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第五話『王と聖剣』(6)

 マリが、派手に暴れている。

 一時的に村に起こっていた火災も沈静化しており、広域レーダーに示されているモンスターの数も減少の一途をたどっている。


 マリだけでなくクーリジェ率いる歩兵部隊が住民の避難をさせつつモンスターを倒し続けているらしい。

 村はマリ達に任せれば十分だろうと、アースは感じた。


 しかし、そうは言っても厄介なのは目の前のテオドールの機体だ。確かにパワーがこちらと同格だ。

 だが、テオドールにはそこまで高い魔導が流れているとは思えない。

 機体が魔導をブーストさせているのかと、アースは感じた。


 つまり、それだけ本人の力量を遥かに凌駕して機体が強力、ということの裏返しだ。

 一度カルドゥエッフを弾いて、距離を取る。


『モンスターの群れが倒れたとしても、貴様を倒せば同じことだ! 我がロルムスの開発した新鋭機である『フジョーネ』の剣の錆になるがいい! 亡国の亡霊!』


 フジョーネが突っ込んでくる。


 上段。振りかぶってくる。

 カルドゥエッフで防いだ後、もう一度弾く。


『ほぅ。まだ弾けるだけの元気があるかぁ! ならば貴様の心をへし折る手に打って出るか! なぁ、アースライ・グランデン・キャメル!』

「長い名前覚えてもらってるのは結構だがな、てめぇは口だけか?」


 言うと、テオドールの高笑いが聞こえた。


『口だけ? そうだな、お前は知らないだろうが、お前の親父は私が作った毒を口に含んだから死んだんだよな』


 どくんと、心臓が唸り、瞬間、周囲の戦闘が一時的に止まった。


「なん……だと……?」

『言葉通りだよ! ドラグーン王が死んだ原因となった毒は私が作ったものだ! まさかあそこまであっさり油断して敵国から渡された毒入りの飲料を口にするほどの平和ボケとは思わなかった! 実に痛快だったぞ!』


 テオドールが、また高笑いをしている気がする。

 だが、自分には何も聞こえない。


 ああ、そうか。

 こいつは、『殺していいんだ』。


 何か、スイッチが入った気がした。


 理性など、もうどうでもいい。

 あいつを殺すモンスターと、俺は化そう。

 殺す。


 思った瞬間、ドゥンイクスを駆けさせた。


 何か、誰かの声が聞こえる。


 誰の声だ。

 知らない。どうでもいい。

 殺す奴がいる。

 ならば、殺す。


 一気に、上段からカルドゥエッフを振りかぶる。

 フジョーネが防ぐと同時に、フジョーネが蹴ってきた。

 コクピットに、ものの見事に蹴りが直撃した。


 一気に衝撃が来て、そのまま飛ばされ、崖に打ち付けられた。

 操縦桿から手が離れる。


 声。誰の声?

 分からない。

 自分を呼ぶ声がする。


 声が遠くなると、真っ暗な中に、アースの身体は浮いていた。


 誰かが、目の前にいる。

 威厳に満ちた、何処かで知っていると魂が言っている姿だ。

 王冠と、空色のマントを付け、銀髪に緑の目をした、若い男。


 それを見て、感じたのだ。

 この男は。


「……初めましてって言えばいいのか? それとも、久しぶりって言えばいいのか? 親父」


 自分の父親、ドラグーン・グランデン・キャメル。

 見たことすらないのに、魂がそうだと告げている。


「我が息子、アースよ。すまないな。私の不注意故に、お前を戦乱に巻き込んだ」


 威厳に満ちているが、同時に優しい声だった。

 不思議と、聞いていると安心できる、そんな声色だった。


「今更言うな。あんたの平和路線は間違ってなかったんだろ?」

「いや、間違っていたのだ。私は愚か者だよ。マリの声にも、イクスの声にも、それ以外の臣下皆が警戒していたのに、ただ一人突っ走って油断した、愚王だ。結果、民は苦しんでいる」


