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第五話『王と聖剣』(2)

 一つ、欠伸をした。

 この四日間、特段動きがあったという報告もない。


 一方で気がかりなところもある。

 戦闘で破壊された機体について、ロルムスが回収に来ないのだ。

 いくらなんでも二〇機も未帰還ならば、その周囲に対して何かの警戒をするはずだが、それすら来ない。


 試しにライネル村に斥候を送り、気心の知れた親方から手紙をもらったが、ロルムスが帰ってこなくて平和、とのことだった。


 しかし、どうも本当に解放したのかという疑問が、マリの胸の中にあるのだ。もし本当に解放したのだとすれば、ロルムスが軍勢を送ってくるとは思えない。


 それ以前に気になるのはテオドールだ。あの殲滅した機体群の中にテオドールはいなかった。


 何故そう言い切れるかといえば、あの殲滅した残骸から漂う魔導の成分を分析したからだ。


 死体からも魔導は出てくる。魔導は各々固有の『流れ』を持っている。つまりその魔導自体が人を分析するために役に立つのだ。


 だが、あの中にテオドールの魔導反応はなかった。

 つまり、あれは斥候であり、テオドールの本隊が別にいる、ということを考えるのが無難だろう。


 テオドールが逃げた、という可能性も考えたが、ドゥンイクスを見ていなかったはずがない。

 だとすると、次に奴が出てくる手口は、ドゥンイクスの捕縛、ないしは破壊だろうと、マリは見ていた。


 扉をノックする音がすると、自分が何か言うより前にイクスが入ってきた。


 考えてみれば、イクスには聞きたいこともあった。

 椅子をイクスの方に向けた。案の定、イクスはこちらの意図を読んでいるような顔をしていた。


「イクス、質問だ。お前、クレイルモルドを何処まで知っている?」


 ここなのだ。

 もし仮にドゥンイクスの存在がロルムスに知れ渡り、フィン自ら出張ってきた場合、勝利の可能性は万に一つもない。

 せめて事前に情報だけでも仕入れられれば、というのがマリなりの考えだ。


「わらわの兄弟機じゃよ、あれは」

「……は?」


 思わず、絶句した。

 魔神機の数は少ないし、第一どれだけあるのか分からないこともある。


 クレイルモルド自体、見つかったのはつい最近だ。少なくとも、一六年前の戦乱の時には影も形もなかった。

 それが、今になって突然現れ、挙句の果てにそれがドゥンイクスの兄弟機だと言われて、絶句しない奴はいないだろうと、マリ自身思う。


「機構がほとんど一緒なのじゃ。攻撃もほぼ同一の大剣、内部構造もほぼ一緒。ただ、人間形態の姿がのぅ……その……」


 イクスがうつむくと、顔を真赤にして人差し指を互いに寄せる。


 何をやっているんだ?


