第二話『初陣と過去』(5)
自分は亡国の王子である。
そのことを納得出来ているかと言われれば、どうにか無理矢理納得するしかない。
だが、それにしたって分からないことがある。
「なぁ、おばさん。なんで、今のタイミングで急に言おうと思ったんだ? 前からだって言える機会は何度もあっただろ?」
マリとイクスがこちらを見ると、マリが指を少し動かした。近くに寄れ、ということだ。昔から聞かれたくない会話をするときはやったものだった。
近寄ると、マリがローブの胸ポケットから機械を取り出した。
見る限りで、半導体に似ている。
「これは?」
「ロルムス製の制御機器だが、生物に対する制御装置だ。基本的には脊髄や脳に直接取り付けて制御する。昔この周囲のモンスターから出てきた奴だが、研究対象として取っておいた。機械だって作るには魔導技術が必要だ。その中に流れている魔導を研究すれば、自ずと我々の技術ならば誰が作ったのかなど容易に想像が出来る」
「誰なんだ? 第一、モンスターになんでこれが?」
「恐らくだが、ロルムスはモンスターを制御しようとしている可能性がある。機械の力でな。モンスターはいくらでもいる。人的資源を使うより余程低コストで兵力が出来る。たとえ魔導機を破壊出来なくても、魔導機のパイロットを疲労させることは出来るだろう。アース、お前も乗った今なら分かるだろう? パイロットが疲労した状態の魔導機がどうなるか」
そう言われて、ハッとした。
そうだ。自分は確かに、あの戦闘後に疲労で意識を失ったのだ。
そんな状態では魔導機だろうが魔神機だろうが動かせるはずがない。巨人はただの鉄くずと化す。
鉄くずを打ち崩すのはたやすい。
「で、これを作ったのが誰か、という話だが、数年探ってようやく分かったよ。テオドールだ。これから流れてくる魔導とあいつの持っている魔導が完全に合致した」
思わず、目を見開いた。
マリの口から告げられる事実は悉く衝撃的だ。よりにもよってそのモンスター制御を行っていたのがテオドール、つまり、眼前にいつもいたのだ。
確かに、今思えばこの村の警備はやたら厳重だった。森に行くにも賄賂でどうにかしているのが関の山だったし、採掘で手に入った鉱石を売りに行くにもロルムスの兵士が常に監視している程だった。
テオドールの臆病さでもあるのかと思っていたが、もしそうではなくモンスター制御研究の研究員保護のためだったとすれば、納得がいく。
「テオドールは何の目的でこれを?」
「そこだ。それがお前に事実を告げた答えだ。実を言うと、先程襲ってきたワームがいるだろう。それにもテオドールの魔導を感じた。つまり、あのモンスターは自然発生した物じゃない、制御されたものだ。ロルムスの兵士が一人たりともいなかったのも、テオドールの意志だろう」
「そして、マリとおぬしがわらわを起動させるかもしれないと見ておった、かもしれぬな」
思わず、歯ぎしりをしていた。
テオドールは恐らくマリと自分がどういう者なのか、ある程度気付いたのだ。
そこで鎌を掛けるためにあえてドゥンイクスを起動せざるを得ない状況に持っていった。
それで見つかればよし、見つからなかったらただ辺境の村が一個モンスターによって潰れただけになる。
まんまとはめられた訳だ。
「だとすると、奴が戻ってくるのも時間の問題か。そして俺達を殺す、か」
「ああ。だからその前に、この村から脱出する」
そうか。ついにこの村と別れるときが来るのかと、なんとなく感じた。
なんとはなしにだが、思っていたのだ。
ここは自分の本来の居場所ではない、と。
唐突に言われても、という風に思っても、どちらにせよ覚悟しなければならない。
自分が王子なのだとすれば、尚のこと覚悟を決める必要がある。
しかし、どうやって脱出するのか、それが問題だ。
この大陸東側全土見渡してもロルムスだらけだ。何処に行っても自分達の手配が回るのは時間の問題だ。密告されるのは目に見えて明らかだった。
だが、そんなアースの疑問など屁でもないように、マリは不敵に笑っている。
「安心しろ、アース。脱出は簡単にできる。それも気付かれずに、な」
「どうやって?」
「『魔女』と呼ばれた者の実力、甘く見ないで欲しいな」
マリはロッドを持ち直すと、目を閉じた。
ロッドに、手をかざす。
すると、ロッドの先端が光り出した。そのまま、その光がどんどん大きくなっていく。
思わず、目を伏せた。
光が収まった直後、急に周囲の気配が変わった気がした。
目を開ける。
見間違いかと、何度も目をこすった。
だが、何度見ても目の前の光景は、今までいた家ではない。
何故か、自分達は三人揃って、椅子ごと森の中にいた。
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