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弁当

「ほら、あんたに残飯処理をさせてあげる!」


 隣の席の少女が顔を横に背けながら、かわいらしく包まれた弁当を差し出した。


「食べかけか? ……そんな貴重なものを」

「違うわよ! その、ええと……お兄、そう! お兄ちゃんが今日お弁当いらないのを忘れて作っちゃって、それで余ったお弁当を持ってきちゃって、その、飢えてそうな顔したあんたに恵んであげるの!」


 ふむ、兄のことはお兄ちゃんと呼ぶのか。呼ばれたい。

 今、皆は昼食の時間。だが俺は消耗を抑えるため、授業後の姿勢から一ミリも動かないでいた。財布を忘れ、昼食が買えない。ゆえのカロリー不足である。

 そんな俺に彼女は恵みを与えると言ったのだ。それはまさに……。


「福音!だが、俺には金が……引き換えに出来るものなど何もないぞ」

「もう、そんなのいらないったら! ほら早く受け取って食べなさい!」


 俺の手に強引に掴ませられたそれは、同質量の白銀に相当する価値があるといえよう。

 む、彼女は自分の机をくっつけてきた。


「何のつもりだ」

「つ、ついでだから一緒に食べてあげるのよ!」

「……遠いどこか、大人にしかたどり着けない場所では、お金を払って女性と食事をする店があるらしい」

「?、なんの話をしてんのよ。もう、なにも取らないったら」


 そう言って彼女は弁当を広げていた、それは俺に渡されたものより一回りほど小さい。


「そうか、それではきっかけをくれたお兄さんに感謝して……いただきます!」


 お弁当を開いた。二段となっていたそれは一段目には唐揚げ、ウインナーをメインとしたおかずとおひたしやミニトマトなどの野菜。二段目には俵型のおにぎりと少々のサクランボが入れられていた。

 完璧だ。男向けに作られた内容ながら女性らしいワンポイントが光る完璧な内容。

 ごくりと、つばが喉を嚥下する音が鳴る。まずは唐揚げから。


 ……うまい、うまいが過ぎる。


 詳細? こんな極上品を前に俺の語彙力なんぞ全く役立たない。言葉を削ぎ落とされた結果、うまいだけが残るのだ。

 ああ、くそ、涙が出てきた。


「ど、どう?」


 おにぎりに手を付け始めたころ、そんな言葉が飛んできた。

 ふと前を見ると彼女は自分の分には手を付けず、緊張した面持ちでこちらを見ていた。


「ひたすらに愛情を感じる品だ。心と体がうまいと叫んでいるぞ」

「~~~~! 愛情なんて感じるわけないでしょ!て、適当に作ったものなんだから」

「そんなことはない。知らないのか、俺の舌には愛情を感じるセンサーが搭載されている。それが最大級の反応を見せているぞ」

「また、変なこと言って! いいからさっさと食べなさい!」


 そう言い切った彼女も自分の分に手を付け始めた。その声音はまるで安心したかのようなものであった。

 楽しい時間はすぐ終わるものだ。全てを食べ切った後、弁当箱は洗って返すと申し出たが、さっさと返しなさいと押し切られてしまった。優しい。


「ありがとう、おいしかった。ああ、これが本当はお兄さんのための物なのだから、申し訳ない気持ちになってしまうな」


 極上のカロリーを得た満足感からか、思わずいらぬ言葉が出てしまった。

 ここまでの恵みを受けて申し訳ないなど……腹を切るか。


「うっ、そんな深刻そうな顔しないでよ」


 そう言って彼女は目を逸らし、続けた。


「…………ほんとは私に兄弟なんていないわよ」

「ん? それじゃあこれは」

「うるさい! もうこの話は終わり、お弁当箱洗ってくるから!」


 そう言い放ち、彼女は教室を出て行ってしまった。耳まで赤くなっていたな。

 ふむ……やはり謝礼は必要か。

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