第101話 スニークミッションから箱の中へ
俺とルミイの結婚が決まったら、後は話が早かった。
結婚式の準備が始まったのだ。
俺が邪神っぽいものとトモダチであることとか、明らかに蛮神に敵対する勢力なのではないかということは置いておかれた。
王であるバルクが認めたからだな。
それに俺は超強いというのを見せつけたので、異議があるやつも口出しするのがちょっと怖いらしい。
そんなわけで、王国のあちこちで大工仕事が行われている。
会場を作ってるんだな。
「結婚式ってのは盛大にやるんだなあ」
俺がぼんやりしながら呟いたら、ガガンが「わはは」と笑った。
「マナビ、お前は賢いと思ってたがちょこちょこ鈍いところがあるな。いいか。これはルミイとお前だからこそ大仰な事になってるんだ」
「そうなのか!」
そうだぞ、と頷くガガン。
かいつまんで説明をしてくれた。
一般のバーバリアンたちなら、簡単な宴をやってそれを結婚式にしてしまうそうだ。
エルフたちは精霊に結婚を伝え、彼らの祝福を受ける。傍目には地味なんだそうだ。
だが、ルミイは王族の末姫。
しかもバルクの子で最初に結婚するのだ。
ちなみにバーバリアン王にはあと二人奥さんがいるが、まだ小さい女の子ばかりが四人いるのだとか。
ルミイが嫁いだ今、バーバリアン男子たちはこの娘たちを、将来自分の奥さんにすべく研鑽を積み始めているらしい。
「結婚というのは、一族の外にいるものを取り込む意味がある」
「ふむふむ」
「個人的なものではないんだ。魔法使いどもはそこが分かってない。だからだんだん弱くなっていってる」
「ほうほう」
「凍土の王国は、マナビ、お前を仲間に取り込んだんだ。これで王国はさらに強くなる。もう魔法帝国にも負けない。蛮神の他に、もう一柱の神も味方になるんだからな」
「なーるほど、そういうことか!」
内部に対しても、外に対しても、凍土の王国は強大なものと同盟を結んだのだと見せつけるための儀式でもあるんだな。
『そういうことかあ。なんだ、なら俺様、そっちに行って宴のご相伴に与りたいぞ』
「オクタゴンが来ると狂気が撒き散らされるからなあ」
『半日我慢できる。ってことで、式には顔をだすぞ』
そういうことになった。
邪神オクタゴン、結婚式に参列!!
この衝撃的な一報は、瞬く間に王国を駆け巡った。
結婚式を準備する人々はめちゃくちゃ熱が入り、会場がかなり豪華になった。
あちこちに丸太で柱が完成し、装飾が彫り込まれている。
この上から、塗料をつけていくのだそうだ。
俺はと言うと……。
バーバリアンのおばさんたちがやって来て、ワイワイと体の寸法を測っていった。
「あら、ひ弱に見えたけど案外筋肉ついてるわね!」
「これは体が小さいから分からないだけね。いいじゃないいいじゃない」
「やめてくださいセクハラですあーれー」
おばさんにペタペタ触られる俺なのだった。
なお、この数日女子たちには会えていない。
ルミイなら分かる。
専用のドレスかなんか作ってるんだろう。
それに儀式みたいなのを覚えなきゃいけないらしく、缶詰になってるのだ。
カオルンとアカネルはどうしたんだ。
ヘルプ機能を呼び出せるが、連絡はつかない。
こ、この行方不明感……。
まさかNTR……!!
俺はガクガク震えた。
の、脳が破壊される!
ということで、俺は宮殿に忍び込むことにしたのだった。
チュートリアルを駆使し、守りについているバーバリアンを回避していく。
みんな浮かれていて、まさか花婿がスニークミッションしてくるとは思ってもいない。
俺は壁を這い、天井にぶら下がりながら移動した。
そして花嫁の部屋っぽいのを発見!
刺繍がいっぱいされた布が運び込まれていくぞ。
そろり、と隙間から覗いた。
すると、そこにいたカオルンと目が合ったのだった。
俺は素早く、口元に人差し指を立てて静かにしてもらうよう要請する。
ちなみに、カオルンは可愛いドレスを着ており、なんか退屈そうだった。
こっちにトトトっと走ってきて、
「マナビ、カオルンは暇で死にそうなのだ。なんか、カオルンとアカネルの服も作るみたいなのだ。大変そうなのだー。冒険の話とかたくさん聞かれてお話したのだ。お話よりもカオルンは外に出たいのだー。でも、結婚式の明後日まで駄目なのだー」
おお、しなしなとしている。
しかし、どうしてカオルンとアカネルまで必要なのだ。
解せぬ。
なんか儀式に必要なサムシングがあるんだろうか。
俺はカオルンに別れを告げ、またスニークアクションに戻った。
シャカシャカ移動し、誰かが通りかかると素早く箱を被り、やり過ごす。
「誰かいたような……。いや、何の気配もない」
通りかかったやつがいなくなった。
チュートリアルはこういうのにも使えるのだ。
途中、アカネルの部屋も発見した。
あいつめ、何を嬉しそうにニコニコして、スカートの裾を摘んでくるっと回ったりしているのか。
超可愛いではないか。
ちょっと見とれてたら、宮殿の廊下を歩く人々に見つかりそうになったので、慌てて箱を被ってやり過ごした。
そして移動を再開。
宮殿最深部にて、ルミイを発見したのだった。
ここまで、大型の施設の中を移動しているようだったが、凍土の王国の宮殿はそこまで広くない。
小規模な小学校くらいの大きさなのだ。
ルミイがいたのは自室……つまり四階だった。
そこで、何やらおばちゃんに、式の中で読み上げる言葉みたいなのを教えてもらっている。
一生懸命にこれを繰り返してるのはなかなか可愛い。
俺は箱の隙間から、ニコニコしながらこれを見守った。
「ルミイ様良かったですねえ。ここにいたころは、宮殿でずっとつまらなそうな顔をされてたのに」
「そうですか? わたし、ニコニコしてたんですけど」
「あたしは宮殿で働いて長いんですよ。それにルミイ様よりもずっと長く女をやってますから。相手がつまらなそうだとか、今とっても嬉しそうだとかよーく分かるんです」
おばちゃんはそう言いながら笑った。
「ルミイ様がさらわれた時は、もう二度と会えないもんだと思ってましたけど。まさかとんでもないお婿さんを連れてこられるとはねえ……。バルク様を正面からぶちのめす男なんて、あたしゃ初めて見ましたよ! あの人、子供の頃から負け知らずですから」
「パパは強いもの。だけどマナビさんはもーっと強いかもですよ?」
「そのマナビさんの事を言ってる時、ルミイ様の声がちょっと高くなるんですよ。本当に大好きなんですねえ」
「あひー」
な、な、なんだってー!!
俺は動揺のあまり、箱の中でガクガクと震えた。
箱が音を立てる。
流石に気付かれた。
「く、曲者だよー!! みんな来ておくれー!!」
宮殿の中のバーバリアンがわいわいと集まってくる。
しまった!!
俺は箱とともに、高速で宮殿の中を逃げ回るのである。
ついに三階の窓から飛び出した。
「箱が飛んだ!!」
箱のままで、着地する。
そして宮殿の一階に当たる倉庫部分に身を隠すと、ほとぼりを冷ますことにするのだった。
得られた情報量が多くて、俺は今何も考えられないぞ。
だが、明後日の結婚式までは待てそうなのだった。
面白い!
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