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2 月の家


 少年と少女は流れ星にのって、月の上に到着する。流れ星は月の重力でゆっくりおりていく。


流れ星「月の上、月の上、お次は月の上駅でございまーす。まいどいつもご利用ありがとうございまーす、お荷物、お忘れ物ないようお願いいたしまーす。月の上、月の上ー」


少女「まぁ、みてみて、ウサギさんたちがいっぱいいる」


少年「あっちにはカエルもいる、川にはワニもいるぞ! 見てみて、ライオンがワニと戦ってるよ!」


少女「あれ? あれはロバさんかしら? ワニとライオンが怖くて怯えてるみたい」


 流れ星は月面に降り立つ。


流れ星「お足元ご注意ください」


少女「わーい、お月さまの上だ、みてみて、ちょっとジャンプしただけで身体がふわふわって浮き上がるみたいだわ」


少年「気をつけて、飛び過ぎたら宇宙に放り出されちゃうよ!」


流れ星「さ、いったんここで休憩といたしましょ」


少年「休憩って、どれくらい?」


流れ星「なーに、たった一時間です、そうしたら宇宙風が吹きますんで、それに乗って次の星へ行くってわけです」


少年「へぇ……なんだか知らないことばっかりだ」


少女「あれ? あそこにお家があるわ、いったいこんなところに誰が済んでるのかしら?」


少年「ちょっとまって(少女を呼び止め流れ星のことを見る)、ねぇ、行っても構わないかい?」


流れ星「はい、どうぞ、わたくしはここで待っておりますので。思う存分観光してきてくださいまし、――あぁ、でも、時間には遅れないように」


少年「遅れたらどうなるの?」


流れ星「そうですね、もし一時間後の宇宙風に乗り遅れたら、つぎは――来年の今頃ですかね」


少年「それは大変だ、わかった、必ず持ってくるよ!」


 少女は先に扉の前に到着し、扉をノックする。


少女「ごめんください!」


 すると、扉が開く。


月の女「どちらさま? あらま、かわいい」


少女「こんにちは! 不思議なお家があったから寄ってみたの! どんなひとがいるのかなって思って!」


少年「ごめんなさい、急にお邪魔して」


月の女「あら、どうもご丁寧に、でもいいのよ、さぁ、あがって」


少年と少女「おじゃましまーす!」


 少年と少女はいえの中にはいる。


月の女「おばあさん、お客様がいらっしゃいましたよ! おばあさま!」


 月の女は、部屋の奥でロッキングチェアに座って本を読んでいる老婆にはなしかけた。


本好き老婆「なんだい、騒がしい」


月の女「子供たちが会いに来てくれたのよ」


本好き老婆「子供たちだって、それじゃあ寝る前に本をよんであげなくちゃねぇ」


少年「あ、あの……そんなに長くはいられないんですが」


少女「わーい、どんな本読んでくれるの!(少女は本好き老婆に駆け寄る)」


本好き老婆「月の御姫様、クルクルチクル、不思議じゃない国のゾーイ、フョードルの天才もあるわ、どれがいい?」


少女「あれ? わたしの知ってるのとちょっと題名が違うわ」


本好き老婆「そんなことはないわ、これはみんな月では有名なお話よ」


少年「そうか、ここは月だから話もちょっと変わって伝わってるんだね」


本好き老婆「なにをおっしゃい、こっちがもともとのお話なんだから」


少女「ねぇ、そのお話って読むのにどれくらいかかるの?」


本好き老婆「えぇっとねぇ、月の御姫様が二十年くらいでしょ、クルクルチクルは十年くらいで、不思議じゃない国のゾーイは四十年くらいまでね、フョードルの天才は八十年くらいかしら? どれにする?」


