第114話 大聖女・一大告白その一・何も答えてくれない
男にたぶらかされたが、聖女としての資質は失われていなかった。
どういうことだろう?
これにも、ヘルプ機能から答えを受けたアカネルは、懇切丁寧に答えてくれた。
「聖女としての資質は、そのー、男性経験があるか無いかとか全然関係なくて、個人の才能と人間性によるそうです。結局アリスティアは能力で洗脳されて大変なことになったわけで、御本人の高潔な精神は少しも失われていないので、聖女続行です」
「なーんだ」
俺は納得した。
納得しないのはナルカだ。
「な、なんだってー! じゃああいつ、全然パワーダウンしてなかったんじゃないか! 道理であたいの軍勢が大苦戦するはずだよ!」
ぷりぷり怒っている。
で、同時にちょっと唇の端が笑っていた。
「ちょい嬉しかったりする?」
「そ、そんなことはないよ!! 幼なじみのあいつがしょうもない男になびいたって聞いた時、あたいはむちゃくちゃ怒って絶交したんだから!」
ははーん。
幼なじみねえ……。
これはニヤニヤせざるを得ない。
アカネルも俺みたいな顔をしてナルカを見ていた。
「二人してなんだいなんだい! シクスゼクスの間者のことはいいのかい!?」
「おっと、そうだった」
本来の目的に戻らないとな。
聖女アリスティアについては確認できた。
聖女として認定されるような精神を持っているということは、卑怯なことはしないだろうし、恐らく会話が通じる。
こっちは後回しにしてもいい。
すぐ対処すべきなのは、間者どものことだな……。
ふと、同行しているマッチョが静かなのに気づいた。
振り返ると、ガガンはポカーンと口を開け、アリスティアの姿を凝視している。
そっか、この間出会った時は戦いのさなかで、アリスティアをよく見ることができなかったもんな。
「き、き、綺麗だ……。やっぱり女神様だ……」
「あっ、こいつ完全に一目惚れしてやがったな」
同じ男として、俺は察した。
よりによって、光輝神の聖女にして、間違いなくセブンセンスで最もキラキラしている系女子のアリスティアか!
だが、俺も男である。二言はない。
「よし、ガガン。お前とアリスティアをくっつける!! 俺が全力でサポートする!!」
「ほ、本当かーっ!!」
ガガンが叫びながら、俺を掴んでゆさゆさした。
「ウグワー」
「マスターが振動しています! っと、それよりもガガンさん、声が大きすぎます! 感づかれました!」
アリスティアがお供も連れず、訝しげな顔をしながら近づいてくるではないか。聖女なのにお供つかないの? もしかして凄く冷遇されてない。
まあ、ここは撤退だ。
だがしかしガガン、いつまでもこの場を離れない。
「何者ですか!」
アリスティアの誰何が聞こえる。
おお、可愛い系の声だ。
ナルカはちょっと低い姉御肌の声で、対比がとてもいいな。
そしてこの問いかけに対して、俺は無視しようとしたんだが、ガガンが大声で応じるのだ。
「凍土の王国の戦士、ガガン!! 故あってこの地に推参した! バーバリアンはあなたの敵にあらず! 世界を揺るがすは異なる脅威! 今は分かりあえなくとも、必ずやあなたの力になろう!!」
「ガガン、かっこいいこと言えるじゃん!!」
俺は感動した。
そして、ガガンが宣言の後、唇を紫色にしてガクガク震えているのを見て、こいつが心のパワーを使い果たしたのを知った。
よくやったガガン! もう十分だ!
「撤収!!」
俺は宣言し、駆け出した。
慌てて、アカネルとナルカもついてくる。
心のパワーを使い果たしたガガンは動けない!
ペンダントからオクタゴンの腕がニューっと出てきて、ガガンを掴んでつまみ上げた。
そのまま持っていってくれる。
便利便利。
この姿に、アリスティアは驚愕したようである。
そして、去りゆくガガンの姿をじっと見ていた……らしい。後でオクタゴンに聞いた。
特に害をなすこともなく去っていく俺たちなのだ。
そして、光輝神の神殿の裏側。
案外、こういうところが死角なのである。
オクタゴンまで出てきて、五人で作戦会議だ。
「はわわわわ、尊い……。無理……。心臓が止まるかと思った」
「ガガン、乙女みたいな事言ってやがるな。その尊い聖女とくっつくんだぞお前。全力でサポートするからな。とりあえず強い印象を残せてる。ファーストインパクトとしてはかなりいいぞ! 俺が保証する」
「マスターは詳しいようですが、そう言う経験が?」
「恋人いない歴=年齢で、そのままいきなり三人と結婚したぞ」
「あてにならないにも程があるね!?」
ナルカに呆れられてしまった。
『まあまあ。これはつまり、俺様もガガンも先の見通しがついたということではないか。俺様、ちょいちょいルサルカにモーションを掛けているぞ。ステディというものがいた事がないからやり方がさっぱり分からんが、イースマスのピザとハンバーガーがどれだけ美味いかプレゼンしてた』
「あっ、モテない感じの仕草……!!」
『いかに兄弟だろうと言っていいことと悪いことがあるぞ!!』
オクタゴン、怒った!
気にしてたんだな。
「えっ、うちの神様を口説いてるのかい……? ええ……」
ナルカ、ドン引きである。
神話の中では、神々の結婚なんかはよく語られる。
だが、そういうのが現在進行系で行われるのは、なかなか出会えないのではないか。
「とりあえず、二人ともお相手は見つかって、今モーションを掛けている最中だ。オクタゴンのためには、六大神がホイホイ復活の神聖魔法を使う状況を改めさせ、ルサルカと彼らの中を取り持たないとだし、ガガンのためには内戦を止めさせて、アリスティアと話ができる状態にした上で好感度も上げていかないとなんだな」
うーむ、と俺は考える。
「難易度が高いミッションだ。今までで最難関じゃないか」
「マスター、力押し以外は基本的に苦手ですもんね。あるいは釣り野伏せ戦法とかですもんね」
「ああ、こっちから働きかけて、穏便に状況を動かすとか難しすぎる。人間関係は叩いて壊すくらいしかやり方を知らないんだ」
これはまずい。
俺、オクタゴン、ガガン。
男側は力押し三銃士である。
恋の成就という難敵を相手に、いかに立ち向かえばいいのか。
だが、頼みのチュートリアルは何も答えてはくれないのだ。