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第二話『初陣と過去』(2)

 一体屠って、分かったことがある。

 確かに、魔神機は絶大な力を持つ。これに溺れないためには、相当の強い心がいる。


 自分に、それを常に持てということなのだろうか。

 マリアとイクス。双方が同じ事を言ったのは、何か繋がりがあるのだろうか。

 そして、何故自分はこの機体のことを知っているのだろうか。


 何故なんだという感情が、浮かんでは消える。

 雑念が多いなと、アースは感じた。


 だが、警報でハッとさせられた。

 また、目の前にワームがいる。奇声を上げながら、自分の方に襲いかかってくる。


「くっ!」


 一度唸ってから、カルドゥエッフを横に凪ぐ。

 ワームが一刀両断されていた。


『ボサッとするでない! 考えていると戦場では死ぬぞ! かような戦で死ぬでないわ!』


 イクスの激高する声が聞こえた。


「す、すまない!」

『雑念が浮かべば死ぬぞ! 考えることは後にし、戦場に集中せい!』

「分かった!」


 その通りだった。

 ここは既に戦場なのだ。


 自分のいた採掘現場と同じだ。ほんの少しの油断で、死ぬ。

 まだ自分は、死ぬわけにはいかないのだ。


 咆哮を上げた。自分に、活を入れるためだ。

 ドゥンイクスを横に旋回させながら駆けさせた。


 固まっているワームの一陣がある。そこへ向けて駆けさせる。

 重い音が大地に響き渡り、荒野に巨大な足跡を残していく。


 敵。見えた。目の前。カルドゥエッフを上から振り下ろし、一匹倒したのを確認するより前に、次の獲物を見据える。

 次は横に二匹同時に凪ぐと、二匹ともワームが粉々に粉砕された。


 残り半分。そう思い、更に疾駆する。

 考えるのは後だ。それだけ感じると、不思議と身体が軽くなった。

 ドゥンイクスが、それに答えてくれているかのように、アースには感じられた。

 また、ワームの目の前まで接近していた。目の前に三匹。残りのワームだ。


「いけぇ!」


 叫んだ瞬間、左から一気にカルドゥエッフを凪いだ。

 重い音を立てながら、ワームが切り払われると同時にすり潰されていく。

 それで、レーダーの赤い点がなくなった。


『周囲にモンスターなし。戦闘終了じゃ』


 そうイクスに言われて、ドッと汗が出た。

 同時に、けたたましいまでの心音が聞こえてきた。


 戦場とは、かくも己のことを考えている時間を与えてくれない物なのかと、痛感した。


 守れたのだろうか。


 それだけを感じた瞬間、眠くなった。

 操縦桿から手が離れる。

 自分を呼ぶ声がする。

 だけど、答える気力はなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 意識がない。呼吸はある。心音も聞こえる。

 死に瀕する形ではない。

 単純に疲れたのだろうと、ドゥンイクスと化しているイクスはアースの状態を確認して感じた。


 自身の体内に、人間を内包しているようなものだ。要はドゥンイクスと化している自分にとって、操縦者は自分自身の身体の一部も同然なのだ。当然のことながら状態はよく分かる。

 初陣と言う事もあって緊張の糸が切れたのだろう。実際、自分に乗った者達の多くは、初陣後こうなることが多かった。


 一八五人。アースも含めて自分に乗り込んだ者の数。その顔も、感覚も、操縦のクセも、何もかも自分は覚えている。

 今まで乗り込んだ一八四人と誰が一番アースに近いか、と言われても、これが思い浮かばない。

 アースは正直言って、この一八四人の誰にも似ていない。


 確かに自分の力は魔導機のそれとは違う。その力があったとは言え、八匹のワームを僅か三分で初陣にして粉砕した。それだけならまだしも戦法は主に力任せとはいえ、どうすれば危険なのかを自分の身体が完全に覚えているという、戦場では代えがたい素質も持っている。

 そして、桁外れの魔導力の保持。自分がこんなに高ぶったのはいつ以来かと感じてしまうほどの魔導力だった。

 ひょっとしたら、アースはそう類を見ない英雄になる器なのかもしれないとイクスは感じた。


 しかし、いつまでもこうして寝かせておくわけにはいかないし、自分もこの状態でいるわけにもいかない。

 自身の巨人化を解除することにした。


 光が、広がっていく。その光が徐々に自分を包む。どんどん自分の身体が小さくなっていくのを感じる。

 そして、気付けば自分は『イクス』という少女のような姿をした存在となっている。

 違いがあるとすれば、アースをその手で抱きかかえていることくらいか。


 寝てしまっている。こりゃ当分起きないなと感じて、苦笑した。

 一度ベッドにも寝かせてやるのが筋だろう。

 そう思い、村の入口へと向かう。


 村の入口に着くと、見知った顔があった。

 銀髪に赤目。そして身に纏う尋常ではない魔導力。


 よく知っているし、この女性が、自分を封印した。

 いつか目覚めさせる。その約束を守ったのだ。

 何処か頑固。それはこの女性が生まれてこの方変わっていない。

 質素な服を身に包んでいても、身に纏う魔導と、姿が全く変わらないことも、何一つ昔から変わらない。


「久しいな。ぬしとも、一六年ぶりか」

「今はマリアで通している。その名で外では呼んでもらえると助かる」

「そうか。マリアか」

「で、アースの状態は?」

「気を失っているだけじゃ。運んでやるさ」

「すまないな」

「村の様子は?」

「アースを心配しておるよ。だが、ロルムスが戻って来ても流れの傭兵がやってきて助けたと言えとは厳命しておいた」

「『記憶の改ざん』は?」


 マリアと今は名乗っているこの『魔女』には、この程度は造作もないことだ。

 村人全員に魔導を使ってほんの少しの記憶の改ざんを行う。そういう裏業務にも通じているのが、この魔女の本来の役目だ。

 だが、マリアは首を振った。


「無駄に終わるだろうからやめておいた。モンスターの破片に『あれ』があるのを感じるからな」


 そう言われて、イクスは舌打ちした。

 この目覚めまで含めてロルムスに『監視』された可能性が否定できない。

 どちらにせよここに長く居座ることは難しいだろうと、イクスは感じた。


「一度、家に戻ろう。そこでアースを寝かせる。目覚めるのにどれだけ掛かりそうだ?」

「後小一時間もすれば目覚めるじゃろうな。少し緊張の糸がほぐれただけじゃろ」

「なら、その時から始めよう」


 はぁと、マリアがため息を吐いた。

 アースに近寄って、マリアはアースの額をなでた。


 慈愛の眼。相変わらず思うが、この魔女は裏家業までやらせるには優しすぎる。

 そう感じているが、それもまたこの魔女の美徳だと、イクスは思っている。


「アース、目覚めたら、生活は一変するぞ」


 それだけ、呟いてから、マリアは踵を返した。

 イクスは、ただそれに付いていくだけだった。

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