少年「それは困った、だってぼくたちここに一時間くらいしかいられないんだもの、それに月に来てからちょっと時間が経っちゃったから、せいぜい三十分くらいが限度だよ」


本好き老婆「まぁ、それは残念ね、ゆっくりしていったらいいのに」


少女「あのね、わたしたちお母さんに会いに行くの!」


本好き老婆「会うって、どこで?」


少年「シリウスだよ、そこにお母さんがいるんだ」


本好き老婆と月の女「シリウスですって!(驚いたように二人は言う)」


 すると月の女が血相を変えて、二人に話しかける。


月の女「あなたたち、シリウスに行く気なの?」


少女「えぇ、そうよ、なぁーに?」


本好き老婆「そう、そうだったの……」


少年「どうしたの? 急にかしこまった顔して」


本好き老婆「だって、シリウスに行くってことは……その……もう死んじゃったってことじゃないの?」


少年「とんでもない! ぼくたちはまだ生きてるよ」


本好き老婆「あなたたち、ここへ来る前になにか事故に遭わなかったかい?」


少女「そういえば、流れ星が落ちてきた」


本好き老婆「ほら、やっぱり、それだよきっと」


少女「えぇ……あたしたち、死んじゃったの?」


少年「そんなはずはない、そんなはずはないよ!」


月の女「受け入れるのはまだ難しいと思うけれど……」


 ――ドンドンドン、ドンドンドン。扉を叩く音がする。家の中の一同、玄関扉を一斉にみる。


流れ星「ごめんください、ごめんくださいな」


月の女「そら、お迎えだ!」


少女「うわぁ!……どうしよう、お兄ちゃん、わたしまだ死にたくないよ」


少年「何言ってるんだよ、そんなわけないだろ、流れ星だって言ってたじゃないか」


少女「でも……でも……うわぁーん(少女、怖くて泣き出す)」


本好き老婆「あら、ごめんなさいね、脅かしてしまって……」


 少年と少女は本好き老婆の後ろに隠れる。


月の女「はーい、今行きます……」


 月の女は玄関扉をあける。


流れ星「どうもこんにちは」


月の女「こんにちは、ハンサムさん」


流れ星「こりゃ、どうも、あなたも月のように美しい」


月の女「ま、お世辞がお上手ね、でも、生憎、月がどんなか知らなくて、おかしいわね、月に住んでるのに月を見たことないって」


流れ星「とんでもございません――あ、それとここに二人子供が来たと思うのですが? 今いらっしゃいますでしょうか?」


月の女「あぁ、その子たちでしたら、ほら、あそこに」


 そのとき、椅子に座っていた老婆がちょっと動いて、流れ星に子供たちを見せる。


流れ星「あぁ、ほんとだ、おーい、宇宙風が予定よりも早く来そうだから呼びに来たんだ、そんなところに隠れてないではやくおいで」


 少年と少女は老婆のかげからでてくる。


少年「ねぇ、教えてよ、ぼくたちって死んじゃったの?」


流れ星「えぇ、なんですって? 死んだっていつ?」


少女「死んでないの?(泣きべそをかきながら)」


流れ星「死んでませんとも、もし死んでたらわたくしではなくて、天使が迎えにいくはずですからね。ま、わたくしのことが天使に見えてしまったことは、まぁ、仕方のないことではありますがね」


月の女「ま、ナルシストさん」


流れ星「どうも」


本好き老婆「よかったわね、天使じゃなくって」


少年「脅かさないでよ……」


本好き老婆「ごめんなさいね、生きた人がシリウスに行くなんて珍しいから」


少年「そうなの?」


本好き老婆「えぇ、とっても珍しいことよ」


少年「どうして流れ星はぼくたちを連れて行く気になったのかな?」


本好き老婆「さあ、それは流れ星さんに聞いてみないと」


少年「たしかにそうだね、わかった。(少女のことを見て)さ、行こう」


少女「うん!」


 二人は家を出て、流れ星と一緒にすこし家を離れる。月の女と本好き老婆が見送りをするために家から出てくる。


少年「ありがとう、短かったけど楽しかったよ!」


本好き老婆「またあそびに来てね」


少女「今度会えるのは死んじゃったときかしら?」


月の女「だとしても、寄って話を聞かせてちょうだい、どんな人生だったか」


本好き老婆「そしたらわたしがあなただけの物語を書いてあげるわ」


少女「ほんとうに、約束だよ!」


本好き老婆「えぇ、もちろん」


流れ星「宇宙風が吹いてきたぞ、よし、それじゃ、捕まって!」


少年と少女「じゃあね!」


流れ星「――ブーンブーン、ひとっとび!」


 流れ星は少年と少女を乗せたまま、勢いよく飛び上がる。


本好き老婆「達者でね!(寂しそうに叫ぶ)」


 月の女と本好き老婆は手を振って見送った。


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