあ」
実に愉快、と口角を吊り上げながら、最後に建造物を振り返ったスローゲイン。
だが、彼の目は次の瞬間、驚愕に見開かれた。
そこには、落ちた瓦礫が奇跡的に積み重なり、家屋のようになった場所が存在していた。
そして、家屋は偶然、刃の死角になっていたらしい。
瓦礫の間から、ひょこっと男が顔を出したのだ。
彼は明らかにスローゲインを視認しており、立ち上がるとにっこり笑った。
そしておもむろに、ダブルピース。
「あっ、あいつっ……! あいっつっ……!? おい、止めろ! 転移止めろ!」
「ダメです、止まりません! 転移魔法は途中で止めることは……」
「くそっ! あの野郎! あいつだ! あいつが塔を壊した召喚者だ! 俺の刃の雨からも生き残ってやがった! おい、お前! 覚えてろ! 必ずお前を殺して……」
生き残りの男は、スッとスローゲインに尻を向けた。
そして、股間から顔を覗かせて手を振る。
「がああああああああ!? あの野郎! 殺す殺す殺す殺す殺す! 次には絶対に殺す!!」
それは、スローゲインが異世界に召喚されて初めて味わった、強烈な屈辱だった。
相手は完全に、転移魔法が発動するタイミングを待っていた。
そして転移魔法中には手出しされてこないことを分かって、徹底的におちょくってきたのだ。
かくして、ツーブロッカー帝国の召喚者、スローゲインに宿敵が生まれた。
「マナビさん、何やってるんですか?」
「ちょっと挨拶をね。なんか面白そうな人がいたんだ」
「面白そうな……? 召喚者だったりしないんですか? こんな、レジスタンスの人たちを一瞬で全滅させるみたいな」
「そうかもしれない……。だが、半分くらいあの人の戦い方は覚えたし」
「うーん、マナビさんが言うと凄い説得力です……!!」
「わっはっは。そんなことよりもルミイ、あれしよう、あれ。家探し。絶対に食べ物とか旅のための道具とかあるって」
「マナビさんはたくましいなあー! ……って、あれ!? さっきいなくなったのがもしかして、別の国の召喚者……!?」
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