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女王の肖像画  作者: 堂 ジヨン
3章 歌巫女のアトリビュート
80/129

3.32


 そもそも他の人間の為に俺を動かそうとしてああいう事をするのは倫理的にどうなのだろう。下手したら1年振り位なのに。それっぽい雰囲気すら許してくれないのに。

 いやしかし頻度が多いと常日頃そろそろと慎ましく働く心臓が過労死するかもしれない。だがあの時も割と過重労働だったから、やはり俺はリナリアに一度正式な抗議を、


「へーか!」

「…なんだい」

「やっぱり話聞いてない!どれがいいですかって言ったんです」


 表向き通常通りのカトレヤがムッとしながら何枚か紙を出してくる。刺繍の図案の候補である。


 ミルトに前侯の手の者から接触があった事から、より身近な養護院の子ども達の外出も制限された。遊びたい盛りとは言え、保護者が害されたという事実を正しく理解し大人しく建物で過ごしている。

 養護院の資金は国からの補助や貴族の寄付の他、職業訓練も兼ねた労働によって得るものも少なく無い。外出ができない時は専ら刺繍や小物といった、後日売りに出す商品の作成に時間を費やすのだ。


 従って、カトレヤが聞いているのは最終的に売りに出されることを加味しての意見である。この中でどれが1番売れそう、か。


「…真ん中のは、頂点から裂けた玉葱?」

「ウサちゃんです」

「右のは芽が2本出始めたジャガイモ、」

「ネコさんです」

「ーー溶けた穴あきチーズ!」

「ウシさん」


 解答を踏まえて再度紙を見る。木炭によって描かれた物体、もとい、生命体が虚ろに俺を見つめている。兎と猫と牛、だったか?


「…君は、難解な謎だね」

「それ、取りようによっては口説き文句ですよ」

「子ども達にこの絶妙な曲線や波線を刺繍させるのは難しいと思うよ」

「アカンサさんのよりはマシかなぁと」


 カトレヤに合わせて視線を動かせば、つなぎ合わせて巨大になった紙一面に天井画の十分の一程の大きさの模写をする小鳥が見える。


「…それより彼女の背後にある物が気になるんだが」

「ならそれなぁにって聞けばいいじゃないですか」

「謎は謎のままの方が良いときもある」


 どう見ても小鳥の身丈程ある両手剣、それも剣身の幅が広すぎる、最早細長めな金属の板が無造作に立てかけられているのだ。下手に質問して斬りかかられては堪らないし、そもそもどうやって持ち込んだのだろうか?


 恐らくあの金属の塊よりも軽いであろう絨毯を自力で運ぶことが適わず、上に乗って転がしながら進もうとしている俺を見かね、同行を申し出てくれた近衛の副長がじっと小鳥の方角を見つめている。

 人ん家で臣下と婚約者が決闘したらどうしよう。


「ネコネコさんもあの剣が気になるんですか?」


 大柄で強面。しかも全身傷だらけ。近衛副長ジャンは、しかし子ども達に人気がある。理由は明確、よじ登っても怒らず、腕に捕まれば簡易高速メリーゴーランドになり、疲れたら運んでくれる便利な玩具だからだ。

 なお、傷の大半は出会った猫達につけられた物で、カトレヤとは猫に焦がれる者同士通じ合うところがあるらしい。


「隊長がご覧になったら血が騒ぐのだろうなぁ、と…」

「城門前を通らないように言い含めておくか」


 戦闘狂ディセントラとあらゆる事を律儀に承る小鳥の、血で血を洗う交流など見たくない。

 剣の方に視線が行かないように気を付けつつ、無心で模写をする横に屈み込む。


「ソリダスター嬢」

「はい…まぁ陛下、お手はどうなさいましたか?打ち合いで切られたのでしょうか、それとも手入れの際に滑らせましたか?」

「それは兎も角」

「いけません、利き手を負傷しては一大事。カトレヤ様と一緒に私がこの剣でお守りいたします」


 目も水も向けてないのに小鳥が剣を取る事態になっている。

 というか、自分と同じ長さの剣を振り回そうとしないで欲しい。あぶ、危ない!


