第三話『反抗組織と初めての忠臣』(1)
木漏れ日が差し込んでいる。鳥の声も聞こえる。
日は中点を少し過ぎたあたり、といったところだ。
しかし、分からない。
この森は、何処だ。
アースは何度考えても分からないこの状況に頭をひねるしかなかった。
家にいたはずがいつの間にかマリのロッドの光が収まったら森にいる。それも今まで座っていた椅子までセットというあまりにシュールすぎる図で、である。
どういうことなのかまるで分からない。
「……幻覚か?」
「違うぞ。これは現実だ」
マリがすぐさま否定した。
イクスを見ると、この様子を楽しんでいるのかのんびりと座ったままだ。
実際自分も椅子に座っているのだからそれについては何も言えないが。
「で、なんで俺達森にいるんだ? そしてここは何処だ?」
「アース、覚えがないか? この獣道とあの看板に」
マリが、地面を指さす。
確かにここには獣道がある。
同時に、何処か見覚えがある地形をしているのも分かった。
周囲を見渡すと、看板がある。
木で出来た何処にでもある看板だが、その文字を見ると、確かあれは自分が子供の時に大人が迷わないようにと立てた道標だ。
つまり、ここはマリがよく来る、村から三カルヤール(約3km)程の場所の森そのものだ。
「こんな近場だったとはな……」
「簡単な転移魔導で三人も一気に運ぶとなるとこの距離が関の山だ。もう少し遠くまで行ければいいんだがな」
「転移魔導?」
「本人の持っている魔導力をそのまま別の場所に転移させる技術じゃ。脚が悪くても遠くに行けるから、よくグランデンでは重宝されていた技術の一つじゃよ。短距離ならお手の物じゃからよく足腰弱った者が近所の買い物で使っておったわい」
イクスが答えると同時に椅子から立ち上がる。
「で、マリがここに来たんじゃ。何かアテがあるんじゃろ?」
マリはイクスの言葉に頷いた。
不敵に、マリが笑っている。
「ああ。まだ規模は小さいが、な。それに、これ自体がアースを鍛えることにもなる」
「俺を、鍛える? どういうことだ?」
マリから不敵な笑みが消え、こちらを怜悧な眼差しでじっと見た。
この目を見ていると、本当にマリアというのは仮面だったのだなと思ってしまうが、それでも眼の奥には不思議な炎が垣間見える。
なんなのだろうかと、少し勘ぐりたくなるような、そんな眼だった。
「アース、お前のうちに今ある最も大きい感情は、怒りだ。ロルムスに対する、絶大な怒り。それが今のお前を一番突き動かしている。今のお前からは、村を守るというその純粋な想いが消えかかっているぞ。それに、怒りだけでどうにかなるんだったら、今頃旧グランデン領は住民の怒りでむせかえっている。その状況から脱しているさ」
そう言われてハッとする。
考えてみれば、自分の素性が明かされてこの方、怒りと困惑だけで、村から何かを変えたいという想いが消えていた。
自分のことだけを顧みるのに、いっぱいになっていたのだ。
それでは、何のためにドゥンイクスを起動出来たのか、意味がなくなる。
たとえ、自分がもう元の生活に戻れないとしても、だ。
「怒りだけでは何も守れない。そのこと、少し分かったか?」
マリの問いに、小さくアースは頷いた。
マリはふっと笑う。まるでこうなることが、予見できたかのようでもあった。
何もかも見透かされるような、そんな眼をしているのが、不思議でしょうがないと、アースは何処かで感じた。
「なんとなく、だけどな。おばさん、その場所とやらに行けば、俺は鍛えられるのか?」
「どちらにせよ、お前は剣術すらやったことがない。それも含め、実践的なことを学ぶ良い機会だ、ということだ」
「だけどよ、そうは言うけど、俺剣なんて持ってねぇぜ?」
そこなのだ。
ツルハシもハンマーも包丁も持ったことはあるが、剣は握ったことがない。
故にカルドゥエッフも鈍器のように扱うしか手がなかった。包丁のように扱うには剣は長すぎることから使い勝手が分からないというのもあった。
実際、あの形状からして鈍器のように扱うのがドゥンイクスの主立った戦い方なのだろうが、にしてはカルドゥエッフが剣型になっているのがとてつもなく気になる。
鈍器ならば最初からハンマーの形にしてしまえばいい。
つまり、本来のカルドゥエッフは剣なのだろうということは、アースの想像に難くない。
即ち、自分はその力を完全に扱えていないことになる。
確かにこれからドゥンイクスを扱う上で剣を扱えるようになるのは悪いことではない。
どう考えてもロルムスとはいずれ某かの対決をしなければならないことを考えると、鍛えておく必要があるのは事実だった。
「安心しろ、そこに行けばある程度はあるし、お前のガタイに合う剣も見繕える」
さっきからどうも何をマリが言っているのか分からない。イクスも不思議そうな表情をしている。
だいたいこの近所の森は自分だって脚を踏み入れたことがあるが、そこまで大きくはない。剣などが落ちていることなど見たことがない。
「まぁ、立ち話も何だ。場所に案内してやる」
言うと、マリは再びロッドを構え、瞳を閉じた。
すると、自分の横の低木に、波紋のように広がる何かが見えた。
マリが目を開くと同時に、イクスもその波紋をマジマジと見る。
「ほほぅ。まだ残っておったか、こうした施設が」
「イクスは知っているのか?」
言うと、イクスがにやりと不敵に笑う。
どうもこういう笑い方がマリに似ていると、なんとなく思った。
「ロルムスが見つけられないもの、機械では絶対に検知できない魔導でしか開けない隠れ家の入口、といったところじゃな」
「その中でも私が使っている拠点がここだ。何、入れば分かる。入り方は分かるか?」
少しだけ考える。
だが、どうも自分はロルムスの機械工学に触れすぎたらしい。やはり魔導のこと、特にここまで高度な術に関しては専門外もいいところだ。
「やれやれ。しょーがないのぅ。わらわが手本を見せてやろう」
イクスが肩を落とした後、波紋に手を近づけた。
すると、イクスの腕が波紋に吸い寄せられ、そのまま、身体ごと波紋の中に消えた。
それを見て、何かが、またハマった気がした。
なんとなくだが、分かるのだ。
これは波紋に手を近づけるだけでは絶対に入れない。
波紋に、かすかに魔導を流し込むのだ。
それで、ようやく入ることが出来る。許されている者だけが、入ることが出来る鍵のようなものだ。
だから、イクスと同じように波紋に手をかざした後、魔導を、少し波紋に流した。
(王族の血脈を確認。認定。封印解除)
その機械的な言葉が一瞬だけ脳裏に囁かれた後、自分は、絶句する場所にいた。
信じられないほどの大規模な地下空洞だ。しかも空洞の中はまるで軍事要塞と言わんばかりの設備が整い、更には見たこともない魔導機が軒を連ねていた。
「なんだ、ここは……?」
周囲を見渡して、ただただ、アースは絶句し続けるしかなかった。
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