第105話 旅立ちから戦闘遭遇へ
翌朝。
奮然と朝飯を頬張る俺とルミイ。
どこかホッとした顔で朝食をもぐもぐしているアカネル。
カオルンはいつも通りだが、以前よりも食べるようになって来ている気がする。
「もう旅立つの?」
対面にいるルリファレラの言葉に、俺は頷いた。
「状況を解決しないことには、えっちなこともおちおちしてられないんだ。また水を差されるかもしれない。万難を排して一晩中えっちなことをしたい」
「まあ情熱的! 私、そういう殿方は好きよ。まあ、うちの人は戦場だろうとすることはしちゃうけど」
「マナビさんはシチュエーションとか大事にする人なんです! もちろん、わたしもです!」
「そうだそうだ」
俺とルミイで頷きあうのである。
お風呂なんかも、基本的には一件落着してからじっくり楽しんだものである。
安心できない状況では、集中することが叶わないではないか。
「当機能としては、ゆっくりと目的を果たしていただいて構わないのですが。当方にも心の準備というものがありますしー」
むむっ、アカネル、なかなかのヘタレだぞ。
うちの女子はヘタレしかいないかも知れん。
「何の話なのだ? 裸でくっつくやつなのだ? なんだ、マナビはカオルンと裸でくっつきたかったのだなー。いつでもいいのだ」
「なんだって」
衝撃的なカオルンの言葉に、俺は座ったまま椅子ごと飛び上がった。
君はそういうのにひたすら疎いのかと思っていた。
「カオルンは密偵をして世界中を旅してたのだ! だから人間の営みは一通り知ってるのだ! カオルンは経験無いけど、やってるひとがよくいたので問題ない事なのだ。どーんと来るのだ!」
「では今度お言葉に甘えて……」
「ダメですー!! 順番ですー!!」
「ウグワー! ルミイ、太ももをつねるなー!」
アカネルはアカネルで、「ということは当機能がちょっと雰囲気出して迫っても許されそうな……? いけそう」とか呟いているし。
こんな様子を見て、ルリファレラはとてもいい笑顔をしていた。
「孫がすぐ見れそう。嬉しいわあ。マナビくん。早く世界を平和にしてしまってね」
とんでもないことを仰るのだった。
さて、朝食を終え、旅の準備も整え、外に出ると魔導バギーがある。
雪が払われ、いつでも走れる態勢になっている。
後部座席には、既にガガンの姿があった。
「来たか、マナビ! ルミイ! 行くぞ! すぐ行こう!」
ガガンの鼻息は荒い。
嫁探しを、バルクから正式に認められたのである。
大手を振って奥さんを探せる。
ルミイへの思いを断ち切るのだ、ガガンよ!
ということで、運転席にアカネルがついた。
彼女は長時間運転をものともしない……というか、本当に機械らしく、正確な運転を疲労なく長時間実行できるのだ。
あんなに張りがあってぷにぷに柔らかいところもあるのに、機械とは。
解せぬ。
助手席にカオルン。
その後ろにガガンで、俺とルミイは隣に座った。
おお、巨漢のガガンがいるだけで狭くなる。
ルミイがむぎゅっとくっついて来ているぞ。
詰め過ぎではないか?
「いいんですいいんです。わたしたち、もう夫婦なんですから!」
「それもそうか。いちゃいちゃいしよう……」
「うっ、オレのハートがしくしく痛む」
「いちゃいちゃはガガンに相手が見つかるまでお預けにしておこう……」
「ええーっ」
俺は繊細な男心がよく分かるのだ。
ガガン泣いちゃいそうだったからな!
男は恋心を吹っ切るのに大変時間がかかる生き物なのである。
「くっ、ルミイとくっついているな? くそっ、だが俺が認めた結婚だ。許そう……。だが、ルミイに万一の事があれば再び決闘だからな!!」
バルクが俺たちに言うべき言葉を忘れて、なんか娘溺愛パパな発言を繰り返している。
ルリファレラが、バルクの尻をつねった。
「ウグワーッ!」
筋肉ムキムキのバルクの尻をつねって悲鳴を上げさせるとは。
恐るべし、エルフの戦士。
「あなた、そうじゃないでしょう。王として激励の言葉を掛けなくちゃ」
「そうだったな……。いいか、お前たち。世界は今、混乱の最中にある。この時代はしばらく続き、魔法使いどもが支配していた世界が終わるだろう。時代は我ら、魔法を持たず、力によって生きるものたちのものになる。そのために、戦いが起きるだろう。見極めろ。世界の混乱の中で、何が我らの味方になるのか、敵になるのか。ルミイ! マナビ! ガガン! 任せたぞ!」
この言葉の後、バーバリアンたちがうおおおーっと盛り上がった。
エルフたちも、うんうん頷いている。
ここで、ルミイの兄二人が近づいてきた。
「僕らは割と、次の時代に期待している。それは、君のような面白いやつが次々に現れそうな気がするからだ」
「実力の時代が来るだろう。僕たちは立場上、君たちについてはいけない。だけど、後々面白い話を聞かせてもらえることを期待している。頑張ってきてくれ」
なんと話の分かる男たちだ。
しかも魔法帝国の連中よりよっぽど知的である。
「よし分かった。面白いネタをたくさん仕入れて来よう。話はメモしていつでも聞かせられるようにする」
二人の兄の顔がほころんだ。
凄く嬉しそうじゃん。
この世界にもいい人はいるもんだなあ。
なんか、ガガンが凄く緊張してるが。
「お、おいマナビ! お二人とも凄い方なんだからな! 凍土の王国最強の戦士と言えば、バイスとサイのお二人なんだ。もうじきバルク様すら凌ぐと言われているお二人で、二人が力を合わせればそれだけで魔法帝国一つに匹敵するというな……」
「とんでもない強さじゃん」
驚いた。
強さと物腰は何の関係も無いんだな。
ガガンからすると、憧れの戦士みたいなものでもあるようだ。
ルミイはにへにへ笑いながら、兄たちに手を振っていた。
これは、兄に甘える妹の姿だな。
二人の兄は、俺にルミイを守れとか何とかは、一言も言わない。
言う必要がないと分かっているんだろう。
頭いいなあ。
スリッピー帝国の教授に相当するのがこの二人なんだろう。
全く手の内を見せはしなかったが、なんか底知れない物を感じるのだった。
こうして、俺たちはまたまた旅立つ。
凍土の王国を後に、バギーは雪原を疾走するのだ。
王国が遠ざかり、向かう先には茶色い地面が見えてくる。
あそこから、気候が変わる。
パルメディアの気候は大雑把で、土地ごとに極端に変化する。
なにせ、凍土の王国のお隣りにあるシクスゼクスは普通に温暖だったもんな。
今度のセブンセンスはどんな土地柄なのやら……。
物見遊山気分で、バギーを走らせて、国境を超える。
そこで早速聴こえてくるのは、わあわあという喧騒だった。
これは……早速戦争をしているな?
真っ白な連中と、紫色の連中が激しく争っているのが見えた。
ガガンが唸る。
「おい、マナビ、あれは……」
「ああ。魔力の星が落ちても、連中は内戦を止めていないようだ。ちょっと見ていくとしよう」
(凍土の王国編 おわり)
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