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第四話『超えねばならない壁』(4)

 観測器具は、元々クーリジェの乗っていた機体に付いていた物であったことが確認された。

 状態を確かめると、かなり鮮明に戦闘の模様が映像として映し出されている。


 時々、クーリジェ達が潜伏していたと見られる村の様子も見て取れたが、全員臨戦態勢で待機していた。

 記録された場所を見ると、レンデンからざっと三〇〇カルヤール(約三〇〇km)程の小さな村になる。


 そこが、ロルムスに奇襲された。

 アースが映像を見る限りでも、残党軍もかなりの精鋭だったのか、奇襲されたにもかかわらず比較的落ち着いて、すぐに迎撃体制を整えていた。


『全軍魔導機起動せい! 敵の数はこちらの倍。だが、粉砕してみせようぞ! それがせめてもの陛下への手向けじゃあ!』


 叫んでいるのが、恐らくクーリジェの父親のコルツだろう。

 声だけで、豪傑であることがよく分かった。同時に、軍団を指揮するにあたり、鼓舞することや混乱を最小限に抑えようとすることも忘れていない。

 確かに、出来た指揮官だ。いわゆる猛将タイプだろう。


 コルツの機体は、大型のハンマーを持ったカスタム機だった。

 それを中心にベイルディンが二〇機弱。だが、一部のベイルディンは肩アーマーがなかったり、別の機体と合わせたとしか思えないようなカラーリングになっていたりと、かなりの激戦を散々繰り広げたという印象が拭えなかった。


 戦の記録映像を、アースはじっくりと見る。

 まずコルツの機体が、敵陣の中央に向かって突っ込んでいく。コルツは大声で味方を叱咤激励しつつも、その手際は恐ろしく繊細だ。

 陣を素早く小さくまとめ、一気に突っ込んでいく。


 しかし、その一方で遠距離から魔導を使うベイルディンに援護させることも忘れない。

 猪突猛進型ではないなと、見ているだけでも勉強になる。


 遠距離からの魔導による援護はかなり精密だ。空気中の水分を一気に魔導で固めて、氷の弾丸が作り出すと、それに向けてベイルディンが手をかざす。すると、一斉に敵ザグツェンに氷の弾丸が襲いかかった。

 前衛のザグツェンが、大型のシールドを展開して氷の弾丸を防ぐ。

 狙いは精密だったが、氷の弾丸はシールドに損傷を与えたものの、シールドを貫通するまでには至らなかった。


 しかし、その後すぐさま、コルツの機体を中心にした前衛陣がザグツェンに殺到した。

 コルツの機体がハンマーを振りかぶって、一気にシールドごとザグツェンを粉砕する。


 恐らく氷の弾丸は囮にしたのだろう。大型シールドに損傷を与えるということは、シールドを展開していない限りザグツェンを貫通できたということだ。

 しかし、シールドを展開する分、防御に対して全力を注がねばならない。それだけすぐさま来る攻撃に対してはどうしても反応が鈍くなるし、シールド自体に損傷部分があれば防御力は当然下がる。

 よく考えている。そうアースには感じられた。


 敵陣深くに、前衛が切り込んでいく。残党軍は死物狂いで突っ込んでくるため、戦闘不能になる機体も多いが、同時に粉砕する数も多い。

 前衛が突っ込んでいく。クーリジェの戦闘記録を見る限りでも、クーリジェ自身も剣を振って敵を切っていく。

 なかなかいい剣捌きだと思った、その直後だった。


 後方で轟音が響いたのだ。

 観測機器が後方に向くと、後衛の部隊が全機大破していた。

 それで、前衛の進軍も一度止まった。


 その破壊された後衛の部隊から、一機が出てくる。

 漆黒の機体だ。十字架のような大型の剣を背負いながらその機体はゆっくりと、前衛の方を向いた。


『後衛と前衛との距離を離しすぎた。ほんの少し離せば、私にとっては十分だ』


 静かな、それでいて、覇気のある声がする。

 そして、その声と同時に、あれだけ騒がしかった戦場が静まり返った。

 まるで、言葉を待っているかのように。


「これが……フィンの声なのか……? それと、あれが、魔神機クレイルモルド……」


 アースはつぶやくと同時に、自身に汗が出ていることに気付いた。

 殺気が、観測機器越しに伝わってくるのだ。


「アース、よく見ておけ。あれが、ロルムスの最強戦力だ」


 マリの言葉にツバを飲み込みながら、観測機器から映し出される映像を、アースは凝視していた。


『まさか、来ていたとはな……』

『コルツ殿が相手となれば、並の者では歯が立つまい。だから私が出張るしかなかったのだ』


 一歩、クレイルモルドがコルツの機体へと近づく。


『コルツ殿、グランデンはもう滅んだのだ。一六年も前に。私は、ロルムスの者として貴殿には敬意を払っている。一六年もやり遂げたのだ。もう十分ではないのか?』


 更に一歩、クレイルモルドが進む。


『我が軍に降れ。この大陸を豊かにするには、貴殿らのような魔導の技術に特化した者が必要なのだ。機械と魔導、この二つがあれば、この大陸はより豊かになる。私はそれを復活させたいのだ。そのためにも、貴殿ら魔導をよく知っている者の叡智が必要なのだ』

『な、何だ、この男は……』


 クーリジェの声が混じった。

 唖然としている、という声色だった。恐らく、全軍がそうであろう。


 フィンは今まで出会ってきたロルムスの将とは、全く違う異質な存在であるように、アースには思えた。

 その覇気、世界の見え方は、王のそれだ。


 だが、相容れないだろうと、アースは思った。

 あくまでフィンは、ロルムスの将なのだ。

 国の都合で、どうにでもなってしまう。たとえ、一人が高潔であろうとも、だ。


『その二国間体制を滅ぼしたのが、おぬしらロルムスだろう。今更降れは、虫が良すぎやしないか、えぇ?』


 クルツの、沸々と怒りに震えた声が聞こえた。


『そうだ。我々が滅ぼした。だが、何度考えても、下策だ。大陸を戦場にすれば、それだけ犠牲も多くなり、産業は停滞する。そのことを止められぬ国に仕えている私を笑いたければ笑えばいい。だが』


