第115話 策・根回し・正体見たり
「策を授ける……」
「策だって!?」
ガガンが食いついてきた。
時間は連続してて、さっきの話し合いの続きである。
「アカネル、ヘルプ機能に確認だけど、各教団に間者が入り込んでるんだよな?」
「はい。スナークはルサルカを除く全ての教団にいます」
アカネルが答えたら、ナルカが変な顔をした。
「うちにいないのは結構なんだけどさ。なんか仲間はずれみたいで釈然としないねえ……」
「それは簡単ですよ。ルサルカ教団はある意味、六大教団から仲間はずれにされているではないですか」
「うぐぐ、言い方ぁ」
アカネルが明確な物言いをしたので、ナルカが傷ついてしまった。
でもその通りだな。
最初から仲間はずれにされていて、敵対者だから影響力の少ないルサルカ教団。
シクスゼクスは、この教団は敗れて散り散りになるとでも踏んだのだろう。
魔力の星が落ちない前提である。
ナルカに聞いたところ、教団内部でも通常の魔法は使用されていて、神聖魔法が使えない者は普通の魔法を使って奉仕していたらしい。
だから、魔力の星の落下で魔法が使えない者が多数になって、他の教団はパワーダウンしている。
ルサルカ教団は、生前に契約済みのアンデッドがたくさんいるので、戦力が落ちていない。
「それで、策ってなんだ! オレがアリスティアさんに近づける、イカした作戦があるのか!」
「おう、あるとも。というか、誰も不幸せにならずにガガンとアリスティアをくっつけるにはこれしかない、と言っていいだろう!」
「うおおおー!!」
興奮するガガン。
「マスターが大きなことを言ってます!」
「そんな上手い話があるものかねえ」
アカネルとナルカは懐疑的な様子。
ふふふ、聞いて驚くがいい。
「いいか。まず俺たちは、謎の正義の味方として活動する」
「ほう、正義の味方!」
ガガン、何を言っても前向きに反応してくれるな。
こういうのは信じてもらって、そのために力を尽くしてくれれば成功率が上がるのだ。
いいぞいいぞ。
「そうだ。つまりな、各教団の中にいる間者を次々白日の下に晒し、断罪するんだ」
「なるほどなあ! 正体を現してしまえば、あいつらも納得せざるを得ないというわけか!」
「そういうこと。ということで、知識神のところに行くぞ。確か中立勢だったはず」
「いえ、マスター。知識神は争っている側です」
「そうだっけ。でも、一番話が通じそうじゃない」
思い立ったが吉日。
俺はすぐに行動を開始した。
なぜ、最初に知識神のところに行ったかと言うと……。
「何者ですか、あなたがたは!」
知識神の神官戦士が俺たちを止めてくる。
本の形の聖印が刻まれた、装飾の美しい槍を持っているな。
戦闘力はあまり高そうではないが、魔法とか使ってきそうだ。
「ああ、俺たちはな、知識神に近い権能を持つ神的なサムシングから教えられ、あんたたちの中にいるシクスゼクス帝国の間者を暴き出しに来た」
俺は全部告げた。
一言も嘘は口にしていない。
アカシックレコードは、知識量だけなら知識神を間違いなく超越するだろうし。
「待っていなさい。知識神にお伺いを立てます。インスピレーション……!」
神聖魔法を使ったらしい。
すぐさま、知識神から返答が来たようだ。
神官戦士は驚いた顔で、道を開けた。
「通って下さい。知識神が、あなた方の手を借りるべきだと仰っていました。私のような神官に直接声を届けてくださるとは……。あなたがたは一体?」
「さる理由から、君たちと利益を同じくしている者だよ」
キリッとした感じで告げる俺なのだった。
なお、ペンダントから聞こえてくるオクタゴンの声。
『知識神とも直接やりとりしてみたぞ。間者は奥深く入り込んでいる可能性があるが、見分けがつかないらしい。正しい知識の伝承が不可能になるかもしれないから、手伝ってくれるなら嬉しいそうだ』
「さすが知識神、理性的だなあ」
うちの邪神も裏から手を回してくれていたのだ。
なお、潔癖症な光輝神、邪神を倒しに来る戦神、よく裏切ったりしてくる技巧神などは、オクタゴンからすると与しにくい相手なのだとか。
こうして、俺たちは知識神の最高司祭と面会した。
オジイチャンである。
「我が神のお告げを聞きました。知識神イクシャードはあなたがたの助けを受け入れることを決め、ルサルカ教団との争いをやめましょう。何やら、仲介者の神? というお方が降臨されたそうで」
オクタゴン、存在感を見せつけてくれる。
邪神なのに立ち回りがクレバーだぞ。
まさかこれが、ルサルカへの下心から来ているとは思うまい。
そしてこちらが知識神に接触したのも、ガガンの嫁探しという下心からなのだ!
「じゃあ、早速間者をあぶり出す。誰かついてきてくれ」
「では、私が」
オジイチャンの横に立っていた、イケメンメガネ男子がやって来た。
グラーシズと言う名前だ。
「どうやって間者を探し出すのですか? そもそも、何者が入り込んでいるのですか。どうやってその知識を得たのですか?」
グラーシズがガンガン質問してくる。
知識欲旺盛!
「俺はヘルプ機能という神みたいなのがついててな。それの託宣を受けるのがこちらのアカネル」
「当機能です」
「ははあ、なるほど。知識というよりは、真実を知るような神なのですね」
自分で納得したようだ。
ここは、知識神のお株を奪うようなことはしないほうがいい。
知識では勝てないなー、と花を持たせておけば、あちらも顔が立つから友好的にしてくれるのだ。
「そんなもん。じゃあアカネル、ヘルプ機能に聞いてくれ。どいつがスナークだ」
「はい。彼です」
アカネルが指さしたのは、知識神の大聖堂を守っている兵士の一人だった。
名指しで指差された瞬間、その男の表情がこわばる。
「ば、バカな! なんの証拠が……」
「そうですよ。彼はずっと前から、真面目に守衛をやってくれている兵士です。奇跡こそ使えませんが、その信心は本物で……」
グラーシズが彼を援護する。
だが、アカシックレコードは間違わない。
「ガガン、やっちまえ!」
「おう! うおおー!!」
ガガンが兵士に襲いかかった。
慌てて対抗する兵士だが、彼の槍は鋼の拳にへし折られ、盾も砕かれた。
「な、なんということを!!」
グラーシズが悲鳴を上げる。
だが彼の眼の前で、兵士は舌打ちをすると、その姿を変化させた。
無数の触手を背中から生やした、巨大な黒いキツネみたいな魔族だ。
これがスナークか。
「えっ!? か……彼が怪物になってしまった!?」
逃げようとするスナークだが、一流の戦士であるガガンが逃がすわけがない。
闘気で赤熱した拳が、スナークの跳躍よりも早く打ち込まれた。
「ウグワーッ!!」
断末魔を叫び、バラバラに砕け散るスナーク。
拳の一撃だから、ちゃんと体のパーツが残ってる。
よしよし、これは何よりの証拠になることだろう。
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