第三話『反抗組織と初めての忠臣』(4)-2
目の前に投影されるモニターで、戦闘の様子を見ることが出来た。
周囲にいる観測班からのものだが、ロルムスのものとそれほど映像の綺麗さに遜色はない。
だが、ロルムスと違うとすれば、機械的な物がこのモニターには一切見受けられない、ということだ。
魔導を用いて中継しているのだろう。
ここまで来ると、魔導と機械ではそれほど変わらないなと、何処かでアースは感じた。
しかし、この戦闘は何なのだろうと、疑問が湧く。
ガウェルが連れて行ったのは僅か四機。つまりガウェルの機体を込みにして五機しかいない。
相手は二〇機だ。しかし、ここにいる魔導機は三〇機を超える。
「なんでガウェルは全部出さねぇんだ……?」
そこなのだ。全部出せば数で圧倒できるし、自分も動けるようになったから、自分のドゥンイクスも出すことが出来る。
いくらガウェルに任せてしまったとはいえ、なぜこんな少数で挑むのか、それが理解できない。
「なぁ、マリおばさん。全部出せば数の上で圧倒できるだろ? なんでそうしねぇんだ?」
ほぅと、マリが唸った。
「悪くない着眼点だ。そう、基本的に少数の兵で大敵に挑むのは下策。我々とて本当ならばやりたくない手口だ。だが、やらなくて十分なんだ、あの地形ならな」
「地形?」
聞くと、マリが少しモニターに手をかざす。
周囲の地形を三次元化した立体図形が出来上がった。
見たことがない技術だ。機械ではまだここまで出来ないだろう。
思ったより技術がしっかりと発展していることに、アースは驚いた。
魔導技術はグランデンの崩壊で一部を除けばかなり微妙な立ち位置まで追い込まれているとは聞いていたが、いやここにある技術はロルムスのそれとほぼ匹敵するように思える。
「機械じゃなくてもここまで出来るのか……」
「だから大陸を二分できたとも言えるな。ロルムスとは元の技術体系こそ同一だが、魔導を発展させれたのがグランデン、逆に機械を発展させれたのがロルムス。それぞれの国家がバランス良くやっていたから、一六年前までの繁栄の栄華があったと言えるだろうな」
それだけ言ってから、マリアが指差す。
指差したポイントの図を見ると、ガウェルの機体が立っている場所だった。それに対して、高台に隠れるように、周囲にグランデンの機体が二機ずつ左右に別れている。
それに対してロルムスはこの狭い地形で二十機が隊を組んで進んでいる。
ハッとしたのはその瞬間だった。
「これ、ロルムスの機体が二〇機全部展開出来ねぇんじゃねぇのか?! まさか、ガウェルはそのことを俺に気付かせるために、わざと……!?」
マリとイクスが目を合わせて、互いにふっと笑った。
「よく分かったのぅ。思ったよりイノシシな頭じゃなくてホッとしたわい」
少し、イクスの言い方にアースはムッとした。
俺バカにされてないか。
一瞬そう思ったが、やはり戦場での戦い方の方に頭が回るようになってきている。
不思議なものだと、アースは感じた。何かが自分の中で変わってきていると感じるには十分だった。
「そうだ。この狭い道ではロルムスの機体を全部展開して包囲することは不可能だ。せいぜい展開出来て四機。他の機体は遊兵化する」
マリがロッドの先端で地図を指しながら言った。
「遊兵?」
「その名の通り遊ばせておくようになる兵士だ。戦いたくても戦えない兵士だと思えばいい」
「だけどよ、相手が魔導技術使ったり銃持ってたら遠距離からの支援だって出来るんじゃねぇのか」
「そこもいい着眼点だ。実際、遠距離でまず攻撃し、前衛をある程度ひるませる、ないしは殲滅した後近接戦闘に持ち込むのがセオリーだ。だからこそ、それを封じるために高台での準備が大事になる」
そう言われて、高台を見た。
高台に転移された四機の量産機が移動している。だが、見る限りでゆっくりと、忍び寄るような動きだ。
一方のガウェルの機体はただ一機で道に踏ん張っているようにも見える。
このままではガウェル一人で五機を相手にすることにならないかと危惧していた時だった。
ガウェルの機体が立て膝になり、銃剣を構えた。
その直後、ガウェルの機体の顔が割れた。見る限りでかなりの高感度センサーにも見えた。
「なんだ、ありゃ……」
「ガウェルの機体であるグルディスは元々狙撃に特化したような機体だったらしい。ああやって顔が開いているのは望遠鏡のようなものが展開していると思ってくれていい。要するに、遠くの敵に狙いを定めているんだ」
高台の左右の計四機のうち二機ずつも、動きを止めた。残りの二機は、更にロルムスの後方を行くように移動を続けている。
動きを止めた二機も、立膝の体制で銃剣を構え、狙撃の体制を取っている。
そして、グルディスとロルムスの前衛部隊との距離が一カルヤール(約一km)に到達した瞬間、グルディスの構えていた銃剣の先端に魔導の反応があったことを地図が知らせた。
その魔導は青く収束し、そして、撃った。