 そう思わざるを得ない。


「……わらわよりも全然グラマラスで見た目どう見てもいい女なのじゃ! こんなにちんちくりんな感じじゃないのじゃ! どうして兄弟機なのにこんなに違うのじゃ!」


 イクスが顔を真赤にして叫んだ。


 心配した自分が馬鹿だった。

 思わず、吹き出した。

 なんというか、悩んでいた自分が、馬鹿らしくなってきた。


「な、何も笑うことないじゃろ?!」

「い、いや、悪い悪い。お前がそんなこと気にするとはな。いや、意外だな。まぁ、確かにお前小学生って言っても通じるな、そのサイズは、うん」

「やかましいわい!」


 相変わらずイクスは顔を真赤にしている。

 どうも子供っぽいところがあることに、少し意外性を感じた。


「まぁ、それはさておき……」


 一度咳払いをして、イクスを見る。

 イクスもすぐに冷静になって、こちらを見た。真剣な眼差しそのものだった。


「いつまでもここにいるわけにはいかないな」

「そうじゃな。穴蔵でいつまでもこもっておったら、反抗なんど夢のまた夢じゃしな」


 そこである。

 いつのタイミングで出るか。そして、どうやって出るか。

 これが一番マリにとって悩ましい疑問だ。


 アース以下全部隊を投入した場合、補給線はなくなる。そうなれば一巻の終わりだ。

 補給線が断たれた軍勢など孤立して一瞬で餓死するのが目に見えている。


 せめてブリウェンを動かせる人材がいれば、ここの食料プラントも兵員も魔導機まで何もかも連れて行けてここから出られる。

 しかし、肝心のその人材がいないのが、今の難点だった。


「わらわが眠っていたあの村から住民を引き抜くのはどうじゃ?」

「それは私も考えた。だが、今アースが出ていっても、まだアースは王の器としては不完全だ。第一、お前の真の武器、起動出来ていないだろう?」

「そうじゃな。あの力さえ解ければ、恐らく誰もが納得するじゃろうがな」


 ドゥンイクス本来の武器は、カルドゥエッフではない。

 あれはあくまで『鞘』だ。

 本来あれに収まっている剣、あれを解放出来れば、誰もがアースが王だと納得するだろう。


 だが、アースはまだドゥンイクスに乗って日が浅すぎる。

 日に日に腕は上達しているし、ガウェルなどを惹きつけるという意味では問題はないが、一般大衆が付いてくるかとなると、また別の『象徴』が必要になる。

 それがドゥンイクスの鞘に収まっている剣だ。その剣こそが、王家の、それも直系にしか抜けない伝説の力にしてグランデンの象徴だ。


「あれの封印、いつ解除できるかな。それさえ出来れば、割と人員集めるのに苦労はなくなると思うが」

「時が来ればいずれ。マリ、おぬしが心配してもしょうもあるまい。それに、そう遠くないやもしれぬぞ。あやつの魔導力は桁外れじゃ。アースも含めて一八五人乗った中でもずば抜けておる」

「それはよく知っているよ。もっとも、魔導力だけでは鞘は引き抜けん」

「そうじゃな。確固たる意思。それがない限りは抜けぬ。あやつがガウェルと初めて対峙した時、最後の最後で見せたむき出しの意思。そこにわらわは可能性を感じるのじゃ」


 可能性というものは、いつの時代も人を惑わす、何か魔力のようなものを感じるときが、マリには時々ある。

 可能性は無限大。そう言った者は多いが、はたして無限大という数値でないものはなんであるのか。


 もっとも、諦念したらそれまでだ。それもよく分かっている。

 諦念しているんだったら、自分はこの組織を立ち上げたりしていないし、アースにはロルムス式の教育なり機械なりを身に着けさせもするだろう。


 だが、自分はそうしなかった。


 グランデンを取り戻す。


 それが、自分の確固たる意思だ。

 だが、それは自分のエゴではないかとも、思わない日はなかった。


「私は、アース一人に業を背負わせすぎているのだろうか? どう思う、イクス」

「王は業を背負うものじゃ。多かれ少なかれ。あやつには多い業かもしれぬ。じゃが、じゃからこそ、おぬしのようにそばで支えてやる者があやつには必要じゃろう? それとも、それも破棄するかい?」


 イクスが、自分の顔をじっと覗き込むと、マリは首を振った。

 悩んでいても、仕方ないのだ。アースには背負ってもらうしかない。


 だが、潰れては困るのだ。

 だからこそ、潰れないようにしなければならない。

 それを支えてやるのが、せめて自分達に出来ることだ。


「そうだな。少し、悩みすぎているのかもしれないな」

「おぬしも身体動かしたりした方がええやもしれぬぞ。そうやって少し発散したらどうじゃ?」


 まるで言われていることが母親から言われているかのようだと、マリは思った。


 ローブ越しに、自分の二の腕を触る。

 プニッという音がした。


「……まさか、太ったか?」


 イクスが、吹き出すのに必死な顔をしている。

 自分でも感じた。

 村にいた時より、明らかに太った。


 というより、今思えばここにずっと籠もってから、座りっぱなしで会議するばかりだ。家事など身の回りのことは全部魔導でどうにかしてしまっている。

 まずいと、マリは真剣に感じた。

 だから、素直にイクスに聞いた。


「……イクス、楽してダイエットできる魔導はないか?」

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