第三話『反抗組織と初めての忠臣』(3)
疾駆してくる。
愚直なまでの一直線。その一方で純粋さを感じる、いい心構えだ。
だから自分も疾駆した。
まずは一合、アースが上から剣を振り下ろしたが、ガウェルからすれば隙だらけだ。
横に一閃。剣撃が来るより早く、腹に思いっきり模擬刀を叩きつけた。
アースの顔が歪むと同時に、思いっきり身体が吹っ飛ばされた。
周囲はざわついている。
だが、その直後咆哮。それと同時に、アースは疾駆してきた。
なるほど、思った以上に頑丈らしい。苦痛に顔が歪んではいるが、闘争心はまだ負けることがないようだ。
そうでなくては良くない。自分達の『仲間』になると言ったからには、これは遊びではないのだ。闘争心が簡単にへし折れるようでは、この軍勢はやっていけない。
再び模擬刀がぶつかった。
木の擦れ合う音がする。同時に思ったよりアースに力があることに、ガウェルは気付いた。
だが、それ故に戦法が力攻め一辺倒だ。
だから、そのまま押し切って、倒した。
アースの身体がバウンドする。
しかし、まだアースは立ち上がって突っ込んでくる。
面白いと、ガウェルは感じた。闘争心は本物だと思えたのだ。
同時に、先程剣先が言った気がしたのだ。
負けられるか、と。
アースが、攻め方を変えた。横薙ぎ。防御する。
瞬間に、また言霊が響いた。
変えたい。その思いが、伝わった。
口では、変えたいというのは簡単だ。実際そうやって口先で扇動した革命家の数は歴史上も、この世界でも数しれない。
だが、それを剣先の言霊に宿すということは、その思いは本物だということ。
剣先に宿る言霊だけが、ガウェルの信じられるものだ。
弾いて、右肩を打った。模擬刀を落とした隙に、横に一閃した。
また、アースの身体が飛ばされる。
だが、まだアースは諦めようとしない。
一合打っては跳ね返す。これを、一五度程繰り返した。
しかし、負けることをアースは認めない。
タフだ。正直言えばその感想に尽きる。
実際の剣ならば、もう二〇回は死んでいる。だというのに、諦めないのだ。
既にアースは、肩で息をしている。血も、各所から出ていた。
同僚も流石に止めようとするが、アースが何度も拒否をした。マリもイクスも、止めようとはしない。
守りたいという意思、変えたいという意思、その強烈な意思が、何度も剣撃を交わすごとに強くなっていく。
闘争心、意思、それは間違いなく本物だとガウェルは確信するに至った。
だが、まだ足りない。そう感じてもいた。
また、ぶつかった。
一度弾いた後、アースが少し下がった。それを待たず、接近して一突き。腹を突いた。
血混じりの胃液が、アースの口から吹き出し、アースがバウンドして、倒れた。
周囲がざわめく。
流石に倒れたか。
そう思った直後、笛の音が鳴る。
「勝者、ガウェ……」
「いや、まだだ……」
一瞬、全体が静まり返った。
ハッとした。
まだ、アースが模擬刀を杖のようにして、立ち上がってきたのだ。
汗が、少し出たのを感じた。
既にアースはボロボロだ。だが、覇気が、一気にむき出しになってきた。
なんという目をしているのだと、感じてしまった。
碧眼の双眸から見えるのは覇気。それも桁外れの覇気だ。
その眼に、まだ騎士に成り立てだった頃に拝謁した、王の姿を見た。
全く同じ目だ。覇気を持ち、絶対に諦めない意思を持つ、その中に青臭いが純粋な思いがある、惹きつけてやまない眼。
本物。そう感じるのに、十分だ。
「まだだろ……。俺は、俺は、この程度でくじけちゃいけねぇんだよ……。村から変えるって、そう感じたんだからよ……。王子なんだったらよぉ、守れなきゃ、ダメだろ……!」
アースが、模擬刀を構え直した。
今まで力攻めしかしてこなかった人間なのかと、一瞬にしてガウェルは感じた。
なんと、見事な。
そう心が疼いた直後、警報。
『ライネル村へ向けてロルムス軍進行中。魔導機二〇、機種はすべてロルムス主力量産機『ザグツェン』と確認』
思ったより早く帰ってきたと、ガウェルは思った。
マリもそう思ったようで、自分に眼で合図をした。
模擬刀を部下に渡し、マリに近づく。
「マリ様、ここは、私が出ようと思います」
「いや、俺が、行かなきゃ、ダメだろ……」
アースが、息も絶え絶えに、部下の治癒魔導士から治療を受けているが、とても戦える状態ではない。
魔導を流し込むことで、人間の持つ魔導の循環を早め、自然治癒力を向上させるのが治癒魔導士の役割だが、当然のことながら体力はそれなりにいるのだ。
だが、アースは思ったより頑丈らしく、あれだけ打ち付けたのに、ほんの少しの治療で立ち上がった。治癒魔導士は汗一つかいておらず、逆にその回復力に驚いてか呆然としている。
魔導力がそれだけある、ということの裏返しとも言えた。
確かに、マリが育て上げるに値するし、イクスが選ぶわけだと、自分で真に確信に至った。
同時に、マリがアースを止めた。
「お前はまだ戦を知らなさすぎるからな。一度見ておけ。ガウェルの、ドラグーンの切り込み隊長の戦、というものをな」
アースは少し、納得し難い表情をしている。
アースは自分が率先して守らなければならないという意思が強いが、同時に部下を持ったことがないので任せるということがわからないのだろうと、理解できた。
「だけどよ」
「いや、ここは私にお任せあれ。部下に任せることもまた、王になられるにあたって必要なことですから」
「任せる、たってな……」
少し、アースが考える仕草をする。恐らく、どうしても自分がどうにかしなければ、という性分がすぎるのだろう。
純粋なのだ。それは、大きな力になる。
だが、今はまだそれは武器の一つとして鞘に収めておくべきだとも感じる。
ガウェルは、アースの前に跪いた。
アースが少し、唖然とした表情をしていた。
「ここに来られたのです。ならば、我らの戦を存分に見ていただきたい。我らは、いずれあなたの手足になるのですから」
アースが、キッとした目になって、頷いた。
「分かった。頼むぜ、ガウェル」
頭を、下げた。
「はっ! このガウェルにお任せあれ!」
そう言って、立ち上がった。
相手は二〇機。だが、自分にとっては雑兵に過ぎない。
それに、戦を見せると言ったのだ。ならば、快勝すればいいだけのこと。しかも、アースに学ばせる形の戦で、だ。
そう思うと、胸が熱くなった。
付いていきたい。そう感じられるからだと、ガウェルの魂が唸っているのが感じられた。
「よし、第一、第二小隊、『俺』に付いて来い! 殿下に勝利を届けるぞ!」
「はっ!」
戦が始まる。
盛大な狼煙を上げに行こうか。
それだけを、考えていた。
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