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第二話『初陣と過去』(3)

 見知った天井が、目に浮かんできた。それが自分の部屋の天井だと気がついたのはすぐだった。

 飛び起きると、既に日は中点を超えている。


 アースは頭を抑えてから、何があったのかを考える。


「村のみんなはどうなったんだ?!」

「安心しろ。全員無事だ」


 見知った男の声がした。

 声のした方を見ると、親方が苦笑しながら座っていた。


「モンスターは?」

「なんかよく分からん魔導機が制圧していった。お前、追いかけていって気絶したらしいな」

「は?」


 言っている意味がよく分からない。

 確か魔導機、いや魔神機には自分が乗っていたはずで……戦闘も行った。

 確かその後……それ以降をアースは覚えていない。

 何故ここにいるのかすら思い出せないのだ。


「ということになっている。お前にとっちゃ一つ不名誉な噂がしばらく立つだろうが、少し我慢してくれ」


 そう言われて初めて、親方が察しろという眼をした。

 恐らく親方は事情を知っている。そして村人も事情は分かっているだろうが、ロルムスに追求されると厄介だということだと、暗に眼が告げていた。

 つまり知らぬ存ぜぬで通せと言う事らしい。


 実際それが正解だろうとは思う。自分が釈然としないことを除けば、だが。


「まぁいい。どちらにせよ、お前はしばらく有給扱いにしてやる」

「有給? 明日からでも俺働けるぜ?」


 どうも親方の態度が先程からよそよそしい。

 まるで知っているのに知らない存在に話しているような、妙な他人行儀感を感じるのだ。


 扉がノックされる。


『目が覚めたか?』


 マリアの声がした。

 しかし、何処か威厳さえ感じるような、不思議な声だった。

 マリアの今までの声とは違う。そんな印象しか持たなかった。


「ああ。目を覚ました。そいじゃ、俺はおいとまするぜ」


 そう言って、親方は立ち上がる。

 扉に手を掛けると、親方が振り向かずに、ため息を漏らした。


「アース、運命にすり潰されるなよ」


 何故か、異常にそれが、心に深く突き刺さった。

 まるで今生の別れのように、親方が言ったからだろうか。


 いや、違うとアースは察した。

 親方は分かったのだろう。自分がどういう存在なのかを。

 そして恐らく、知っているのだ。ドゥンイクスが何であるかを。


 まずは、それをより詳しく知っているだろうマリアやイクスから聞こうと思い、閉まったドアをもう一度開けた。


 思わずハッとした。

 マリアが全く違う服装に身を包んでいたと同時に、奇妙な物を持っていたからだ。

 質素な服装ではなく紺を中心に紫のラインの入ったローブを身に纏い、手には水晶が何重にも積み重なったような杖を持っている。


 だが、これが今までで一番似合った恰好であると、心底思った。

 古の魔女を思わせるその姿は威厳に包まれており、まるで今までのマリアを捨てたかのように、アースには思えた。


 イクスも、その横に付いている。

 じっと、こちらを見つめた後、マリアとイクスが自分を前にして跪いた。


「ドゥンイクスの起動、及び初陣疲れただろうが、そうも言ってはおられぬ」

「え……な、なんなんだ、マリアおばさん突然に?」

「マリアはもういない。マリアの仮面は捨てた。ここにいるのは、マリ・ジルベスというグランデンの魔女だ」


 グランデンと言われて、どくんと、心臓が唸った。

 亡国。そう言われて一六年。だが、それこそがこの村も、それどころかこの大地の半分を治めていた。

 それとマリと名乗るマリアが関係しているとは思いもしなかった。


 だが、いつもグランデンの話をする時に哀愁を漂わせたのかと思うと、納得してしまった。

 そして恐らく、そんなマリが自分を前にして跪くということは、自分は……まさかと思いたかった。


「まさか……その態度……俺は……そうなのか……?! まさか、グランデン王国に関係する人間なのか?!」

「そうだ。アース・ドラグ、その名はもう今日までのものだ。あなたの本名は、アースライ・グランデン・キャメル王子殿下。先代グランデン王、ドラグーン・グランデン・キャメル王陛下の遺児だ」


 目を見開いて、絶句した。


 自分が、亡国の王子? どういうことなのか、まるで分からない。


「な、何を言ってるんだ……?!」


 マリとイクスが跪くのをやめ、ため息を吐いた。


「話せば長くなる。少し、座ろう」


 マリからすれば、相当の覚悟があったのだろう。

 イクスも同じなのだろうか。感情のまるで見えないその表情から、その思いを計り知ることは出来ずにいる。


 だが、マリの眼は、マリアの時よりも、遙かに重苦しくアースには感じられた。

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