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女王の肖像画  作者: 堂 ジヨン
3章 歌巫女のアトリビュート
86/129

3.38


「ふざけるな」


 反対意見は予想通りの所から。


「真剣至極だが?」

「だから言っているんだろう、安全を確保する方法を考えているときに自分から危険に飛び込むバカがあるか!」

「極力彼女に危険はないようにするつもりだとも」


 何を言ったって反対するのは分かっているから、何を言われたって俺が退かないことも分かって欲しい。堂々巡りは時間の無駄だ。


「私はなにをすればいいんですか?」

「カトレヤ」

「聞いてから考えるでもいいでしょう?それとも、話聞いた時点でカタンすることになる?」

「説明後に決めてくれれば良い、二人も」


 自分も話に入っていたとは思ってなかったらしく、ミルトがびくっと震える。気に留めても気にかける必要はないので無視して説明を開始する。


「まず敵の数を把握したい。が、君達がいると上手く動けないので三手に別れたい」

「3?」

「君とラルゴは一緒に封鎖中の要塞…俺が堀に落ちたとこに向かってくれ。勿論、人目に付かないように。場所分かるだろ?」


 返事がないが構わず続ける。


「俺は数の把握と、出来ればちょっと減らして、で、状況次第で援軍宛に伝言残して君達のとこに何匹か釣りつつ向かうか、援軍と合流して落ち着いたら君達迎えに行くかどっちか」

「状況ってなんだよ」

「その場、その時の物事空間条件の有様」

「意味を聞いてんじゃ、」

「で、ミルト。君の長年培ってきた掏摸としての脚を見込んで重要な任務を与える」


 まだやるとも言ってないが任務にしてしまえ。いつの間にか引き受けていた事件はこういうニュアンスの操作で発生する。


「…そういうときはうでって言うんじゃないのか」

「いやそこはそんなに評価してない」

「はぁっ!?」

「違う、腕は今関係ないんだ。ここから城の門まで憲兵達の目を極力避けて通る道筋、知ってるか?」


 虚を突かれたように押し黙ったミルトは、躊躇いがちに頷く。それなら良い。

 被っていた帽子を鳩尾辺りの高さにある彼の頭に押しつける。眼鏡は硝子を外そう。


「なん、」

「嫌だろうが勘弁してくれ。はい顔上げて~お似合いですよお客様」

「メガネなんていら、かけても見えるもの変わらないぞ?」

「そういうもんなんだよはいバンザーイ!」


 とっさの叫び声は人を従順にする。大きく諸手を挙げたミルトから上着を剥ぎ取り、先に脱いでおいた自分の上着を裏返しにして袖を通させる。勿論裾は、彼に合う丈になるようボタンで調整して。


