第五話『王と聖剣』(4)
転移魔導で行き着いた先は、村のすぐ近くだった。
自分は中軍に位置し、先鋒にはガウェルのグルディスがいる。
転移すると、すぐさま部下の魔導機が各場に散った。崖上にいるのもいれば、自分の周囲にいるのもいる。
ガウェル他の狙撃部隊が、構えた。
敵まで約一カルヤール(約1km)。目標、敵陣先頭にセットしたことを、ガウェルが知らせた。
その瞬間には、撃っていた。
確かに、敵の反応が一個消えた。
だが、それはテオドールの後ろにいた、あの男にとっての味方だった。
味方を盾にして、自分をかばわせたのだ。
『敵隊長機、集中して狙うぞ!』
ガウェルの声がする。同時に、崖上の狙撃班もテオドールに向けて撃つが、テオドール機は周囲の味方を取っ替え引っ替え盾にして当たるのを防いでいる。
舌打ちしたと同時に、怒りがこみ上げてきた。いくら敵とはいえ、隊長ともあろうものが、生きている味方を盾にするというゲスな戦法が、アースには許せなく感じた。
敵が、行軍速度を早めた。
狙撃班も構えるのをやめて、すぐさま後方へと移動を開始すると同時に、グルディスも構えを解く。
『若様、ご下知を!』
「分かった! 全軍抜剣、行くぞぉ!」
アースが叫ぶと同時に、全機を一斉に進軍させた。そこでもガウェルが先鋒なのは変わらない。
一気に、敵との距離が縮まった。
一定の場所で、後方から支援する魔導特化型のベイルディンは止まり、氷の弾丸と炎に包まれた岩を作り出して、こちらが突撃するのに対して支援砲撃を開始する。
対して敵はシールドを敷きながら、こちらに向かって突撃してくる。こちらの魔導に貫かれる者も、何機かいた。
だが、それでも敵の動きには狂いがない。
思ったよりテオドールの指揮手腕そのものは悪くないようだ。
「いいな、アース、遮二無二突っ込んで死ぬでないぞ」
「ああ! 行くぜ!」
先陣のグルディスが接敵する。
瞬間、グルディスは一気に横薙ぎにガラディーンを振るい、三機を一斉に上下に分かった。
その直後、一気に乱戦になった。
目の前。敵が来た。
ただ、ひたすらに練習したことをやればいい。
そう思えた瞬間、一瞬、戦場の音が聞こえなくなった気がした。
すぐさまカルドゥエッフを上段から振り下ろすと、ザグツェンはシールドごと左右に分かたれた。
鋭く機体が破壊されていく金属音だけが、アースの耳には響いている。
自分でも感じるのだ。明らかに、ドゥンイクスの剣の振りの速度が上がっているし、驚くほど動く。
鎧の力か。それとも、己の力か。
逡巡する前に、動くことにした。
目の前にまた一機。剣を持っていたが、下から一気に振り上げた。
そのまま、ザグツェンの残骸が、自分の後ろへと飛んでいった。
今度は二機がかりで来た。
剣劇が来る。横に避けて、横薙ぎにぶっ叩く。
二機とも、同時に弾き飛ばされ、崖に激突し、そのまま動かなくなった。コクピットは、完全に潰れている。
その瞬間、戦場の相手の動きが、ピタッと止まった。
自分に、敵の視線が集まった気がした。
それを察知してか、グルディスと他数機が、自分の周囲を囲んだ。
その瞬間に、アースはドッと汗が出たのを感じた。
身体が不気味なくらいに動く。だが、一方で確かに自分は、演習とは違う、命のやり取りをしたのだと実感した。
後少しずれていれば、どうなっていたか。
そう思ったが、思うだけにとどめた。
これを味方に伝えれば、間違いなく士気に重大な影響を及ぼす。
王は、下がってはいけない。
それを、まさか戦場で学ぶとは、思いもしなかった。
「イクス、敵は?」
『こちらの損耗は幸いにしてない。マリの奴は相当鍛えたようじゃな。ただ、相手の損耗はまだ三〇。うちガウェルが仕留めたのは一五じゃ』
そんなにこの短時間で仕留めたのかと、ガウェルの剣技に驚くより他ない。
自分の側に、それだけの猛者がいるだけでも安心できた。
だが、頼ってばかりもいられない。
戦力差は、まだまだあるのだ。
