6 サモン
6 サモン
大事な母と引き換えに念願だった魔導眼を開眼したルイン。
母の死に悲しみに暮れつつも、偉大なる力に目覚めた高揚感が湧き上がってくる。
全てが見える。周りの人間の心も思考も……手に取るようにわかるのだ。
ルインはサモンの研究所でお世話になった。魔導眼を開眼した魔導族の姫であるルインを、
サモンは興味を持ち、自身の研究を明かした。ルインは既にサモンの思考を読み取っている。
なので、サモンと同じレベルの知識量が既に備わっていた。
だが、完全完璧に取り出せるわけではなかった。理解の範疇を超える事は読み取れない。
「サモンおじさん、虹色蝶の研究をずっと続けているの?」
「ああ、もう二十年は虹色蝶を研究している。その甲斐あって、
虹色蝶の幼虫の食草である虹色草の栽培を成功させた。
虹色草を栽培するには虹色肥料が必要で、それを完成させた人間は私しかおらん」
ビニールハウスで、虹色草に付いている虹色蝶の幼虫を指さしながら、
延々と講釈を垂れるように語り続けている。何という研究への熱の入りようであろうか。
「凄いですね。尊敬しますよ」
ルインは適当に造ったような笑顔でサモンを煽てて、気分を良くさせる。
――下らない……人間共はこんな虫を有難がるのか。
ルインはサモンの見ていない所で、虹色蝶の幼虫を素手でプチっと潰した。
努めて優しい少女を演じているが、心の奥底は邪な部分があった。
それは内に秘めた人間への恨みと憎しみ……ルインは目の前で人間に母を殺されたのだ。
どうして人間を慈しむことなど出来ようか。サモンだけは尊敬していた。
常に心を覗いているが、邪念が一切ない。こんな人間もいるのか、と思えば、
サモンのお遣いで、町へ繰り出せば、人間共の醜い思念が飛んでくる。
だからと言って、人間を滅ぼす気はない。サモンの研究を助けるのに喜びを見出している。
虹色蝶の研究も案外、悪くはない。ルインの母も魔物使いであった。
自然と魔物使いへの道を歩む自分にやはり、人間の血が通っている喜びを噛み締めた。
ルインは毎日、虹色蝶の研究を糧に、魔物使いへの道を歩み出した。
半月足らずで、虹色蝶の知識は既に完全完璧に解析し、サモンと遜色ない研究の腕を見せた。
「サモンおじさん、私を助手にしてください」
「ああ、魔導眼の力は便利だな。もうルインは私の研究に付いて行けるようだ。
魔導族とはやはり伝承通り、人間の上位種なのか」
サモンはルインの両目に爛々と輝く魔導眼に敬意を持った様子で、ルインの頭を撫でる。
それにルインは満足する。魔導眼の力……自分は神に等しい存在なのだ。
「そんなことないですよ。サモンおじさんには敵わないですよ」
ルインは優しい少女の笑顔で謙遜してサモンを持ち上げる。心の内では……。
――魔導族は人間の上位種……選ばれた崇高なる存在。
心の内と彼女が語る言葉では相反するものが揺れ動きつつある。
ルインは表向きには、優しい純粋な少女を演じながら、
心の内では人間を蔑み、見下していた。それを絶対にサモンに悟られないよう取り繕い、
サモンもルインを優しい少女だと一切、疑わないで信じ切っている。