2 ルインの日常
2 ルインの日常
朝、目覚めたルインは朝食のパンを頬張り、野山へと出かけた。野山の麓にルインの屋敷がある。
緑豊かな野山が、ルインの遊び場であった。木々が生い茂り、紅葉が一面に景色に映える。
ルインは左腕に嵌められた銀の腕輪を軽く小突いた。それが合図となって、妖しく光り、
人間の子供の姿へと変わる。服は野山を駆け回るのに最適な服装であった。
「姫様……今日は何して遊びましょうか?」
ルインの唯一の家臣、フォースがお辞儀をして言った。
ルインにとって、フォースはたった一人の友達だった。他に同年代の子供は周りにはいない。
それが寂しくもあり、フォースがルインの全てだった。母、シャインは言った。
お遣い以外では山を下りてはなりません、と。それにルインは小さいながら疑問に思ったが、
フォースと色んな事をして遊ぶのが楽しい。ルインは満面の笑みでフォースに言った。
「流星鳥に姿を変えられる?」
ルインは昨日の夜の事を思い出した。煌めく夜空に流星鳥に乗って羽搏いた。
あの日の感動をもう一度と思ったのだ。フォースは何にでも姿を変えられる。
「勿論でございます」
フォースは質量と姿を自由自在に変えられる。見る見る内にフォースは流星鳥に姿を変えた。
堂々たる巨躯に熱気を帯びて赤みのある色……フォースは完璧に再現して見せた。
ルインはパッと目を輝かせて、流星鳥に飛び乗った。フォースは喜ぶルインが掴まったのを見て、
羽搏いて飛翔する。夜の空ではないが、紅葉が奇麗な山々を飛び回るのも素晴らしいものだった。
ルインは上機嫌で、空から見下ろす山々の紅葉に、大変満足であった。
暫く空の旅を楽しんだ後、丘の上で寝転がり、雲一つない青空を見上げていた。
「フォース、何か面白い話しを聞かせて」
ルインは唯一の友達だと思っているフォースに面白い話を聞かせてくれることを願った。
二千年以上生きているフォースは何でも知っている。その知識の神髄にはルインも尊敬の念があった。
ルインが疑問に思ったことも的確に答えられるのだ。フォースが語る昔話も面白い。
「はい、仰せの通りに。それでは、魔剣に魅入られた剣士の話しを。
その昔……魔導族だけが扱うことが出来る魔導神剣を追い求めた剣士がいました。
長き旅の末、その剣士はある、魔導族と出会い、魔導神剣を譲り受けました。
しかし、魔剣の力に魅入られ、見境なく人を斬り捨て、魔剣士と恐れられました。
その魔剣士は騙し討ちにあい、彼が手に入れた魔導神剣により、斬られて命を落としました」
フォースは話の興味を誘う巧みな語り口調で、面白い昔話をルインに聞かせた。
その話を聞いたルインは自分も魔導族であることを久々に思い出した。
魔導眼……自分は開眼することが出来るのだろうか。ルインは半分、人間の血を引いている。
フォース曰く、ルインは人間の血が濃いと言った。でも、いずれ開眼できると信じている。
「フォース、面白い話をありがとう。私も魔導族……特別な存在」
ルインはフォースに労いの言葉を掛けて。静かに本音を吐露した。
首から下げている魔導族王家の家紋が入ったペンダントを手で掴む。
それは行方知れずとなる前に父から譲り受けたものだった。
父の形見の大事な宝物。自分が、特別だと言う事を彼女は自覚しているのだ。
表向きは優しい、純粋な少女だが、心の奥底では人間を蔑む邪な心がある。
早く、魔導眼を開眼したい。開眼すれば、私は更に特別な存在になれる。
気が付けば夕日が上っていた。ルインは上る夕日に真剣な面持ちで誓った。魔導族の復権を。