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第二話『初陣と過去』(1)

 それは、確かに坑道から飛び出てきた。

 空色の魔神機。誰が見間違うものだろうか。


 封印していたのだ、一六年の長きに渡って。

 それが解き放たれたのが分かっているし、乗っているであろうアースの魔導力も伝わるのだろう。魔導エンジンが桁外れに甲高い音を出している。


 いい音を出す。

 久々に聞く音色に、マリアは胸が高ぶった。

 昔、散々いじくっては散々聞いた音だ。


 一六年。それだけ待っただけのことはあった。その結果桁外れに強い魔導力を持つ正統後継者に恵まれたのだ。

 時は来たのだろうと、マリアは感じた。


 この生活を捨て去るときも、そして、自分の本当の名前を出すときも、アースが本来全うすべき任をなすべき時も。

 少し、寂しくはある。

 だが、アースはまず生き残らなければならないのだ。


 相手は八匹の一〇ヤール級モンスター。この程度で立ち止まってもらっては、マリアからすれば困る。

 だが、負けるとは思っていない。

 むしろこの程度でやられてもらっては困るのだ。


 さぁ、初陣だ。派手にやれ、アース。


 それだけ思ってから、武器を構えたドゥンイクスを見返した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 すぅと、息を吸って、吐いた。

 コクピットまで聞こえてくる魔導エンジンの音。心音にも似たそれを聞いて、改めて自分は巨人に乗っているのだとアースは実感できた。

 思えば、魔導機をまともに扱うのはこれが初めてだったことを今更に思い返す。


 しかも魔神機ときた。これを操ったことのある人間など、恐らくほとんどいない。

 しかし、魔導機と同じく自分の考えた通りに動いてくれるなら、動けるはずだ。そうアースは言い聞かせる。


『さて、アース。敵は一〇ヤールほどのモンスター八匹。普通の機体ならば剣で刺し殺してやっと死ぬ。だというのに武器は我の手に握られている鞘に収まった武器のみじゃ。さて、どう立ち向かう?』


 イクスの声が聞こえる。

 戦い方と言われても、考えてみれば自分はケンカ以外ロクにやったことがない。後身についている物と言えば、採掘で身についた体力のみ。


 見る限り、武器は鞘に収まった剣。サイズは身の丈より少し小さい程度のロングソード。だが、その鞘が完全に剣と一体化しており、刃先は全く見えない。何より鞘からどうやって抜くのかすら分からない。

 もっとも、自分は剣など一度も振るったことがない。


 即ちこれを採掘道具と一緒だと思えば良いのだ。振りかざして、叩きのめす。

 つまり、使い方の答えは一つ。


「この鞘が一体になってる剣、鈍器にしていいか?」

『カルドゥエッフじゃ』

「は?」

『その武器の名前じゃ。実際鈍器として扱う以外、その状態では意味はないからのぅ。良かろう、おぬしの使いたいように使ってみよ。ただし、負けは許さぬ。分かっておろうな?』

「言われなくてもそのつもりだよ!」


 操縦桿に、より強く触れた。


「飛べ!」


 その言葉と同時に、ドゥンイクスがジャンプすると、村を一瞬にして乗り越え、そして、村の入口の荒野に辿り着いていた。

 呆然としていた。こんなに跳躍力があるのかと。

 かつてロルムスの軍用機の戦闘を見たが、それにしたってこんな跳躍力はなかった。

 魔神機は何かが違う。そう思うには十分だった。


 カルドゥエッフを両手で持ち、構えた。

 つばを、一度飲み込む。コクピットに警報が響いたのはその後だ。


『モンスターが速度を上げた。こちらに近づいておる』


 前面に展開しているパネルの中に、レーダーが表示される。


「赤い点がモンスターであってるか?」

『そうじゃ。距離は四〇〇ヤール(約四〇〇m)。接敵まで後十五秒。その間に心臓を落ち着かせておくことじゃな。高ぶりすぎておる』


 そう言われて初めて、自分の心音が聞こえた。

 確かに、大きく唸っていた。

 緊張しているらしい。


 初めて巨人に乗ったのだ。それで高ぶったのか、とも思ったが、そうではないことに気付く。

 自分が倒れたら、もう全員飲まれるしかないのだという、背水の陣だと言う事。

 そして、これで自分が初めて本格的に戦うのだと言う事。

 一度だけ深呼吸して、少し落ち着かせると、心音が聞こえなくなった。


 覚悟を決めろ。マリアもイクスも、そう言った。


「行くしか、ないんだな」

『そういうことじゃ。さて、来るぞ』


 敵が見えた。

 ワームと呼ばれるモンスターの群れだ。ミミズのような虫の形状をしているが、ミミズと違うのはそのサイズが一〇ヤール(約一〇m)もあること。そして皮膚が普通のミミズとは比べものにならないほど硬いと言う事だ。

 それを全部自分が相手をする。


 行くしかないのだ。


「よし、行こう」


 操縦桿を握り、ドゥンイクスを駆けさせた。

 走る度に、重い音がする。振動も感じる。


 これが巨人に乗ると言う事かと、アースは今更に思い知った。

 猛烈な重力が、自分に襲いかかってくる。


「これが魔神機か! こんなに重力が掛かるとはな!」

『言ってる場合ではないぞ、アース。敵、目の前!』


 そう言われて、目の前を見据える。

 不思議と、集中出来ていた。


 動きをイメージする。

 カルドゥエッフを振りかぶって、一気に目の前のワームの頭を叩いた。

 鈍い音が響くと同時に、ワームが奇声を上げながら潰れた。


 少しだけワームが動いて、その後ピクリとも動かなくなった。死んだのだと分かると同時に、カルドゥエッフを構え直す。


「これが……魔神機か……」


 思わず、アースは感嘆の息を漏らしていた。

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