『のこのこやってきおったか、ドゥンイクス!』
テオドールの声がすると同時に、テオドールの機体が、ゆっくりと戦場を割って出てきた。
『隊長のお出まし、といったところですか』
ガウェルからの通信が入る。モニターを見ても、汗一つかいていない。
やはりガウェルは強いと、思うよりほかなかった。
「ああ、テオドールだ。俺達の村で散々好き勝手やりやがった、ゲスだ」
『ほぅ。ならば、奴を切り捨てることを優先しますか?』
「それが妥当だろうよ。どのみち、相手の数はまだ多いからな」
『承知』
一歩、ドゥンイクスを前に出した。
「よぅ、散々好き勝手やってくれやがったな。テオドール」
『ほぅ。その声、アース・ドラグか! やはり貴様がグランデン王家の血筋だったか!』
「やっぱり俺に眼を付けてたか」
『貴様は魔導が強すぎた。ブレイカーなどと称される程魔導機をオーバーヒートさせる人材などそう簡単にはいない。だとすれば、疑いもする。だから村人の公開処刑もしてカマをかけたが、なかなか出てこなかったな』
操縦桿を握る力が、一段と強くなった。
怒りが、込み上がってきた。
「てめぇ……! 俺をあぶり出すためだけにあんな面白おかしく殺したのか!」
『そうだ。それに、村人殺しは私のストレスの発散でもあった。たかが亡国の貧民が何人死のうが、私にはそんなに関係ないんでね。それに、まんまとおびき出されてくれてありがとう』
テオドールの機体が、指を鳴らした。
瞬間、急に、ゾクッとした何か気配がアースの背筋に這った。
コクピットに警報が鳴り響いたのは、その直後だ。
レーダーの赤点が、崖の上に増えていく。
「増援?!」
「いや、違う……魔導機ではないぞ!」
『全軍に緊急連絡! モンスターが周囲に現れた! 数三〇〇!』
イクスの声の後、通信が入った。
そして、モンスターは自分達に構うことなく、村の方へとひた走っていく。
「しまっ……!」
『そうだ。私達と戦っていれば村人が死ぬぞぉ! 辺境の村が一つ滅ぼうが、私には知ったことではないのでなぁ! さぁ、どうする? どうする?!』
どうする。
数を村の防衛に割けば、こちらに犠牲者がかなりの数出るのは必定だ。
だが、村は放ってはおけない。
どうする。
どうすればいい。
考えて、答えが、出てこない。
どうする、アース?! 考えろ、考えるんだ……。
『まぁ、行かせはしないがなぁ!』
テオドールの声と共に、テオドールの機体がこちらに突っ込んできた。
ガウェルが、自分の前に入って、剣劇を受け流した後、鍔迫り合いになった。
だが、グルディスがどんどん押されていく。
「ガウェル!」
『若様! この機体は……! 魔神機並みの出力があります!』
ガウェルの言った言葉は、にわかに信じがたかった。
しかし、グルディスがそんな簡単に押されるとは思えないのだ。
「なんだと?! イクス、まさかあれは魔導機なのか!?」
「ああ、あんな魔神機はいない。あれは魔導機じゃ……! 我らが相手するよりはないぞ!」
「ちぃ!」
イクスの言葉の後、ドゥンイクスを駆けさせていた。
ガウェルと入れ替わって、鍔迫り合いをする。
鋭い金属音が、自分の耳に入ってきた。
『若様!』
「ガウェル! こいつは俺が抑える! お前は全体の指揮を!」
『しかし、若様!』
「俺は、お前に散々しごかれたんだぜ……!」
一度、カルドゥエッフを弾いて、テオドールと互いに距離を取った。
カルドゥエッフを構え直す。
「そう簡単に、負けねぇよ」
ガウェルの、つばを飲む声が聞こえた。
『若様、承知しました! 御武運を!』
言って、ガウェルが指揮を取り出した瞬間、自分の周囲の戦闘が激しくなった。
自分は、テオドールと対峙するだけ。
それに集中すればいいだけのことだと、アースは自分に言い聞かせた。
息を吸って、吐いた。
気が、みなぎるのを感じた。
いけると、アースは思った。
「行くぞ。イクス」
「ああ、行くぞ、アース!」
互いに言って、ドゥンイクスを駆けさせた。





