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第三話『反抗組織と初めての忠臣』(2)

 呆然としていた。正直な感想を述べるとそうなる。

 少なくともそこにいた魔導機は見る限りで三〇機は超える。そのどれもが見たことがない機体だ。


 見る限りでラインもロルムスのような機械的な感じではなく、少し曲線を帯びた有機的なデザインラインだった。

 唯一の共通項は、一機を除いて全部空色に塗られていることか。その一機は紫に塗られ、他の機体よりもより充実したカスタマイズが施されているとひと目で分かる仕様になっていた。


 こちらに、周囲で魔導機を整備していた人間が気付く。


「……あれは、もしや、イクス様?!」

「何……?! いや、間違いない、イクス様だ! みんな、イクス様がお目覚めになられたぞ!」


 その声をきっかけに、多くの人間がイクスの前に集まってきた。イクスはそれを、当たり前のように見ているが、ただアースは呆然とするだけだ。

 それだけ、イクスが尊敬に値する存在である、ということなのだろう。


 つまり、ここはグランデンの某かの組織、ということになる。それくらいはアースにも理解できた。

 全員が、イクスの前に跪いた。


「イクス様、一六年の長きに渡り、我ら臣下一同、お待ち申しておりました」

「うむ、ご苦労。じゃがな、ぬしら、わらわが何故にこうしておるか、わかっておるのか?」


 イクスが、自分を見た。

 すると、誰もがハッとした表情をし、自分を見た。


「ま、まさか……アースライ・グランデン・キャメル王子殿下でありますか……?!」


 全員が、震えていた。

 しかし、正直そんなに期待の目を向けられても、実感には乏しい。

 少し、頭をかいた。


「その……そう、らしいんだわ。だけどさ、俺、ただの採掘工みたいな感じで育ったから、王子殿下って言われても、よくわかんねぇんだ」


 頭を下げた。


「すまん。みんなの期待に答えられるか、分かんねぇ」


 しんと、なってしまった。

 だが、自分としては正直に言ったつもりだ。最初から虚勢を張っても意味がないと、なんとなくだが思っている。

 正直すぎると言われれば、それまでなのだが。


「そんな……」


 失望したような声が聞こえた。

 まぁそうだろうなと、思うより他ない。


 だが、目の前で跪いている者達の熱量が、こちらにも伝わってくる。

 なんなのだと、思った時だった。


「そんなことおっしゃらないでください! 王子殿下ともあろう方が、我々臣下に頭を下げる必要などないのです! あなたが生きていらっしゃった、我々にはそれだけで十分なのです!」


 熱を帯びたその言葉を聞いて、頭を上げた。


 ハッとした。

 全員が、泣いていたのだ。


 だが、どう接すればいいのか、イマイチ分かりづらい。

 今更偉ぶれと言われても、正直困る。


「今更偉ぶる必要なんてないさ」


 後ろを振り向くと、マリがいた。

 マリはただ、淡々としていた。


「お前はお前のままでいればいい。そうでないなら、道を違えることはない。お前は私が育てたんだ。そうなるさ」


 そう言ってもらえると、少しありがたい。

 自然体でいればいいのだ。王だから偉ぶったところで、実力が伴っていなければただの威張りにしかならない。

 それを散々やっているのが、考えてみれば散々見てきたテオドールではないか。

 そういう風にならなければよいだけのことだ。

 そう思えると、アースの気が楽になった。


 臣下と言わず、仲間と思えばいい。仲間を目にして、少し、ニッと笑った。


「そういうわけだ。堅苦しいことは俺は苦手だ。これからお前達の仲間になる、そんな者の一人だ。だからよ、みんな、よろしく頼むぜ」

「はっ!」


 全員が、頭を下げた。

 失意の念は特にない。まぁ、上手くいったのかなと、アースなりには思うのだ。


「さて、いつまでもそうしてるわけにいかねぇだろ。つか、ここはいったい何なんだ?」

「ドラグーン」


 マリが、一言言った。

 静かな、それでいて覇気のある声だった。


「対ロルムスレジスタンスだ。かつての王の名を掲げた組織だが、元はグランデンの残党軍だ。ここにある魔導機も、全てグランデンで用いられていた物だ。数はそれほどでもないが、質に関してはそこらのロルムス軍には負けてはいない」

「しかし、これだけの規模揃えるって、結構時間食ったんじゃねぇのか?」

「実際、この規模、この質になるまで一六年かかった。それに関しては、私が中心になってやっていたよ。一応こうした組織は各所にあるが、連携が取れるまでには至っていないのが実情だがな」


