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エピローグ『戦乱の始まり』(後編)

 村に、随分久しぶりに戻ってきた気がする。

 たった数日。だというのに、そこにはロルムスもなく、少しだけ、焼けた家がある。

 死者も何人かおり、見知った顔がまた何人も死んでしまっていた。


 何もかもが変わった。そう感じるには十分だった。

 マリが、村人をアースの前に集めた。

 自分を中心に、マリとガウェル、イクスが横についている。


 驚いたのはクーリジェがいることだった。報告で聞いたとは言え、怪我だらけの状態からよく復帰したものだと思った。そのクーリジェは周囲の警戒と、捕虜の誘導に当たっている。


 捕虜の方は調べてみると案の定、脳に制御チップが埋め込まれた形跡があった。

 しかし、テオドールの魔導が消えた瞬間に、その制御がなくなった。

 結果、自分が何でここにいるのか、分からないというロルムス兵もかなりの数に及んでいる。

 そのため尋問を行う必要があると、それに特化した憲兵部隊に引き渡して尋問をしているが、本当にロルムス側も混乱しているらしく、難航しているとのことだった。

 また、廃人になりかけている兵士すらもいるとのことで、それは医療班がある程度当たってはいる。しかし、厳しいだろうとのことだった。


 同時に、今の状況も、同じくらい難儀だ。

 村人の自分に向けられている目は、唖然としていた。


 それもそうだ。ついこの間まで同じ採掘をしていた人間が、こんな鎧つけて剣背負って、挙句の果てにここの領主を斬ったのだ。

 それも、グランデンの象徴、ドゥンイクスを保持し、更にその象徴たる聖剣カリバーンまで起動させた。

 そんな状況なのだ。信じられない、という表情がほとんどだ。


 だが、アース自身、どちらにせよもう隠すつもりもなかった。


「アース、お前、まさか、名前……」


 村人の一人が、呆然としながら自分を見ている。

 名乗ったのだ。テオドールを討ち取った時に、名乗るべき本当の名を。


 もう隠さなくていい。

 そう感じると、少しだけ、ホッとした何かが胸に去来した。


「そうだ。俺はドラグーン王の遺児、アースライ・グランデン・キャメル。それが俺の名だ」


 ざわめきが、村人達の中から起こった。


「俺も、ついこの間それを知ったばかりだ。まだ王としては何一つ民のためになしてはいねぇ。だが、俺の中にあるんだ」


 自分の胸に、手を当てた。


「国を再び興さなきゃならねぇ。ロルムスの圧政がそこら中で起きてるなら、俺はそれに苦しむ民を、仲間を救わなきゃならねぇって、そう感じるんだ」


 だが、同時に感じている。


 引き返せない道。大乱が待ち受ける道に、自分は突き進む。

 それを皆が望むか。それが分からない。


「今更許せなんて言わねぇ。ロルムスに与してぇなら、俺をこの場で殺せばいい。そうすれば、グランデンは終わる。そして、戦乱も起きずにロルムスによる統治が進む」


 言った瞬間に、マリ、イクス、ガウェルがこちらをギョッとした目で見た。

 しかし、自分の言葉は止まらない。

 嘘偽りなど、ここで言っても仕方がない。


 だから、目に力を入れて、周囲を抑えた。

 そして、再度村人を見た。


「だがそれが嫌だったら立ち上がるぞ! 何人も仲間が殺され続けてる現実をいつまでも見てるわけにゃいかねぇんだ! 俺が、俺達が、この現状を変えてやる! 変えてぇという意志を持つなら、俺とともに来い!」


 持っていたトゥーハンドソードを掲げ、大地に突き刺した。

 それを奪って自分を殺すもよし。それはそれで自分の運命だったと思えばそれでいい。


 だが、目の前の村人はどうした。

 目が、燃えていた。


「誰がロルムスなんかに付いていくかよ!」


 誰が発したのか。その村人の声で、徐々に人が立ち上がっていく。


「アース、いや、王子殿下殿、俺達で良ければ力になるぜ!」

「俺達の国を再び興すぞ!」

「私にもそれを手伝わせておくれ!」

「私で良ければ力になるよ!」

「聖剣カリバーンにドゥンイクス! グランデンの象徴があるんだ! 勝てるぜ、この戦!」


 男女問わず、湧き上がる歓声。


 アースは、不敵に笑っていた。


「よっしゃあ! みんな存分に付いてこい! 国を起こす戦、はじめっぞ!」


 トゥーハンドソードを地面から引き抜き、天に掲げた。

 陽光が、剣先を照らした。まるで、これからの未来を照らしているかのように、アースには感じられた。

 それで、歓声が頂点に達した。


 歓声と同時に、一歩ずつ横についていたメンバーが前に出る。同時に、剣を鞘に収めた。


「まったく、乗せるのが上手くなったのは誰譲りかのぅ?」


 イクスが呵々と笑った。


「やれやれ。先導者気質は十分か」


 マリはマリで頭をかいていた。


「若様、何かあったらどうなさるおつもりだったんです?」

「さてな。そんなこと考えてねぇよ、ガウェル」

「は?」


 ガウェルが、キョトンとした目をしていた。


「俺はこの村に十六年いた。そこで横暴に働くロルムスを散々見てきた。だが、俺達には何処かで諦念があった。それは今のうちの兵卒でも何人かいる。少なくとも、国を興すならまずはそれを矯正していく必要があるんじゃねぇかな」

「なるほど。そのために乗せた、と?」

「ま、それだけ不満が溜まってたんだろうさ。後は、これによる連鎖反応が起きるか、だな」


 マリが、ため息を吐いた。


「そればかりはこちらから出向くより他あるまいよ。そろそろ穴蔵暮らしも終いにする時かもな。ただ、まずは近隣で足固めが必要にはなるが。補給線の確保、行軍、それから練兵、やることは山積みだぞ、アース」


 同時に、マリが怜悧な目をこちらに向けた。


「アース、ここからは修羅の道だ。分かってるな?」

「ああ、そうだな、おばさん。王の業、背負うしかねぇな。だが、みんながいる。それだけで、俺には十分だ」


 マリが、フッと笑った。


「そういうところ、本当に父上に似ているな」


 歓声がまだ聞こえる。


 グランデンに栄光あれ。その声がずっと響いている。


 風が吹く。

 晴天の中に吹く風が、これから起こる波乱のようだなと、アースは感じていた。


(了)

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