 アースは、ため息を吐いた。


「今になって言うな。俺も、キレて訳わかんなくなって、今やこのザマだ。仇すら、取れやしないで、死んだ」


 ドラグーンが、首を振った。


「いや、お前は生きている」


 まだ生きている。そう言われて、怒りが、また湧いてくるのを感じる。

 まだ殺せるチャンスがある。そう感じられるのだ。


 だが、ドラグーンは首を振った。


「怒りは、己の内だけに秘めろ、アース。マリに、イクスにも言われただろう。怒りだけでは、ドゥンイクスの力を完全には発揮出来ないと。お前の、本来の思いを思い出せ」


 本来の思いと言われて、ハッとした。

 自分にとって、村を守りたいと思ったことが、ドゥンイクスに乗った第一歩だった。

 それを忘れては、何もならないと、散々言われた。


 そして、自分はその教えを忘れて、突っ走ったのだ。

 やってしまったと、心底感じた。


「反省は、生きている人間だけの特権だ。お前はいくらでも反省し、直すことが出来る。耳を傾けてみろ。皆の声が、聞こえないか?」


 そう言われて、一度目を閉じた。


『若様! まだ寝ておられるのですか!』


 ガウェルの声がする。


『アース! 死ぬ気かおぬしは!』


 イクスの声がする。


『アース、お前はまだそんなところで死ぬタマじゃないだろう』


 マリの声がする。


 若様。そう呼ぶ数多の声がする。


 心臓が、唸る。

 まだ、生きている。

 指が、微かに動くのを感じる。


「聞こえたのだろう、皆の声が。だからアース、私の仇を取ろうと思うな」


 ドラグーンの言い草は、あっさりとしている。

 何故こんなにあっさりと言い切るのかが、アースには理解できなかった。


「だが、あいつはあんたを殺したんだぞ! 憎くないのか?! 俺は、俺は、あんたと、もっと話がしたかったんだよ! だというのに、その殺した相手が目の前にいて、見てろって言うのか?!」


 それが、自分の本心だと分かった。

 アースは、もっと父親が知りたかった。

 王として威厳のある、優しい父親。それから多くを学びたかった。


 だが、それはもう出来ないのだ。

 それがただひたすら、自分で悔しかった。


 だが、ドラグーンはかがんで、自分の肩を優しく触れた。


「言っただろう。私の仇を打とうとするなと。お前が歩むのは、決して私の後追いであってはならんのだ。だが、決して血塗られた外道の道を歩んでもならぬ。アース、お前は、お前の王道を歩めばいい。いいな、臣下の声を聞け。そして、生きるだけ生きろ。それが、愚王であった父が、唯一送れる言葉だ」


