第三話『反抗組織と初めての忠臣』(5)
なんと声をかけるべきか。
労うことか。やりすぎだと注意することか。
それも違うなと、アースは思うのだ。
勝ったのだ。それも完勝。こちらの損害は魔導機含めてなし。
圧倒的な少数劣勢の状態からの裏打ちされた作戦による勝利。そしてあの機体の特性を活かしつつも、明らかに鍛錬を積んだと分かる剣技。
それらに自分は見惚れていたのだ。
それを感じると同時に、魔導の流れが格納庫全域に広がった。
ガウェル達の機体が、空いていたハンガーの下に出来た波紋のような転移魔導の入り口から出現し、設置されたハンガーへ収まっていく。
そして、コクピットが空いた瞬間に、大歓声がハンガーを覆った。
ガウェルはそれに対して手を上げて応えると、すぐさま手を下げる。
コクピットから降りたガウェルはすぐさま自分の前までやってきて、跪いた。
一瞬にして、歓声はしんとなった。
「王子殿下、ガウェル、ただいま帰還いたしました」
張りのある、いい声だ。
何処までもまっすぐなそれは、まるで今日の剣技を思わせる。
だからこそ、自分もまっすぐに受け止めればいいだけのことだ。
ニッと笑った。
「よく怪我なく帰ったな。すごかったよ、お前の戦い方も、剣技も」
「恐れ入ります」
「だからってわけでもねぇんだけどさ……その……」
「殿下?」
頭をかく。ストレートに言えばいいと分かっているのに、何故こういうときに自分は言い淀むんだと、アースは自分で自分を呪った。
すると、模擬刀をマリが持ってきていた。しかも、二本。
マリはもう分かっているのだ。自分を恐れても意味はないということに。そして、アース自身が、言うことを恐れている、ということに。
敗北を認めることもまた、一つ前進することになるのだ。死ななければ、それでいいのだ。
意を、決した。
「ガウェル、帰ってきて早々で悪ぃんだけどさ、剣、俺に教えてくれねぇか? しかも、出来るんだったら今すぐ」
ガウェルが、仰天した表情と同時に頭を上げた。
「で、殿下?! わ、私は構いませんが、しかし、先程までボロボロだったのに、まだやるのですか?!」
「ああ。あれについては、俺の負けだ」
言った。そう、あれは完全に自分の負けだ。
言ったら、かえってスッキリしたことに、アースは気付いた。
「お前に勝つには、正直もっと鍛錬積まねぇとダメだと、さっきの戦い見て分かったよ。お前、俺との戦いで、手加減したな?」
ふっと、ガウェルが笑った。
「お気付きになりましたか」
「ああ。明らかに俺に対して降った剣の速度と、グルディスでザグツェンを斬った時の剣の速度も違っていたし、捌きも違ってた。つまり、お前の力を俺は完全に引き出せなかった、ってことだ。それに、ドゥンイクスのカルドゥエッフ、あれは形状からしても剣だ。剣を扱うには俺は知識も身体の捌きもまだ全然出来てねぇ。だからだ、俺はお前に、剣を、そして戦を学びてぇんだ」
「なるほど。それは承知いたしました。しかし、殿下は何故に、それを学ぼうと思うのです? その返答次第で、私が受けるかは変わります」
なるほど、自分は試されているのだ。
だが、自分の答えはハッキリしている。
「守りたいからだ」
キョトンとした顔を、ガウェルはしている。他の連中も、皆そうだった。
だが、それには構わず、自分の言葉が出てくる。
「確かに、俺はドゥンイクスを持ち出せば、もっと楽に戦が出来るだろうと思った。だが、それは慢心でしかねぇんだってことにも気付いた。圧倒的な武を一つ持っていたとしても、それを自分が制御できなけりゃ、完全に力は発揮されない。イクス、溺れるなってのは、そういうことだろ?」
イクスが、一つ頷いた。
「そうじゃ。わらわの力だけでどうにかなるなら、おぬしでなくても動かせる人材をとうの昔にマリは探しておるじゃろう。外戚でも呼べば良かったんじゃからな。じゃが、そうはいかなかった」
「外戚だけで動かせるなら、ドゥンイクスはとうの昔に動いてる。だが、ずっと動かなかった。つまり必要なのは、王族であることだけじゃなく、イクス自身に自分を動かすに足ると認められること、だろ?」
