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16 魔導神獣

 16 魔導神獣まどうしんじゅう



 それから半年が経った。ルインは魔獣保護区の管理人テイマーの助手として活動していた。

 バロンとは相変わらず仲が悪いが、それでも少しはお互いに歩み寄りの姿勢を見せた。

 また、ルインは平穏な日常を取り戻した。希少な魔獣達の中でもルインが興味を引いたのは、

 疲れを知らずに永遠に翔ることが出来る漆黒を基調とした馬。風神馬であった。

 ルインの師匠となったテイマーは、風神馬の繁殖と育成の第一人者であり、様々なことを教えてくれた。

 それに加え、魔導神眼の恩恵でテイマーの知識を全て引き継いだ。

 ルインの日常は朝、風神馬の世話から始まり、

 日中はバロンと共に悪さをする魔物や密猟者を取り締まる為に保護区の見回りをする。

 そして夜は、魔物使いの資格を得るための勉強がルーティングワークであった。

 ルインは指針となったサモンや現在の師匠であるテイマーに憧れて、魔物使いを目指していた。

 最早、ルインの心に巣食っていた人間に対する復讐心は消え失せていた。

 魔物と触れ合う事への喜びを見出しつつあり、心の中は平穏そのものだった。

 ある日の朝、馬小屋で最速を誇ると言う風神馬のハヤテとルインは会話をした。


『私は元々、君の父であるブレイクに飼われていたのだ。

 ルインを乗せて走りたいのだが、どうかね?』


 ハヤテはブレイクの馬であったと言った。ルインは大いに驚いた。

 それと同時にハヤテに乗って保護区を駆けたいと言う想いに駆られた。

 勿論、ルインは快諾かいだくした。テイマーはルインが魔物と会話できる事を羨ましそうにしながら、


「ハヤテはプライドが高く、容易に人を乗せないのだが、

 そうか。ブレイクの娘だからか。成程」


 テイマーは気難しいハヤテが人を乗せる事に驚いていた。

 ルインは空き時間にハヤテの背に乗った。馬上から見る景色は絶景であった。

 草が生い茂る草原をハヤテと共に颯爽さっそうと駆け抜ける。

 音速を超えたような体感速度だった。

 心地よい風が吹きつけて気持ちが良く、ルインはこの上なく幸せであった。

 爽快感が何とも言えない。これが、最速を誇るハヤテの本領なのであろう。

 その帰り道の最中、保護区の森のとある場所で、とても古い大きな石碑を発見した。

 ハヤテから降りて、苔で所々が覆われている石碑をルインは読んだ。

 古代文字で書かれていたが、魔導神眼の力で、それを解読。その内容は以下の通り。


『魔導神獣。古より強大な魔物が、この地の奥深くに眠る。

 魔導族だけが従えることが出来る最強の魔物。

 一度封印を解けば、主の願いを全て叶えるであろう』


 ルインは願いを全て叶えると言う文言に大いに惹かれた。

 魔導族だけが従える事が出来るのならば、魔導族の血を引く自分にも権利がある。

 最強の力を宿した魔導神獣……従えてみたいと言う欲求が生まれる。

 失った母やサモン、そしてドランを蘇らせることも可能かもしれない。

 淡い期待を抱いてルインは綻ばせながら笑みを浮かべる。その時だった。

 その興奮に水を差すように後ろから何者かが、恐ろしき気配を匂わせて近づいてくる。

 魔導神眼を常に開眼しているのに気づかない身の毛もよだつ恐ろしい気配。


「ブレイクの娘よ……魔導神獣に興味があるのか?」


 その声の持ち主は他でもない父の仇、魔導に落ちた勇者……戦神であった。

 全身から邪悪なオーラを迸らせ、両目には父、ブレイクから剥ぎ取った魔導神眼が輝いていた。

 奴も魔導神眼を持っている。当然、石碑に掛かれている文言を読めるのだろう。

 もしや、魔導神獣が目当てで魔導神眼を得たのか。ルインは憶測を巡らせる。

 魔導眼を持つ者同士では相手の思考を読むことは出来ない。


「戦神。もしや、お前も魔導神獣を得たいのか?」


 不意に橋の上の戦いでのトラウマを思い出した。あの時の恐怖は忘れもしない。

 魔導神眼を手に入れて無敵だと思っていた自らの自信を打ち砕いたのだ。

 魔導アース史上最強の存在。恐らく、魔導神眼を自在に操れるのならば、

 虹色国の英雄バロンよりも恐らく上であろう。例えようのない恐怖が全身を襲った。

 それでも、ルインは気丈にも戦神を恐れながら問いかける。


「如何にも……我はその為に、この眼を手に入れた。

 魔導神獣さえ得られれば、我は究極の力を手にできる。

 なんてね。ルインちゃん、こんにちは。僕は君に会いたかったよ」


 邪悪なオーラを消し去り、最初に出会った時の柔和な笑みを浮かべて、

 ふざけた調子でルインの心をかき乱した。ルインは戦神の態度の変化に嫌気が差した。

 この男には二つの顔がある。笑顔と軽い調子で相手の心をかき乱す表の人格。

 そして魔導アース最強としての自負がある裏の人格。どちらも癖がある。

 ルインは正直、吐き気がした。もう二度と、この男の顔を見たくはなかった。


「決着を付けるかい? 一度は見逃したけど次はない。

 ここで僕との因縁に決着を付ける。悪く無い判断だ」


 戦神は再び全てを飲み込む邪悪なオーラを全身から発し、魔導神眼を開眼する。

 許せなかった。魔導族ではない下等な人間が、魔導族の誇り足る魔導眼を持つことに。


「私は魔導族の姫……魔導族の誇りを踏みにじったお前との決着を付ける。

 そして、私は全ての因縁に打ち勝ち、私は魔導神獣を従えて大切な者を全て取り戻す」


 ルインも魔導神眼を輝かせて戦神と対峙たいじする。二度目の邂逅が始まった。

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