その直後、後衛にいた銃を持った一機のザグツェンの上半身が、跡形もなく消し飛んでいた。
轟音とともに、ザグツェンだったものが、地面に突っ伏す。それを確認しつつ、グルディスの持っていた銃剣は砲身が展開し、冷却を始めている。
それで一度、ロルムスの動きが止まった。その時には、既にグルディスは冷却を終え、再び構え直している。
その直後に、左右の岸壁から銃声。また、後衛の銃を持っていたザグツェンが、二機同時にコクピットが貫かれていた。
かなり精密だ。辺境とはいえ、派遣されているのはロルムスの正規兵。それに対して末端の兵士ですらここまで正確な射撃をする。
ドラグーンがこれほどの力を有しているのならば、確かに御旗を欲するのも通りだとアースは納得した。
そう考えているうちに、またグルディスが撃ち、ザグツェンを消し飛ばす。
その直後に再び岸壁から二機が精射。ザグツェンが二機突っ伏した。
これで気づけばロルムスは六機を失ったことになる。数字上では一対四だった比率は一対三以下まで低下した。
すると、ここでグルディスが立膝の構えを解き、右の岸壁を登って素早く敵の方へ移動していく。その動きに合わせて、狙撃をしていた味方も移動を開始した。
流石にここでザグツェンが手に持っていたシールドを構え、円周に陣形を組んでゆっくりと移動しつつ、周囲を見渡す。
だが、その直後、左右に展開していた残り二機の味方が、ピタリと動きを止めた。それも、ロルムス軍の陣形直上互い違いの位置で。
直後、その味方機から魔導反応。
そして、二機同時に魔導が発動した瞬間、巨大な岸壁がロルムス軍の前後を取り囲んだ。
完全に、それで動きをロルムスが止めた。
いや、止まらざるを得なかった。
完全に前後左右岩場に取り囲まれたのだ。それも魔導機の五倍以上の高さがある岸壁だ。
そして左右にそびえているのはそれより低いとはいえ、そこを登ったら魔導機が待ち構えている。
しかも今魔導を放った味方機には、先程まで狙撃していた味方と、グルディスが合流した。
直後、再び岸壁を作り出した味方機に魔導反応。二機同時に魔導を発動した直後、ロルムス軍のいた地面から炎が吹き出した。
それで分かった。
完全に敵を焼き殺すつもりだ。
あれだけの炎ならば機体はともかく、パイロットはただでは済まない。蒸し焼きになるのは目に見えている。
岸壁を出したのは退路や進路を断つためではなく、蒸し焼きに出来るように一箇所に固めざるを得ない状況を作り出すため。
後は簡単だ。そこを逃れるためには這い上がるしか手がない。それが出来る岸壁は左右のみ。
だが、そこには魔導機が待ち構えている。その上背後は森。高速で抜け出すなど不可能に近い。
案の定、機体に変化はないのに、どんどんザグツェンが倒れていく。中のパイロットが完全に焼かれたであろうことは、想像に難くなかった。
二機ほど、這い上がってガウェルに向かう。
恐らく、隊長機と見込まれたのだろう。相手のザグツェンが二機とも剣を構え、左右に分かれて突進してくる。
グルディスは、銃剣の持ち方を変えた。
それは、あたかも巨大な一本の剣のように見えた。銃剣らしさは失われているが、ただグルディスは自然に構えている。
ガウェルの息遣いが、モニター越しに聞こえた。
瞬間、グルディスは銃剣を上段に構えると同時に右を向き、一気にザグツェンに振りかぶる。
シールドごと、ザグツェンの胴体が斜めに斬られた。
早い。剣を振る速度が、自分に対して一騎打ちをした時の何倍も早いと、アースは感じた。
これが、ガウェルの本当の力なのかと思うと、思わず、背筋が凍った。
これと相対して、自分は負けないつもりでいたのだ。
慢心があった。そうとしか思えなかった。
「これが……」
唸っていた。
思わず、モニターに手をおいていた。
見たい。もっと。もっと。
その思いが、アースの中でどんどん大きくなっていく。
それに応えるように、グルディスはザグツェンが斬られていると同時に、一気に左脚を大地に根深く突き刺した。
その瞬間に、銃剣を再び撃って、その反動で高速で回転する。
そして、下段からザグツェンの振りかぶった剣ごと、右斜に斬った。
双方のザグツェンが、同時に地面に轟音を立てながら突っ伏した。
「残存魔導、味方を除いてなし。殲滅完了。各機、転移魔導より帰還されたし」
通信士の声が、戦闘が終わったことを告げた。
まだ、アースの手はモニターに置いたままになっている。
震えていた。
「これが、魔導機戦……これが、勝つこと……あれが……剣技」
心臓の音が聞こえた。
高ぶっている。ただ、夢中になって見ていた。
自分は、まだ弱い。それを実感するにも、十分だった。
だけど、自分は力をつけなければならない。
「俺は……」
言葉が、続かない。
それだけ、己の中の何かが、高ぶっていた。
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