 なるほど、マリが森に頻繁に出入りしていた理由が分かった気がする。

 考えてみれば、二人が食うだけならば畑でも作れば良かったのだ。それにも関わらず森に出入りしていたのはこの組織を裏から作るためだったとすれば納得がいく。

 要するに動物などもののついでだったわけだ。


「連携が取れないというと、やはりグランデンの弱体化は深刻なのかえ?」


 イクスの問に、マリが頷く。


「考えてみろ。国が完全に滅んだようなものだ。我々はアースという御旗を得たものの、この一六年で国土はこんな東端まで侵攻されてる。その間にレジスタンスは各地で出来上がったが、連携を取る人員や指揮をする者、物流などは圧倒的に足りていないからな。敗戦に次ぐ敗戦、それの繰り返し。ロルムスは強大だよ、想像以上に軍備が整っている」


 それだけロルムスは強国、ということにもなる。

 グランデンは自分が王子ではなく平民として過ごしている間に徹底的にやられたのだろう。口々からはマリの無念さが漂ってくるから、それはなおさらよく分かった。


「しかしマリ様、そのお姿からするに、もう身分を隠さなくても良いと?」


 一人の男が、発言した。


 若い男だ。顔に刀傷があるのがヤケに目立った。

 歳は三〇代前半といったところだ。端正な顔立ちをしているが、同時に戦というものをしっかりと心得ているような、そんな目をしている。


 思わず、自分で少し見惚れてしまう姿だった。本来の騎士のあるべき姿、というものに近かったからかもしれないと、アースは感じた。


「ああ。私の身分も、アースの身分も、隠す意味合いがなくなった。ドゥンイクスが起動した地点で、ロルムスには我々の動きはバレてるだろうしな」

「となると、殿下の身の安全も考慮せねばなりません。いくらドゥンイクスがあったとしても、殿下が討たれれば全ては瓦解します。そこでなのですが、無礼を承知で申し上げます。殿下、あなたと私で、一騎打ちを所望したい」


 周囲が、一気にざわついた。


「無礼であろう! 殿下と一騎打ちなど!」

「この少年を殿下と信じることは容易いものです。ですが、私は王子殿下が本物かどうか、見定めたいのです」


 なるほど、この男は自分を疑っているらしい。

 それもそうだ。突然出てきて急に王子だなんだと言われても、簡単に信じてもらえるとはアース自身も思っていない。


 マリは、少し考える仕草をしたあと、一つ頷いた。


「お前の抱くその疑問、もっともだな。信じられないのも無理はないだろう。で、剣技か?」

「そうです、マリ様。見る限りで、殿下と『称されている』こちらの少年、見る限りで採掘工。しかし、同時にもし本物であるならば、ドゥンイクスを動かしたのみではなく、意思があるはずです」

「意思?」

「強固な、我らやイクス様が忠誠を尽くすに値する確固たる意思でございます。それを私は、剣で見定めたい。故に、無礼を承知の上で、一騎打ちを所望するのです」

「剣で語る、か?」

「然り。剣には、言葉よりも遥かに重い言霊が集っておりますゆえ」


 なるほど、根っからの戦士だ。

 だが、不思議と言われても悪い気はしなかった。悪気はまったくなく、むしろ忠誠心に厚い。故に見定めたいというのが願いなのだろう。


 この男は純粋なのだと、アースは感じた。

 マリが、一つ頷いた。


「いいだろう。アース、戦え。武装は模擬刀で行う。それでいいな。アースは剣をやったことがないからな」

「承知しました」


 男が、立ち上がった。

 それで初めて、体格差がかなりあることに気付いた。自分より二〇サンタヤール(約二〇cm)は大きいだろう。同時に、自分よりも遥かに筋肉が発展しているのも、よく分かった。


 だが、負けたくないと、自分の中で何かが燃えているのが、アースにはハッキリと感じられた。

 まだ周囲はざわついたままだが、それを無視して、互いに渡された模擬刀を持つ。


「勝負はどちらかが負けを認めるまで行う。それでいいな」


 マリの言葉に、アースも男も頷いた。

 しかし、ふと気になったこともある。


「名前、聞いてなかったな。そういや」


 目の前の男は、不敵に笑った。


「ガウェル。ガウェル・マイでございます」

「じゃ、行くぜ、ガウェル」


 剣が、どの程度通じるだろうか。

 それは後で考えようと、アースは思った。


 思った後、笛がなり、その瞬間、互いに地面を蹴って駆けていた。

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