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第一話『契約の日』(3)

 採掘工の仕事は日の出から始まる。

 魔導機が使えれば、自分だってもう少し遅い時間になってから採掘の仕事が出来るが、自分は結局手作業でやらざるを得ないから日の出からスタートしないと、ノルマが達成出来ない。


 もっとも、今朝はあの公開処刑騒ぎがあったこともあって、いつもより少し遅いスタートとなった。


「アース、今日の採掘ポイント、分かってるな?」


 坑道の入口の受付で、採掘工の親方から聞かれて、アースは一つ頷いた。

 魔導機がまた使えないことが分かった地点で、自分に割り当てられるエリアにはまた変更が加わった。

 あまり魔導機が入れない細かいエリアや、どうしても魔導機では出来ない細かい動作が必要になる場所、それが今日からのアースの職場になる。


「しかしなんだ、お前のその強すぎる魔導力、それが活かせる物があればな」

「まったくだよ。そうすりゃ、俺だってもう少し働けるのにさ」


 アースは親方の言葉に苦笑する。

 そして、入口に止まっているその機械を、少し羨ましく思いながら見ていた。


 全高一八ヤール(約一八m)。人間をちょうど一〇倍にした大きさをした、人間と全く同じような構造を持つ機械で出来た巨人。それが魔導機だ。

 魔導を電力に変換する魔導エンジンで動くそれが、様々な分野で人類の発展を助けてきたのは事実であり、だから自分達も使っている。

 しかも魔導機はそのパイロットの魔導を伝える操縦桿さえ握っていれば思い通りに動くのだから、余計にそこかしこに普及した。


 もっとも、なかなか新造するには金が掛かるのも事実らしい。だからここにある作業用の魔導機は全て百年近く前に製造されたロルムス軍をお払い箱になった機体を改造した物だ。

 魔導機は古代から用いられていたこともあり、発掘されることも多く、それを扱っている者も多い。


 しかし、ロルムスの場合だと自分の得意な機械技術を用いて一から作成することが多く、結果百年も前の機体ならばお払い箱になるのがほとんどだ。

 一方のグランデンは、マリアによれば発掘した機体を利用し、魔導出力や装甲を改良した物を側近に与えており、量産機は基本的にそのカスタム機をベースにして作ると言う事が主流だったようだ。

 ある意味でこの思想の違いは国民性だろうと、アースは思っている。


 もっとも、今ここにある魔導機は作業用と言うこともあって、手は大型の工具類に換装されているし、塗装も派手な黄色にされている。

 とにかく図体が魔導機は大きいから、余計に黄色だと目立つのだ。


 一度だけ乗れないことの恨めしさからため息を出した後、坑道の指定された仕事場へと入っていく。自分の荷物は、ツルハシ一個と複数の砥石だけだ。最低限の荷物で細かい作業を行う、それが自分に科せられた新しい仕事である。


 エリアにはトロッコで向かうが、そのエリアに向かう途中に、毎度気になる場所がある。

 いくらやっても掘れない岩盤のある場所があるのだ。信じがたいことに、魔導機用のドリルで掘り進もうとしたら、ドリルの方が先に壊れ、岩盤は無傷だった。

 まるで何か魔導力が効いているかのように、何かでそこは覆われているとしか思えないのだ。


 そのエリアだけは誰も手が付けられなかった。実際、自分も挑戦したことがあったが、一回でハンマーが木っ端微塵に砕け散った。

 何があるのか不思議でしょうがないが、一方で開けてはいけない場所とも認識され、ロルムスの方もそれは納得している。

 何しろ試しにロルムス軍の魔導機が採掘できないか試したことすらあったが、それも失敗に終わったのだ。作業用魔導機の数十倍もの出力を出せる軍用機ですら失敗する地点で、無理であることは明白だった。


