1 子供部屋
子供部屋で少年と少女が毛布をかぶり、窓から夜空を眺めている。
少年「ほら、ごらん、あそこに一番輝いてる星があるだろ」
少女「どこ? お兄ちゃん」
少年「もっとお兄ちゃんのそばによって、ぼくの指の先を見るんだ――ほら、見えたかい?」
少女「うん! すっごい光ってる」
少年「あそこに神様がいるんだって」
少女「へぇー、そうなんだ。じゃあ、あそこにお母さんがいるのかな?」
少年「さあね」
少女「いないの?」
少年「いるかもしれないし、いないかもしれない」
少女「わたしはいると思うわ、だって、お母さんわたしたちを見守ってるっていってたもの。あんなに優しいお母さんなんだもの嘘をつくわけないわ」
少年「そうだね」
少女「あ! 見て! 流れ星よ!」
少年「ほんとだ、でっかいなぁ……あんなのはじめて見たよ」
少女「ねぇ、あの流れ星だんだんこっちに近づいてきてない?」
少年「そんなことあるかよ、流れ星ってのはずっとずっと上を飛んでるんだよ?」
少女「でも、やっぱりこっちに来てるわ、ほら、さっきよりもどんどん大きくなってる」
少年「ほんとだ、こりゃたいへんだ、逃げよう!」
少女「逃げるってどこへ?」
少年「うわっ! 伏せろ!(少年は妹のことを守る)」
流れ星が窓ガラスを突き破って入って来る。流れ星は窓を突き破ってくるなり、部屋のなかをぐるぐると回りはじめる。
流れ星「嗚呼、なんてこと、なんてことを、あなたさまはどうしてわたくしにこんな仕打ちを!」
少年と少女は毛布を頭からかぶって互いに捕まって真っ青な顔になっている。
少女「お兄ちゃん、あれはなあに?」
少年「わからないよ。喋る流れ星なんてはじめてだ」
少女「怖いわ……」
少年「だいじょうぶ、ちょっと待ってろ」
少年は部屋にある花瓶を手に取ると、その中の水を、流れ星の動きが鈍ったところめがけてぶっかけた。
流れ星「ぎゃぁぁ! 冷たい!」
少年「おい! 窓を壊しやがって、どうしてくれるんだ!」
流れ星「うわぁぁ! ごめんなさい! 悪気があったわけじゃないんです!」
少女「悪気がなくっても許されないこともあるわ!」
流れ星「ひえぇぇ、御勘弁を、お赦しを! なんでもしますから(流れ星はその場にうずくまって謝る)」
少年「なんでもって言った?(少女のことを見る)」
少女「なんでもって言ったわ!(少年のことをみる)」
流れ星「えぇ、言いましたとも、なんなりと、怖い目にあわせてしまったわたくしが悪いのでございますから」
少女「死んじゃったお母さんと会えるかしら?」
少年「いいや、それは無茶だよ……」
流れ星「いいえ、そんなことはございませんよ、お母さんでもお父さんでも、おじいちゃんでもおばあちゃんでも、はたまた歴史上の有名人でも、お好きなかたとお会いになれます」
少女「やったぁぁ! だって、お兄ちゃん」
少年「いいや、そうじゃなくって……」
流れ星「ご心配無用でございます、神に誓って、悪いようにはいたしません。さぁ、ではさっそく参りましょう」
少年「参るってどこへ?」
少女「どこへ?」
流れ星「それは決まっていますほら、あそこに光っている星があるでしょう? あそこへ行くんです」
少女「あそこにお母さんがいるの?」
流れ星「えぇ、そうですとも。さぁ、おいで、ちゃんと捕まって」
少年と少女は一緒に入っていた毛布を肩にかけたまま流れ星につかまる。
流れ星「準備できたね、それじゃあ、行きましょう、――ブーンブーン、ひとっとび!」
流れ星が子供部屋を出て行くと、壊れたはずの窓はいつのまにかなおっていた。お父さんが大きな音に驚いて子供部屋にやってくる。
お父さん「なんだろうか、いまの音は……」