17 精彩を欠く
17 精彩を欠く
石碑を前に対峙したルインと戦神はお互いに牽制しあっていた。
どちらが先に仕掛けるか。それを読みあいながら、勝利への道筋を頭の中で構築する。
お互いに魔導神眼を持っている。最強の眼は戦闘の結果を最後までを見通す。
「君が先に動くことは恐らく無い。ならば我が先に仕掛けてやろう。
伝説級呪文『邪悪なる不死鳥』。その黒き炎で全てを燃やし尽くせ」
黒炎を身に纏った優雅なる不死鳥が、大炎を迸らせルインを襲う。
初めて見る伝説級呪文だった。
最初から大技を仕掛けてきたことは確実にルインを消し去ろうとする意志を持っている。
ルインは慌てずに聖なる盾の呪文で防ぐ。聖なる輝きと共に鉄壁の防御幕がルインを守る。
不死鳥は消え去り、ルインは無傷で耐えきった。以前とは違う様相に戦神は呆然とする。
「我の邪悪なる不死鳥を耐えきったか。少しは腕を上げたようだな。
ならば、伝説級呪文『超圧縮重力空間』。これで貴様は終わりだ」
凄まじい重力の圧縮が保護区全域で起きる。森中の木々が、圧迫されて地面に沈んでいく。
しかし、ルインは全く動じずに佇んでいる。聖なる盾の呪文は闇属性の呪文を完璧に防いでいる。
実は戦神対策として、事前に魔法の心得のあるテイマーから手ほどきを受けたのだ。
聖属性の呪文だけを重点的に鍛えて貰った。その効果が今、はっきりと出ている。
「それで終わりか?」
ルインは涼しい顔をしながら、戦神を挑発する。戦神は怒りの様相で、疾風の如くルインに迫る。
戦神の攻略法をテイマーから教えられていた。その通りに戦神を挑発する。
「覚えておくが良い。我は正面戦闘に置いても無敵を誇る。
我の計り知れない強靭な力は竜でさえも一撃で粉砕するのだ」
戦神は近接戦に切り替え、邪悪なるオーラで強化された拳を浴びせようとする。
ルインは魔導神眼の力を最大限に使い、戦神の苛烈な猛攻を最大限に凌ぐ。
戦神の攻撃パターンを完全解析。対して戦神は善戦しているルインに呆然としたままだ。
確かに一撃一撃はかなり重いのだろう。竜を一撃で倒せると豪語するだけある。
しかし、戦神の拳は全て虚しく空を切る。ルインは全ての攻撃パターンを読んだ。
体制を整えなければならないと判断した戦神は一旦、距離をとって、ゼーゼーと息を荒くさせる。
伝説級呪文を二度も発動させ、本来の魔導族ではないのに魔導神眼を乱用した。
それ故の体力の消耗……この機を逃す程、ルインは愚かではない。
「終わりだ……戦神よ」
貯めていた魔力を解き放ち、瞬時に魔導神剣を生成して、鋭く踏み込み、戦神の心臓を貫く。
戦神は血を吐き、崩れ落ちる。魔導アース史上最強の存在が、遂に倒れる時が来た。
世界中の実力者たちの頂点に立つ男が、最後の言葉を発しようとしている。
「やはり……魔導族では無い我が魔導神眼を使いこなすのは無理だったか。
体力の消耗が激しいとは思ったが、魔導神眼……魔導族だけのもの……」
戦神の最後の言葉は魔導神眼を移植しなければ勝っていたと言いたいのである。
だが、結果、ルインの前に這いつくばっている。この世は結果こそが全てなのだ。
戦神はその場に崩れ落ちて呆気なく散った。ルインが因縁に決着を付けた瞬間であった。