「ーーいかに婚約者様と言えども陛下に刃を向けるとは、生かしておけぬ!」

「止めろおまっ…そいっ」


 長すぎる剣を持つ相手より、これから抜こうとする相手を止めた方が早そうなので、蹴る。柄を持った手を狙うと自動的に剣が鞘に収まるのでお薦めだ。

 面倒な事になる前に、さっさと副長を元の勤務先に戻そう。身振りで帰るように伝えると、涙を堪えているような顔をして去っていった。どうして近衛連中はああも涙脆いのだ。


「まあ、お見事です。あの方退散されました。先手必勝というものですね」

「それ持って城門前通るの禁止」

「まあ。来たときには何も言われませんでしたけれど、いつの間に法が変わりましたか?」


 たった今。


 言いたいことは言ったので話を逸らそう。


「養護院の子ども達の刺繍の図案とのことだが、それは壮大に過ぎ難易度が高すぎるのではないかね」

「アルディジア主教堂にまつわるものとして最適かと思ったのですが、確かにおっしゃるとおりですね。こちらは子どもたちの塗り絵にでもしてもらいましょう」


 塗り絵にしたって難しすぎると思うが。


「ですが、私、他の案が思いつきません。カトレヤ様のお手伝いが叶いません」

「じゃ、ネコさん描いてください。カワイ子にゃん」

「カワイコニャンとはいかなるネコでしょうか」

「愛くるしい猫という意味だろうな」

「ネコとはおしなべて愛くるしいものではありませんか?」

「特に際立って愛らしい感じのものを要求していると考えられる」

「なるほど。かしこまりました」


 余った紙にさらさらと木炭を滑らせる。奇術の如く、瞬く間に一匹の猫が現れた。


「なっ…なんてカワイ子にゃん……!」

「これならば図案にできますでしょうか?」

「……写実的過ぎて難しいと思うぞ」


 ふわふわとした毛の一本一本、髭の光沢。透明感のある美しい瞳。

 これを刺繍しろと言われたら俺は怒る。いや、国王にそんなこと言ってくる奴は……カトレヤがいたな。


「へーかがムリならこの世の全ての人がムリですねぇ」

「まあ。陛下の刺繍技術は世界で一番でいらっしゃるのですね。さすがでございます」

「その様な事実は全くないので他の人間に言わないように。…もう少し略した形に出来ないのか?」

「ネコ、を略すというのはどういうことでしょうか?」

「ん…なんか、こう…」


 木炭なら描く方向に制限はなかろう。左手で適当に猫らしき生き物を描く。

 ついでに兎と牛も添えたら、眺めていたカトレヤが叫び出す。


「もっ、もちもちネコさん!」

「モチモチネコサンとは何でしょうか?」

「ふわふわうさちゃん!!」

「フワフワウサチャンは先程のものとどういった関係でいらっしゃいますか?」

「ウシさん!!」

「ええ、可愛らしい肉牛ですね。いささか肉質が締まっていないので食用には向かないでしょうか」

「リス、リスさんください!!ほっぺパンパンのリス!!」

「リスは可食部が少なくありませんか?…なるほど頬袋の木の実を頂くのですね」

「取り敢えず食うな小動物から強奪するな」

「まあ」


 体を揺すられながら栗鼠の描画を強請られる。仕方ないので鼠も添えてやる。


「もひもひリスさん!ちょろちょろネズミ!かわいいっ」

「カトレヤ様は不思議な単語をたくさんご存じですね」

「ね、あとあれ、ヒツジさんとかはどうですか?もこもこ!」

「当初の目的どうした」


 このままでは国王作動物園が出来てしまう。こんな時こそ出でよ、保護者共。


 念ずれば通ず、またはカトレヤのはしゃぎ声に気付いたのか、ライラックとラルゴが様子を見に来た。

 保護者その2その3がカトレヤの手元の紙をのぞき込む。


「お?いつの間にそんなに絵が上手になったんだい?」

「…ゴーストです」

「亡霊に師事なさったのですか?」

「別人の手によるという意味だな」