今度は、マリが頷き、一歩前に出た。
「そうだ。お前自身が成長するのを待った。実際、何度か外戚が来てドゥンイクスをよこせと迫ったことはあったよ。だが、どいつもこいつも力に溺れるのは目に見えていた。そういう眼だったからな。ドゥンイクスは絶対的な力であり、王としての象徴だ。それをないがしろにする連中には、私は一切応じなかった。案の定、そいつらはいつの間にかロルムスに殺されていたがな」
なるほど、通りで自分のところに外戚連中が来なかったわけだ。
マリが事前に網を張っていたこともあるが、同時にロルムスに根絶やしにされたのだろう。
村の配給食を減らしていったり、奴隷に近いような政策を取っていることからするに、じっくりとロルムスはグランデンの住民を根絶やしにするつもりなのだ。
つまり、ロルムスにとって自分は今目の上のたんこぶに等しいのだろう。
だが、だからこそ自分の意思が大事になる。
「俺が村で過ごしている間にも、どんどん村は搾取されていくし、人は死ぬ。多分、どこでもそうだってのも、容易に想像出来る。だったらよ、王ってのは、率先してみんなを守る義務っつーのがあるだろうが。せめて状況を楽にして、みんなを守りてぇ。村人だけじゃねぇ、今苦しんでいる民、全てだ。だから」
アースの感情が、爆発した。
いつの間にか、土下座をしていたのだ。
自分が王という立場、今はそんな物関係ない。
ただ、学ばなければならないのだ。
「恥を忍んで言う! ガウェル、俺に剣を教えてくれ!」
師と仰ぐ。そんな男に、初めて出会った気がしたのだ。
この男に師事されたい。そう思ったのだ。
「殿下、土下座などおやめください」
ガウェルの声で、顔を上げる。
ガウェルは、静かに涙を流していた。
「王子殿下のお気持ち、受け取りました。これまでの非礼、お許しください。私は、あなたの意思を、侮っていたようです。あなたは、見事な王の素質を持っておられます」
そして、ガウェルは頭を下げた。
「不肖、このガウェル・マイ、王子陛下の剣技、師事させていただきます! マリ様、イクス様、それでよろしいですな?」
「ああ、構わん。ただし、やるなら徹底的にやれ。手抜きはなしだぞ」
マリが不敵に笑うと、ガウェルは涙を拭い、同じく不敵に笑った。
「承知しました。徹底的にやらせていただきます」
それでいいと、アースは思った。
自分でも足りないならば、それを補い続けること。それしかないのだ。
ならば徹底的にしごきに耐えてやる。そう思った。
「ああ、それと、さっきも言ったけどさ、俺堅苦しいの苦手なんだわ。もっと崩していいぜ?」
「しかし、そうは言いましても……」
ガウェルが、少し悩むように、顎をかいた。
「第一よ、王子殿下って逐一言うの、長いだろ? アースでいいぞ」
「いや、流石に殿下をお名前で直呼びするわけにはいきません。ここはせめて、若様で妥協していただけませんか?」
なんか、まだ固い気がする。
だが、ガウェルどころか全員困り果てているように見えた。
流石にこれはまずい気がしたので、ため息をはいた。
「若様ね、ま、いっか、それで」
「では、若様。これより、剣術の稽古を始めましょう」
「おう、頼むぜ」
そう言って、互いに立ち上がると同時に、模擬刀を互いに受け取った。
「よし、全員仕事に戻れ。整備班は魔導機の整備、急げ」
マリの言葉で、各員が散り散りになり、ハンガーに活気が戻った。
自分とガウェルは、ハンガーの片隅の練習場で、互いに模擬刀を向け合う。
「手加減なし、で、よろしいですな、若様」
「ああ、構わねぇぜ。本気で来てくれ」
「わかりました。なら、『俺』の本気、見せましょうか!」
ガウェルが、ニッと笑った。
始まりの笛が鳴る。
互いに、大地を蹴っていた。
アースもガウェルも、咆哮を互いに上げていた。
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