 それが何故か、今日はヤケにアースの目に止まった。トロッコで通るときは一瞬なのに、その一瞬が、何故か頭から離れなかったのだ。


 疲れてんのかなぁ、無理してる感じはねぇんだけど。


 そう思っているうちに、採掘エリアに辿り着いた。


「さて、作業しないとな」


 そう言ってから、近場の鉱脈を確認する。

 何かあればな。そう思いながら進めると、鉄鉱石が見つかった。

 無線機で連絡して、何人かの仲間と徐々にその鉱脈を掘っていく。


 そこそこの大きさの鉄鉱石が最終的には発掘された。純度も見る限りでは悪くない。

 それを取り出してトロッコに乗せて地上へと運搬してはまた戻って鉱脈を当てる。これの繰り返しだ。


 そんなことをしているうちに、午前中が終わる。成果としては今のところ悪くない。

 昼休みの間は、一度外に出る。長く坑道にいると、どうしても息が詰まりかけるからだ。

 もっとも、その時間は短いため、その短い時間で昼飯も食わなければならない。


 弁当が、村人の担当者から配られる。焼いた鶏肉が少量とじゃがいも、それにパンが一欠片だけだ。


 日に日に、食料がゆっくりとだが少なくなっていっているのが、アースにはよく分かっている。

 テオドールのことだ。恐らく自分達を使うだけ使って最終的には餓死の方向に持っていくつもりなのだろう。


 そうなる前に一矢報いたい。


 そう感じて、拳を握り、じゃがいもを食う。


 その直後、振動が響いた。

 全員が、ざわついている。

 徐々に振動が大きくなっていく。地震かと思ったが、明らかに違う。叫び声に似た方向のような物が聞こえるからだ。


「大変だ! モンスターだ! 一〇ヤール(約一〇m)くらいのモンスターが向かってくるぞ!」


 村人が、こちらの方に駆け寄ってきた。思わず、じゃがいもを落として、アースは立ち上がっていた。

 後ろにもかなりの人数の村人が確認出来る。ここは確かに村からは最奥の地だから避難してきたのだろう。


 しかし、この地域にもモンスターは増えているなと、アースは思うより他なかった。

 モンスターの種類は様々だ。それこそ人間より小さい虫のようなモンスターから今回のような巨大な物まで多種多様にいる。

 そのためモンスターから守るために各都市は軍なり傭兵なりを駐留させている。

 人間大のモンスターまでなら人間だけでもなんとかなるが、今回のような巨大な奴だと話は別になってくる。魔導機は必須と言っていい。


 昔はこの地域もモンスターはそこまでいなかったそうだが、ここ最近はヤケに出現頻度が高い。前に現れたのは一ヶ月前、五ヤールくらいのが一〇匹程現れた。

 その時はここに駐留していたロルムス軍が撃退したが、しかし、どうも気になることがアースにはあった。

 耳を、もう一度立てる。


「……ロルムスの魔導機のエンジン音が聞こえねぇ……。まさかあいつら!」

「逃げやがったのか!?」


 自分の言葉の後に、親方の言葉が続いた。

 村人の一人が頷く。


「もう魔導機どころか兵士一人たりともいやしねぇよ、ちくしょう!」


 その言葉に、村人は誰もが絶望した表情を浮かべていた。

 最悪の展開だ。一〇ヤール近くのモンスター複数相手にするのは、流石にここにある作業用魔導機だけでは厳しい。


 モンスターが巨体と言う事は、それだけ皮膚なども硬いと言う事を意味する。

 いくらこちらの作業用魔導機がドリルなどを持っているとしても、相手が岩盤以上の装甲を持っていたら耐えられないし、何より作業用は軍用と違って耐久力はないに等しい。

 いくら使っているのが旧式の軍用とはいえ、一〇〇年の差は大きすぎる。装甲もかなり劣化しているからだ。


 終わりだ、みんな殺される。


 そんな言葉が、そこかしこから聞こえてくる。


 避難している者の中には、マリアの姿もいた。

 走って近づく。何処も怪我はないようで、ホッとした。


「マリアおばさん、このままじゃまずいぜ」


 少し考える仕草を、マリアはする。

 すると、坑道を見た。


「そろそろ、目覚めてもいい頃合いだねぇ」


 一瞬、ハッとした。

 今まで見せたことのないような少し怜悧な眼差しが、その眼の中にあったからだ。

 こんなマリアは、見たことがなかった。


 何かが、坑道の中にある。そう直感するには十分だった。


「マリア……おばさん?」

「アース、あんた、覚悟はあるかい?」


 その怜悧な眼差しのまま、マリアはアースを見た。

 今までと、まるで別人のように感じた。


「覚悟?」

「そう、覚悟さ。この世界を、変える覚悟」

「世界を……変える?」

「そして、絶大な力を手にして、溺れない覚悟。これが、最低条件だ」


 何のことかは、分からない。

 それでも、自分には思いがある。


 守りたいという思い。

 この村から、何かを変えたいという思い。

 それを行うために、みんなを、守りたいのだ。


 拳を握る。


「俺は……守るよ、みんなを。その力が、俺は欲しい」


 マリアが、ふっと笑った。


「青臭いところ、お前の親父にそっくりだな。いいだろう、アース、あれを、使うがいい」


 マリアが、瞳を閉じた。

 大地に向かって、掌を掲げる。


「さぁ、目覚めの時だ。もう、休みは終わりだ」


 言った瞬間、大地が光った。

 周囲でも、ざわつきが起きている。


 魔導の力が、大地に流れている。そう実感するには十分なほどに、自分の魔導が唸っているのを、アースは感じた。

 直後だった。


(……正統なる力を求める者よ、ここに来るがいい)


 声が、脳に響いた。女性の声だった。だが、マリアとは全く違った声だ。

 その瞬間に、マリアは瞳を開いた。


 マリアの赤い眼が、再びこちらを見る。相変わらずの、怜悧な眼差しだった。

 だが、何故だか自然と、受け止めることが出来た。


「崩せない岩盤、あれの前に行け、アース。そこに、力がある」


 何かが、変わる。

 そんな予感がした。


「迷う時間はないよ、アース。急ぎな」


 思わず、坑道に向かって走っていた。

 ざわめきは、気にならなかった。


 力が欲しい。

 村を守れる力が。

 変えられる力が。


 ただ、それだけを願って、走った。

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