10 食事会
10 食事会
ルインは目が覚めた頃には元の研究所にいた。フォースが、運んでくれたらしい。
自分が眠っていた間に虹色蝶の採集は終わっていた。
ルインはかなり睡魔に襲われやすい。
それが唐突に現れるのは魔導眼を頻繁に使った時だ。
魔導眼にまだ身体が順応してはいない証拠であった。
また通常の日常に戻ったルインであったが、ドランから、食事会の誘いを受けた。
それを聞いたルインは飛び上がるようにして喜び、日頃の疲れも吹き飛ぶ有様だった。
日時は明日の夜と聞いて、次第に興奮するのが手に取るようにわかった。
今日の研究が終わった夜、ルインは銀の腕輪を小突いてフォースを呼び出した。
「姫様、聞いておりましたよ。人間の小僧が、姫様を食事会に誘うなど」
またフォースの小言が始まった。煩い家臣だと思った。
「フォース……私は食事会に出るぞ」
「まあいいでしょう。ドランと言う小僧は人間にしては見所がある。
許しましょう……ドラン、彼を姫様に見合う男になれば良いですがね」
フォースは思いもかけず、食事会の誘いに許可を出した。ルインは喜んだ。
そして、次の日、いつもの研究の仕事を終わらせ、ドランの屋敷へと、
流星鳥に姿を変えたフォースの背に乗り、大空を掛けて男爵領に入った。
するとドランの屋敷が見えてきた。屋敷に舞い降りると、フォースは優しくルインを背から降ろす。
それを待ち構えていましたとばかりにドランと母、レインと父、ブラッドが出迎えてくれた。
「やあ、君が魔導族のルインかね? お噂は聞いているよ。当主のブラッドだ」
「母、レインと言います。ドランがお世話になっています。
夫婦はルインが魔導族の血を引いていることに気付いていた。
いや、ドランが告げ口をしたのだ。だが、その割には敬意を持って対応している。
魔導族が……忌み嫌われていると言うのは真なのか。ルインは顎に手を当てて考える。
レインはドランと同じく青い髪と眼をした美しい顔立ちをしている。
一方、ブラッドは赤毛で、紳士然としており、上流階級の人間特有の匂いがした。
「初めまして魔導族王家の血筋を引くルインと言います。お見知りおきを」
ルインは魔導族王家の血を引くことを強調させた。自分の血に誇りを持ってきた証拠であった。
そして銀の腕輪を小突く。すると、食事会に相応しい服装をした子供の姿で現れた。
「魔導族王家に仕える唯一の家臣、フォースと言います。
此方に居られるのは魔導族王家の血を引く貴い姫君にあられます」
自己紹介が終わり、食事会が始まった。ルインは当然、ドランと同じ席に座った。
ドランも豪華な食事に舌鼓を打っている。食事をする所作もドランは美しかった。
ルインも食事を口に運んでいるが、どうしても気になることがあった。
給仕や執事が全て異種族だったからである。その問いにドランは、
異種族も人間も隔てなく暮らせるように寮内では異種族も召し抱えていると言った。
――何と、開明的だろうか。流石はドラン様。
ルインは恍惚とした表情でドランをウットリと眺める。
それを肉料理に舌鼓を打っていたフォースが窘めた。主君の振る舞いを正すのも彼の仕事である
魔導族の姫である自覚を持てと言いたいのである。食事会は大いに楽しめた。
肉も魚も高級な食材ばかり。デザートまであり、ルインは満腹となり、眠りかける。
ウトウトして前後不覚になる程だった。魔導眼で夫妻の心を覗いたからかもしれない。
それもあるが、元々、ルインは過眠症の気があった。フォースはルインを抱きかかえ、
夫妻に礼を言い去っていった。ルインはドランとの妄想を夢の中で描き続けた。