「そちらでしたか。確かにそれはカトレヤ様ではなく陛下がお描きになったものです」

「は~芸が多いですねぇ」


 感心したような素振りの兄とは違い、最近主君への攻撃を躊躇わなくなってきた弟はこちらを睨む。落書きは国王に相応しくないとでも言うのか。


「負傷した手の使用は必要最低限にするように申し上げましたが」

「言いつけ通り極力使ってない、こっちで描いた」


 元気な手をヒラヒラさせると奇妙なものに向ける視線に変わる。初対面の人間には結構な頻度で向けられるので慣れてると思っていたが、既知の人間にされるとなんか切ない。


「…あなたは両利きだったんですか」

「いや?右利きだけど」

「右利きの人間は逆の手で絵を描くことは出来ないと思いますが」

「?」


 描こうと思えば描けると思う。利き手、利き足というのは要するに習練度の差なのだから。

 今元気に活動できる方の手は文字は書けるし食事にも使える。だが剣を使うには筋力がやや足りないし、鍵開け・物をこっそり掏る若しくは忍ばせるといった繊細な作業は右手に及ばない。


「及ばないだけで出来はするのですね?」

「え、あ、うん」

「分かりました。指導のために右腕を損傷しても支障が無い、という認識に改めておきます」

「何でそうなる」


 ラルゴの認識が当てはまるのは俺の知る限り2人だけだ。とある姉弟への対処の関係で必要に駆られ身につけた男と、それから逃れるために修行を積んだ女である。

 俺も出来ることなら左右対称の習練度にしたいが、剣の鍛錬だけでも単純に二倍になる。そんなの体力が持たないので、比較的軽度の訓練で済む事柄のみ両方使えるようにしている。


「ライさんはどれが良いと思いますか?」

「この中から選ぶのかい?流れで陛下に刺繍してもらおうとか、考えてないよね」

「…」

「悪い子だなぁ…陛下、この本物と見紛う猫をお願いします」

「よりにもよって…片手使えないから無理だ」

「使えたとしても断るべき事柄でしょう。何故刺繍が出来るんですか」


 誰の所為だと思ってる。


 …などとは言えないので曖昧に微笑む。足を踏まれる。鉄板のお陰で痛みはないが、酷い話だ。


『偉大なる方、我が先つ祖。愛を解さぬ生命いのちに御声を届ける術をお授けください』

「…今何と」

『解さないわけじゃないかもしれないですけど現実問題理解してないので私はどうしたら良いでしょうか密室に二人きりで閉じ込めたりすれば良いですか駄目ですか』

「へーかがまた暗号を…!」

「ミネオーア南部の言葉かと思いますが」


 はたと口を閉じる。分からないように選んだというのに、まさかの小鳥が聞こえるとは。


「アカンサさん、何言ってるのかわかります?」

「はじめの方は教本の、開祖様が戦端を切る直前にアルディジア様に語りかける場面の一節かと。後半は早口で、“二人“、“密室“、“監禁“といった内容しか聞き取れませんでした」

「果てしなく物騒ですね…どなたのことを罰するおつもりで?」

「秘密」


 若干内容が違う気がするが単語の聞き取りは出来るらしい。これは色々確かめねば。


『アカンサ嬢、其方ミネオーア南部方言にはどの程度精通しているのだね?』

「大まかな内容は聞き取れますが話すことは出来ません。読み書きも同じく」

「他の国の言語で知識のある物は?」

「ヴァステヴィルダの主要言語でしたら日常会話と読み書きができます」


 余り交流のない国なのだが、一応比較的友好な隣国の方言より精通していると言うのか。


〔どういった経緯で身に付けたのかね〕

〔我が領にも時たま密入国者が入り込みますので、大陸の人間は見た目では出身を判別できないことが多いですから、判別のために必要だろうと教え込まれました。検問の最後に“地獄に堕ちろ”等囁いて、激昂したら密入国者と判断して捕えます〕

