謝礼
「あんたのお礼なんて別にいらないって言ってるでしょ!」
帰り道、こちらからの提案に彼女は頑として首を縦に振らない。
先ほどから、今日の昼食の礼をさせてくれと頼み込んでいるが彼女は
「別にいい」「もうお礼は貰ったわよ!」と何故か断り続けている。
「そうはいかない。あれほどのものを貰っておきながら何も返さないなど……」
「気にしなくていいのに、それぐらい」
「金、物品、何なら俺を労働力として使ってもいい!」
「いい加減にして! あんまり自分を安売りしないの!」
取り付く島がないな……
仕方ない、あまりこのようなことは言いたくなかったが。
「いいか、一方的な施しは歪な人間関係を生み出す。ヒモなどは典型的な例だ」
「……」
「ゆえに、俺の提案を素直に……」
「美味しいって……言ってくれたじゃない」
彼女は不貞腐れた顔をしながら何事かを呟いた。
ううむ、そこまで言われたならば引き下がるしか。
「あっ!……そこまで言うなら、私にご飯を作りなさい。あんたがいつも食べてるような奴!」
急にハッとした顔になったかと思えばそのようなことを言い出した。
俺が作るのか?作れなくはないが……。
「別に飯でいいなら、いいところを探して連れていくが、……俺が作るよりはその方がうまいものが食えるぞ」
「いいの、あんたので!」
更に説得しようと思ったが期待に満ちたその楽しげな顔を見たとたん、その気は失せてしまった。
それほど飯が食べたかったのだろうか。
「分かった、期待はしないでほしいが。弁当で持ってけばいいか?」
「せ、せっかくだから出来立てが食べたいわ、あんたの家で食べさせなさい!あと、私の好きなものじゃなくてあんたの好きなものをつくるのよ!」
そう、念を押す彼女は何故か耳まで赤くしていた。
俺の家でか。まあ、凝ったものは作れないがせめて腹は満足させてやろう。