1 唯一の家臣(フォース)
1 唯一の家臣
フォースは人間の上位種とも謳われる魔導族の血を半分引いているルインの唯一の家臣である。
二千年以上前に太古の昔、人間を破滅へと導き、魔導族の楽園を築いたルインの祖先、
魔導族の始祖、魔導王ルインの忠実なる右腕であった。ルインの遊び相手となる為に、
人間の子供の姿を取ることが多いが、その正体は液体金属のスライムである。
フォースはルインを抱えて屋敷へと戻った。それをルインの母、シャインが心配した様子で出迎える。
長身で金色の髪と瞳を持つ。それ以外はルイン良く似た見た目である。
「フォース、ルインを見てくれて感謝します。
ルインは本当に目を離すと、突然いなくなるのですから」
シャインが心配した様子でスヤスヤと眠るルインを愛おし気に抱きかかえる。
「シャイン様、姫様の好奇心は良い事です。
新しい発見が、姫様を御成長させるのですから。姫様を見ていると、
始祖魔導王ルイン様を思い起こします。彼女も好奇心の塊でした」
フォースは、ルインの寝顔に魔導王ルインを重ねた様子で顔を綻ばせてクスッと笑った。
そのまま、手慣れた動作で、ルインを寝室へと運び入れると居間に戻り、
シャインとお茶を飲んで、多くを語り合った。主にルインの今後についてである。
茶を啜りながら、シャインと談笑する。フォースは行方知れずとなった最後の純血の魔導族で、
ルインの父、ブレイクの事をシャインに話した。シャインはブレイクの身を案じた様子で、
「一体、ブレイクは何処に行ってしまったのですか?」
「ブレイク様との交信が途絶えました。どうやら、既に生きてはおられないでしょう」
フォースはお茶を口に運びながら、長年仕えてきた主の死に悲しみの表情を浮かべた。
ルインの父、ブレイクは元来好戦的な性格であった。それも戦闘凶と揶揄される程に。
強い相手には見境なく挑み続けていた。そのおかげもあって、魔導族が有する魔導眼の力。
その中でも更に開眼した者は三人といない魔導神眼を開眼し、最強の名をほしいままにした。
ブレイクを倒した者は恐らく勇者か聖女であろうことが、フォースには予想がついていた。
「やはり、そうですか……悲しき事です。ルインには闘いとは無縁の人生を歩ませたい。
フォース、ルインを頼みましたよ。何か事が起こった時、私よりもルインを優先してください」
美しい顔を強調させて、シャインはまだ小さい娘の身を案じて、フォースに頭を下げた。
フォースも、無論そのつもりであった。近い内に何か事が起こりそうな予感がするのだ。
シャインもルインの大切な母君……二人同時に守れるならば良いが、ブレイクが死に、
魔導族王家最後の末裔となったルインの身を守ることが全てにおいて最優先事項だった。
「シャイン様、その覚悟痛み入ります。姫様は私が何としてでも守ります。
それにしても、姫様はいつになったら魔導眼を開眼するのでしょう」
もうすぐ十二歳になるルインだが、些か魔導眼を開眼するのが遅い。
それが、長年魔導族王家に仕えてきたフォースの悩みである。
やはり、ルインは下等な人間の血が濃いのではないかと、フォースは危惧していた。
ブレイクが人間であるシャインを好きになった時、フォースは懸念がしていた。
魔導族の血が薄れる事を。しかし、ブレイクは最後の純血の魔導族であった。
その血を紡ぐためには人間と一緒になるしかない。それは仕方のないことだ。
フォースは一抹の不安を抱えながら、お茶を一気に飲み干した。