≪酷い。ヴァステヴィルダに詳しいブリオニアの民だったらどうすんだ≫

「?」

≪あ、この言葉は分かんないのか?それとも、あの国の言葉で暴言を吐かれて激昂するブリオニアの民がいると想定したことが一度も無い?≫

「?」


 成程。海を隔てた言葉であればバレないらしい。割と有力な貿易相手なのだが。


 誰にも分からないように独り言を言う方法が残っていることに安心していると、肋骨の隙間に激痛が走る。毎度お馴染みカトレヤ指差しである。


≪痛い、きっと君の想定している10倍は痛い≫

「さっきから内緒話ばっかして!悪いへーか!!」

【グリグリするなんて悪いカティ!!】

「またわからない言葉!!」

「カティ、仲間外れが寂しいからって脇腹を抉るのはよくないよ?それより刺繍はどうするの」

「忘れてました、忘れてましたけど。ライさん、へーかのことも注意してください。人の道を外れています」

「大げさな…お前が聞き取れるようになればいいだろう」

「ラルゴ、今の暗号たちわかるんですか?!」


 全部ではない、と言いつつ俺の話したことを訳する姿を見てやはりこいつの前で独り言を言うのは危険だなと思う。しかし、サンドウィッチ皇子の故郷の言葉なら平気そうだとも分かったので、今日はなかなかいい収穫があったと言えよう。