 そうフィンが言った後、クレイルモルドが、剣を構えた。

 しかし、礼を持った剣の構えだった。


 高潔な男だ。間違いなくそう言い切れた。

 何処か、惹かれている。アースはそう思って、首を振った。


 わからないのだ。何故敵国の将が、これ程自分を惹きつけるのか、と。


『私はレンデンの民を傷つけたくはなかった。だから厚遇もしたし、虐殺も許さなかった。だからこそだ、その融和性を広域に広げていくために、お主たちのような者が必要なのだ。最後に聞く! 降る気はないか?!』


 それで、またしんとなった。


 風が吹いた音がした。

 一瞬だった。だが、異様に長く感じた。


 コルツが、フッと笑った。


『なるほど。見事な将よ。ならばお主こそ、我が軍勢に降らぬか! 若造、国も陛下もくれてやったが』


 コルツの機体が、反転してハンマーを構え直した。


『私は、あくまでグランデンに仕える身! 我が祖国はグランデンのみ! ロルムスの旗を仰ぐ気にはなれぬ!』


 ハンマーの先を、クレイルモルドに向けた。


『残念だ。ならば、死んでいただくより他なし! 全軍手出し無用だ! 残りの敵、全て私一人で蹴散らす!』


 そうフィンが言った直後、クレイルモルドが一気に疾駆して、飛んだ。

 そして、コルツの後方にいた前衛部隊の陣に着地し、横から一気に襲いかかった。


 十字架型の巨大剣を、疾駆しながら上へ下へと振る度に、前衛のベイルディンが真っ二つに切り裂かれていく。


『な、なんだ、こいつは?!』


 クーリジェが叫ぶと同時に、クレイルモルドが眼の前に来ていた。

 クーリジェが舌打ちした後、クレイルモルドの剣を、自身の機体の剣で一度捌く。だが、剣を合わせた瞬間に、剣は砕かれ、一気に腕を斬られていた。


 そして、そのまま陣を抜けると同時に、一気にコルツの機体へ襲いかかる。

 コルツの機体が、ハンマーを振りかぶった。


 だが、それをクレイルモルドが左に避けて回避し、ハンマーは爆音と共に地面を叩いた。

 そして、その直後、コルツの機体の左腕が、クレイルモルドに斬られた。


 直後、クルツの大声がした。


『生き残っている者はただちに撤退せよ! そして生き延びるのだ!』


 その声と同時に、クレイルモルドの剣が、上からコルツの機体へと振りかぶられた。

 桁外れの速さだった。魔導機が、一瞬にして横に真っ二つに断ち切られていたのだ。


『父上―っ!』


 クーリジェの叫びと共に、轟音を立てて、半分に分かれたクルツの機体が左右へ倒れた。

 少し、涙をすする声がした後だった。


『全軍撤退! 目的の場所まで落ち延びるぞ!』


 そう言っていたクーリジェの声は、涙声だった。

 そして機体は反転し、すぐさま、戦場を後にした。


 そこで、映像も終わっている。


 見終わって、呆然としている自分がいた。

 まさか、魔導機と魔神機でこれ程に違いがあるとは思わなかったからだ。


 同時に、フィンの力が桁外れだ。今のガウェルが全力で戦ったとしても、勝てるかどうか疑ってしまうほどだ。

 たった一機で何十機も破壊する。それのみならず、行動がとにかく早い。

 敵でこんな武将がいたことを、単純にアースは驚いていた。


「これが……フィンか」

「アース、今のお前なら分かるはずだ。奴は、生半可の化け物ではないぞ。為政者としての資質、武勇、全てにおいて、お前はこれを超えなければならないんだからな」


 マリが、静かに言った。

 だが、覚悟を促したときと、同じ声色だった。


「ああ、超えなきゃいけねぇな。だけど、何故なんだろうな。俺、あの男が何をするのか、気になって仕方なかったんだ。敵にこんな感情を抱くのって、やっぱ王としちゃおかしいよな?」


 アースの言葉に、ガウェルは首を振った。


「いや、それでいいのです。学べるものは敵であろうが何であろうが、別け隔てなく学んで吸収すればいいのです。ひとつひとつのことが、今の若様にとっては糧になります。すべてを、勉学だと思ってください。若様は、まだ強くなれますよ。今よりも、遥かに」


 ガウェルの眼が、滾っていた。

 今の自分では、フィンは倒せない。


 だが、絶対に超えたい。

 そう素直に感じた者が敵国にいるとは、思わなかった。


「俺、強くなれるかな?」


 言うと、イクスが欠伸をした。


「強くなってもらわねば困るものじゃ。同時に、若造がそんな簡単にへばってどうするのじゃ。おぬしはまだまだ青い若造なんじゃ。せめて絶対強くなるくらい、言ってみせんかい」


 イクスの言葉に、アースは頷いた。


「そうだな。強くなる。俺は、強くなってみせる。あいつを、超えるために」


 マリが、ふっと笑った。


「やれやれ。若さは、ホントに武器になるな。だが、無鉄砲にはなるなよ、アース」

「分かってるよ。マリおばさん」

「さて、分析し終わったら、もう少し色々と学ぶぞ。徹底的にな」


 不気味に、マリが笑う。


 あ、俺追い込まれるな。


 そう思ったが、悪い心地はしなかった。

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