4 シリウス
少年と少女をのせた流れ星はシリウスのそばへやってきた。シリウスの周りにはもう一つの星が大きな星の周りをぐるぐるとまわっていた。星は青白く輝きを放ち、流れ星が下っていくにつれて、辺りは霧に包まれた。
少女「まぁ、すごい、まるで宝石の中に入って行くみたいだわ」
流れ星「しっかり捕まって、今度は落ちないようにね」
少年「すっごい静かな場所だなぁ」
流れ星はシリウスの地面に降り立った。
流れ星「シリウス、シリウス、終点です、お荷物、お忘れ物ございませんようにご注意ください」
少女「お兄ちゃん、たいへんだわ、さっきの海王星に毛布をおっこどしてきちゃったみたい」
少年「だいじょうぶ、ぼくのにおはいり」
少年と少女は身を寄せ合ってその場に立った。
少女「それで? 流れ星さん」
流れ星「はい、なんでございましょ」
少女「あなたはどうするの?」
流れ星「わたくしは用事がございますので、それが終わったら集合して、お二人は宇宙橇にのせてもらう予定でございます」
少年「宇宙橇? なあにそれ?」
流れ星「それは帰るときのお楽しみでございます」
少年と少女と流れ星は、光のなかへとすすんだ。すると、光のなかから声がきこえてきた。その声は男性なのか、女性なのかよくわからない声だった。
光の声「おまえたちはどこから来た?」
急に話しかけられたので、三人は驚いて辺りを見渡した。
流れ星「あぁ、あなたさまでいらっしゃいますか、わたくしでございます、ほら、クリスマスの準備でへまをやらかした」
光の声「おまえか……たしか、地球に飛ばしてやったはずだが」
流れ星「はい、でも、戻ってまいりました」
光の声「なんだと、おまえ、わたしとの約束を破ったのか!」
流れ星「いえいえ、滅相もない! ここにいる二人はこのシリウスに来たいと、そうおっしゃったのです――少年と少女のことを見て――そうだよね?」
少女「うん、そうよ、わたしがお願いしたの」
光の声「そうか、それなら仕方がない。それで? 少女よ、おまえは何をしにここへやってきた?」
少女「お母さんに会いに来ました」
光の声「お母さんだって?」
少女「そうなんです、お母さんがここにいるはずなんです」
光の声「ふーむ、しかし、……お前たちの母親はここにはおらんぞ」
少女「えぇ! どうして! それじゃあ、お母さんどこにいるの?」
光の声「おまえたちの家にいるよ」
少女「えぇ! だって、お兄ちゃんがお母さんは死んじゃったって言ったのよ!」
光の声「少年よ、正直に言いなさい、なぜ嘘をついたのか――」
少年「そ、そんなことないよ、ぼくは噓なんか……」
光の声「嘘をついているのはお見通しだ」
少年「うーん……妹をちょっとからかったんだよ、まさかこんなことになるなんて」
少女「じゃあ、お母さんは生きてるのね!」
少年「そうだよ……」
光の声「少年よ、わたしの言いたいことはわかるな?」
少年「小さな嘘は大きくなる……」
光の声「その通り、では、おまえたちは帰るがよい!」
少年「はい……」
そのあと、流れ星が前にのそのそと出てくる。
流れ星「あの……わたくしの処遇については……」
光の声「おまえはトナカイになってもう一度地球に戻ってこの子たちを送り届けてあげなさい」
流れ星「ははぁ!……それで、そのあとは……」
光の声「ここへ帰ってくるが良い、――もう子供たちのプレゼントに手を出すでないぞ」
流れ星「ありがたき幸せ!」
光の声「調子に乗るな!」
流れ星「はい!」
光の声「よろしい、それではこれにて、この件はお開きとしよう。サンタクロースの宇宙橇はあと、数時間で出発の予定だ。遅れるでないぞ」
少女「サンタクロースの橇に乗れるの?……(少女は少年に耳打ちする)」
少年「(少年は気まずそうに)そうみたいだね、――あのさぁ、ごめんよ」
少女「いいわ、気にしてないもの!」
光は徐々に去ってく。そして流れ星が少年と少女を見る。
流れ星「さぁ、帰りの橇はこっちですよ」
少女「わーい!」
一同退場。