「靴は流石に大きさが合わなすぎるからな」

「…今なにがおこった」

「遠目でぱっと見ならさっきまで串焼き肉と揚げ物貪ってた子どもには見えんだろ。これは後で弁済するので、許せ」


 ぽいと剥ぎ取った上着を放り投げたが、早着替えに呆然とする持ち主は文句も言えない。


「で、さっき言った道筋で門前に立ってる奴に伝言を頼みたいんだよ」

「で、伝言?」

「まずイベリス…いつも俺と一緒にいる背の高い男、分かるか?」

「ん、」

「其奴を呼ぶか門兵経由で今から言うことを話して欲しい」

「ん、」

「アトロ=サンギネウスを大逆罪で断ずるから来い。招集理由は不法侵入として取り壊し時期未決の要塞に、但し当人不在の場合は中止するため一旦中通りの出店地帯に」

「ちょっとまてよ、オレにそんな覚えられると思うのか?!紙、紙に書いて、」

「そんな便利な物持ってない」

「…オレも持ってない」


 他の二人も持ってなかろう。さっき借りるのではなく買えば良かった。

 書き付けが不可能と悟ったミルトは必死に記憶中枢を働かせる。


「ーーアトロサンギネ?をとりこわすから出店通りに来い?」

「大筋は伝わりそうだけどその調子じゃ辿り着く頃には内容0だな」


 どうしよう。場合分けも全く反映されていないし…筆記具を探して彷徨うのもな。


 俯いて考え倦ねると自分の影も同じように動く。当たり前なことに着けた耳飾りも一緒に揺れている。


 そうか。だが…、致し方ない。


 時計の代わりに入っていた袋を取り出す。中のコインはズボンのポケットにねじ込むしかない。

 揺れる飾りを外して空いた袋に入れる。この中からいなくならないようにきつく口を閉めて。


「方法を変える。イベリスを門前に呼び出して、俺から伝言だとこれを渡しつつ今から言う文章を話してくれ」

「長いのは、」

「『ジストが出店通りで兄を呼んでる』、」


 続く内容を一旦止めたのは覚えやすいようにではない。彼奴に言ったらどうなるかを考えてしまったからだ。


「…『早く来ないと姉さんの方にいってしまうぞ』、だ」

「……それくらいなら」

「よし、渡す。この袋の中身をなくしたら許さないし、イベリス以外の奴の手を経由したら其奴を殺す」

「え?」

「あと、この作戦は君が失敗すると終わるが、そんなに気負わなくていい」

「は?!」

「覚え間違えをしたり辿り着けなかったり、若しくは任務から離脱したことによってなにがしかの損害が生じたとしても君の責任ではない。俺の運が悪かったんだ」

「おぼえたこと忘れそうな話すんな!!」

「え?忘れちゃった?」

「ジストってやつが兄貴を出店通りに呼んでて、早く行かないと姉貴のとこに行くって言ってる!」

「うん、そうそう」


 しっかり覚えられているのになおも不安そうなので、本日の近衛当番表を頭の中で引っ張り出す。


「安心しな。今日の門兵は体がでかくて強面で全身傷だらけだけど、その全ては猫の爪が原因で、猫を追いかけやすいサイズになることを夢見る人畜無害なお人好しだ」

「…そんなのに玄関任せるなよ」

「ご尤も。まあ兎に角いきなり捕まえて煮炊こうとかする奴じゃないよ」


 ジャンを怖がる必要がないと伝えたのにまだ顔が晴れない。他の懸念事項とは一体。


「…この、さくせんってやつ。ケガしないか」

「うん」


 カトレヤの心配か。当然彼女の安全は最優先事項である。

 即答にようやく安堵した子はふと俺の背後に目をやり、慄く。後ろに何か怖い物があるらしい。見ない方が良いな。


「シオン」

「うーん振り返ると大変恐ろしい目に遭いそ」

「ミルトの質問の意図が分かってるのか?お前が怪我をしないかを聞いているんだ」

「へ?」


 思わず声の方を見てしまった。怒ってる。静かに怒りが燃えている。

 しかし、近い将来とある所から齎されるであろう災害に比べたら小雨みたいな物だ。あっちは暴風豪雨落雷天地鳴動紛争暴動が過ぎ去った世界の如き静寂で押しつぶされる。


「何故その様な推察が成り立つのか」

「どう考えても他の役割に比べてお前の負担と危険が大きいだろうが」

「そう?ミルトも中々危険だと思うが」

「そ、そうなのか?!」

「逃げてもいいと言い含めておいて…直接交戦するのはお前だけにするつもりだな?」

「だって適してんの俺だけじゃんさ」


 カトレヤは向かってくる奴に近づかないで欲しい。

 ラルゴにはカトレヤが敵と猫に向かわないようにみてて欲しい。

 ミルトはいつも喧嘩腰だが戦闘能力はないので大人しく伝言を伝えに行って欲しい。


 そうなると残りは俺だけであり、都合良く帯剣してるし一寸くらいの打撃なら防げる装備もしている人間、かつ言いだしっぺなのだから負担が大きくて然るべきである。


 端的に説明したのに頭を抱え始めた。


「自分が何者か本当に分かってるのか?」

「哲学?急に、」

「国王が臣民を差し置いて危険に飛び込むのはおかしいと言ってるんだ」

「…何言ってんだ?王に売られた喧嘩なのだから俺が買うより他ないだろ」

「そういう次元の話ではなく、」

「結局協力出来るのか?出来ないのか?」


 悠長に話し込んでる余裕はないだろう。ラルゴの協力が得られない場合、カトレヤも大人しくそれについて行かせるので、結論として俺一人で暴れることになる。

 それはそれで構わない。先に言った方法が()()()()()()()()()()()だけで、唯一の選択肢ではないのだから。


「…僕が協力しない場合、お前が単身無謀なことをするわけか」

「お見込みの通り」

「………………分かった」


 何を分かられたのかを聞く前にラルゴはミルトに向き直る。反射で逃げないだけミルトは偉い。


「心もとないだろうが渡しておく」

「…なんだよ、これ」

「ある細工のしてあるナイフだ。投てき…投げる物だが直接刺してもいい。刃には触れないように」

「そ、ん言い方、ヤバいやつだな?!」

「触れなければ平気だ。使わずに済むならそれでいい。気をつけて」

「…協力すんのな。始めからさっさとそう言えば良いものを、まっ巫山戯んなこれから酷使する腕!!」

「…行っていいのかこれ」

「いいと思います。…無理しないでね」


 渡された恐怖の品をしっかり仕舞い駆け出すミルトをカトレヤだけが見送る。他二名は取り込んでいるのだ。


「どうだ、我々も持ち場に行こうじゃないか、ったい、痛いって」

「へーかへーか、私だけなにもぶそーしてないのでなんかください」

「その前に此奴を叱っておくれよ」

「なんかください」

「この状況で脇腹にトンネル開けようとするのはどうなのかな!?ーー分かった、普通の剣と短い剣と殴る棒どれがいいったっぃ!」

「なぐるぼーで」


 関節技を漸く外された。剣帯から片手剣を鞘ごと取り中身を出す。本来は鞘に入れたままで殴りつける想定なので、この剣を取り出すときは留め具をいじらないといけない。


「はい、殴る棒」

「…剣、出したままで行くの?」

「出し入れの手間が省けて効率的だ」

「つーほーされないですか?あ、それがないからこうなってるのか」

「そーそ、じゃ、見つからないように気をつけて行くんだよ」

「その前に、へーか」


 鞘の重さに蹌踉けながら明るい褐色の光を向けてくる。渡したはいいが邪魔にならないだろうか。


「あなたがケガしたらこれであなたをボコボコします」

「何故」

「ケガが大きいほどいっぱいボコボコです。ラルゴ、それでいいでしょ?」

「ああ。僕は特製の薬品を贈ろう」

「とどめを刺すつもり?」

「ケガしなきゃいいんですよ」


 うんともすんとも言えなかった俺に、足の甲踏みと肋骨間隙指差しをしてから二人は去って行った。どうして。


 …足と胴を押さえて痛みが消えるのを待つ間、誰にも目撃されないといいな。

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