 涙が、頬を伝った。

 ドラグーンは、相変わらず優しく微笑んだままだった。


「親父……」

「さらばだ、息子よ。生きろ」


 ドラグーンが、光となっていく、

 そして暗闇を切り裂いた。


「親父!」


 叫んだ。

 瞬間、目の前にモニターが見えた。


 グルディスが、自分の前に立ちふさがり、フジョーネと剣を交わしている。


『若様! ここで死なれるおつもりですか!』

「アース!」


 ガウェルとイクスの声で、ようやくハッとした。

 首を振った。


「イクス! 俺はどれだけ気絶していた?!」

「ざっと二分じゃ! まったく! 死ぬ気か!? あんな挑発に乗って我を忘れるなど!」

「すまねぇ!」


 操縦桿を、再度握った。


「ん? おぬし、やたら落ち着いてるな?」

「夢に、親父が出てきた」

「何? ドラグーンが?」

「私の仇は打つな、お前の王道を行け、だそうだ」


 イクスが、含み笑いをする。


「まったく、あいつらしい。だが、決心付いたのじゃろう?」

「そうだな。第二ラウンドと行こうか。まだ、戦えるよな?」

「わらわを何だと思っておる。この程度でやられる魔神機ではないわ」

「その言葉を聞いて、安心したぜ、相棒!」


 言った瞬間、一気にドゥンイクスを起こして、駆けた。


「ガウェル、変われ!」


 言った直後、グルディスがフジョーネの剣を弾き、そのまま、カルドゥエッフを下から上へと振った。

 フジョーネの左腕を叩き斬っていた。


『何ぃ?! 死に体の奴に?!』


 テオドールの驚きの声が聞こえる。


「無様っぷり見せて悪かったなぁ、クソ機械帝国のクソ野郎」


 ドゥンイクスの左手の親指を、地面に向けた。


『き、貴様ぁ! 亡国の分際でふざけた態度を!』

「安っぽい挑発乗ってるのどっちだよ。お前は俺の親父の仇だが、それとは別件でお前を殺さなきゃなんねぇ。お前は」


 カルドゥエッフを、構え直した。


「うちの民を蹂躙した。俺の民を傷つける奴を生かしてはおけねぇんだよ。将ならかかって来いや、オラァ!」


 フジョーネが、一気に突っ込んできた。

 剣を振りかぶるが、軌道がよく見えた。


 避けて、横合いからカルドゥエッフを叩きつける。

 フジョーネの右肘から先が、なくなっていた。


『な、何ぃ!?』

「ようやく分かったぜ。てめぇは、機体は強ぇがそれに頼りっぱなしなんだよ!」


 そのまま、先程こちらがやられたように、胸を蹴り飛ばした。


 崖にフジョーネが叩きつけられ、そのまま、機能が停止する。

 カルドゥエッフの剣先を、フジョーネに向けた。


「勝負あったな」


 しかし、カルドゥエッフを振りかぶろうとした瞬間、背筋が凍った。


 コクピットに警報が鳴り響いたのだ。


「なんだ?!」

「モンスターがこちらに向かってくる!」

「何?」


 確かにレーダーを見ると、モンスターがこちらへと向かってくる。

 数は残存する全てだ。その数は二〇〇程、といったところ。

 これで倒せると思っているのかと、一瞬思って、なにか違うと、アースは感じた。


 また、警報が鳴った。


「今度は何だ!?」

「フジョーネから高魔導反応! アース、こいつ、何かあるぞ!」


 イクスの声と同時に、愕然とした。


 停止していたはずのフジョーネがゆっくり立ち上がり、破壊されたはずの腕がフジョーネ本体から出現した。

 そこに、先程のモンスターが殺到してくる。

 そのモンスターたちが、フジョーネの腕に取り付いて、今までの腕と全く異なる腕を形作った。


 明らかに生物的なラインを持っている腕だ。それに、フジョーネの全高よりも遥かに巨大だ。


 その後、脚にもモンスターが取り付いて変貌していき、フジョーネは六脚になった。

 これもまた巨大だ。脚自体がドゥンイクスの全高に匹敵している上、生物的な形をしている。


 その後残ったモンスターがフジョーネの胴体を覆っていき、融合していく。

 そして、気づけばドゥンイクスの三倍強の巨大なモンスターが、崖を切り崩しながら生まれた。


『これが……これが我らが力だぁ! 何が勝っただ、思い上がるな小僧! そしてぇ!』


 テオドールの声と同時に、フジョーネだったモンスターは腕を伸ばす。

 すると、近隣のザグツェンに触れた瞬間、ザグツェンがどんどん溶けていき、モンスターの腕の外郭を覆った。


『機械すら融合する! これが我が兵器だぁ! この力でェ、死ねェ小僧!』


 もはや正気を失ったとしか思えないような、裏返ったテオドールの声がする。

 汗が、頬を伝う。


『全軍構え! 来るぞ!』


 ガウェルの声と同時に、全部隊がこちらに集中した。ロルムスの部隊も、愕然としているのか動きを止めている。


「やるしか、ねぇな!」

「来るぞ、アース!」

「ああ、行くぜ!」


 叫んでから、再度カルドゥエッフを構え直し、疾駆した。

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