「…全然大したこと言ってなかったんですね」

「痛みを訴えるのは重要なことだが」

「そーいう割にあなたヘーキで足踏みますよね」

「必要なことだからな」

「お前のそういうところ、母さんに似てるなぁって思うよ。で、刺繍はどうするの」


 ぶれずに仕事の確認をする所は子ども達の責任者として正しい姿である。

 刺繍の道具を国王にそっと渡してくるのは臣下として間違った行為である。


「もちもちネコさんのクッションカバーが欲しいです。きっと売れます」

「もちも…?」

「へーかの描いたネコさん、もちもちしてるでしょ」

「そう、だな…教堂に全く関係がないが」

「えぇ〜教堂に関係するとなると、やっぱりアカンサさんの絵になりますけど」

「あの天井画は営利目的で利用できないんだよねぇ…画集とか出せないのもそのせい」

「まあ!そういうことだったのですか。どの画集にも決して描かれていませんでしたからどうしてかしらと思っていたのです」

「へー、知りませんでした」

「お前は知っていないとおかしいだろう」


 国教に関する法律の第34条の規定により候補が一つ消えた。

 子ども達の養育費を稼ぐのは教堂の仕事なのだからちょっとくらいいいと思うのだが、駄目らしい。


「あ、ならあのマークはどうです?」

「うちの家紋を家の者以外が使うのは、貴族法に違反して陛下に怒られちゃうね」

「か、カモン…?」

「お前、あれを何だと思ってたんだ…」


 カトレヤが言うところの「カワイイお花」、アルディジアの花を模ったクローブ家の紋。貴族は特権階級なので、その権威を矢鱈と使う人間が出てくると国王が困るのである。


「も、しかして、へーかの持ち物によく使われてる5枚の花びらのも、カモン…?」

「あれは国章。個人だと国王及び王位継承権を持つ者しか使えない。因みにナスタチウムの花がモチーフ」

「子どもたちが転んだ時とか泥まみれの時とかにハンカチ使ってますよね。がっつりあのお花ありますよね」

「渡してはいないのでセーフ。それより結局何を刺せばいいんだ」

「刺す気にならないでください」


 話しながら糸を通していた針は主治医の弟子によって奪い取られた。


「何事も見本は必要だと思います」

「お前が見本を作ればいい」

「作れると思ってるんですか」

「威張るな。作れるようになれ」

「いや、カティが作ると事件現場の遺留品みたいになりそうだから…そうだ陛下、ほんの少しでいいんで一緒に刺してやってくださいませんか?ああ、手の怪我が治ってからで」

「堂吏の女連中はどうした」


 今の教伯一家に女手がいないのは仕方ないとして、教堂にはいるだろう。わざわざ近所の国王に頼む必要性とは。


「あなたが実践で教えてくださった方があの子たちも喜びますから」

「…なんで?」

「“なんで?“って、どうしてですか?」

「偶に来るだけ輩より身近な人間の方がいいだろ」

「え?」


 またも奇妙なものを見る目を向けられる。酷い兄弟だ。カトレヤまで似たような表情をするので、消去法でアカンサ嬢に回答を求める羽目になる。


「陛下は養護院の子どもたちに慕われていらっしゃるのだと思いましたが、違いましたか?」

「シタワレテイラッシャル?」

「ええ、懐いていないとあれほど近寄ったりよじ登ったり蹴りをいれませんでしょう」

「雑に扱っても問題ない玩具の扱いだろ」

 

 ぱちくりぱちくり瞬きが増えた。

 今までに見たことがないほどの回数なので、大変言葉選びに窮しているということだろう。


「陛下、は、お小さい頃、強く信頼を寄せていた方はいらっしゃいますか」

「そりゃ、まあ」

「その方に、例えば遊んでいただく際、どのようにしていましたか」

「……遊ぶ?」


 本は一緒に読んだ。本棚をひっくり返し、それとは全く関係なしに気を失えば運ばれた。盤上遊戯で悉く大敗を喫し、感想戦で議論を交わした。


「遊ぶ…」


 派閥の勢力図は紙芝居や人形劇で見せてもらった。式典の作法は知らぬ間に叩き込まれ、テーブルマナーは毎日実践形式だった。

 諸外国の言語は横で話しているのを聞いているうちに覚えた。


 記憶を辿り続ける俺に何か思うことがあったのだろう、ライラックがこそっと話しかけてくる。


「積み木とか工作とか、一緒にしたりしませんでした?」

「ああ、王城の模型を作ったな。各部屋の機能を見て回るには体調が芳しくない頃だったし、説明に大変役立った」

「ものすごく実用的な目的しか感じ取れない!えーと、お絵描きはどうです、陛下お上手でしたでしょう?」

「毒性のある植物の判別のための写生はそれに含まれるか?」

「子どもらしさ皆無!」

「そもそもおうぞくとあの子らで、幼少期に必要なものが同じなわけないだろう」


 ただ健やかに、ゆっくりでも早くでもいい。個人個人に適した速度で成長していくことだけを課せられる存在と、国の頂に立つ可能性のある者が同等の扱いを受ける筈もない。


 もしあの子らと同じものを俺と同じ立場に生まれた存在が受け取ったと言うのなら、それは与える側の人間の弛まぬ努力と途方もない犠牲と意固地な愛が成せるわざである。


 それがどんなに得難く、尊いか。


 そして触れれば奇跡のような温かみを持つものだと。



 不思議と、俺は知っている。



「…へーか、ちっちゃい子好きなんじゃないんですか」

「そんな趣味はない」

「変な意味にとらないでくださいよ。よくかまってあげてるし、髪の結び方とか教えてくれてるでしょ」

「大したことじゃないと思うけど」

「それは三つ編みもできない私に対する挑発ですか…?!」


 そうしてまた、知っているのだ。彼らの言う、子どもらしい時間を与えられた人間はその日々を己が子へと贈ることになるのだと。返報というものだ。受け取ったものの対価を払わないのなら泥棒になってしまう。

 もし、もしもそれを受け取る幸運に恵まれていたとしても、俺の子として生まれついてしまった存在は例外なくその奇跡を与えられるべき対象ではない。


「君には君にしかできないことがあるだろう。俺はただ義務を果たしているだけだ」



 だから、返す先は国の未来しかないのだ。

 …例え雑な扱いをされようと。 


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