2.10
うーん、これは些かまずいな。
ぎりぎりと締められる首元の紐に何とか指をかけようとするが、どうにもうまくいかない。締め上げる相手が近すぎて腰に下げた剣を抜くこともできない。先に抜いておけばよかった。
それなりに暴れたのだが、相手との体格差が大きかったらしくびくともしなかった。しかも、締め上げるついでに若干足が浮くほどに持ち上げられているので足の甲という急所を狙うこともできない。もちろん大声は上げられないので救援は求められない。
さて、どうしよう。
首元にやっていた右手を上着のポケットの方へと移す。結構苦しい。そろそろ意識がなくなるかもしれない。間に合うかな?
「なに、してるの」
締め上げる力がわずかに緩んだ。どうやら口論は終わったらしい。いつもに比べて随分早いなと思うくらいには呼吸できる余裕ができたので、あとで声の主に礼を言おう。
「――ラルゴ、こっち!!」
目当ての物が掴めたので急いで背後に手を回す。紐と一緒に髪を握ってしまったようだが、やり直す余裕がない。思いっきり下から上へ、掴んだ短剣を動かす。
浮いていた体を支えるものが切り離され、受け身も取れずに倒れ込む。打った箇所が痛むが、息ができないと脚に力が入らないということが学べたので良しとするか。
そんな埒もあかない感想を抱いていると国王の首を締め上げていた不届き者がうめき声をわずかに漏らして去るのが聞こえてきた。後から来たラルゴの投げたナイフが刺さりでもしたのだろう。彼の投てきと関節技の腕は、些細な怪我であるからと治療からの逃亡を図るたびに身を持って体験している国王の折り紙つきである。怪我人に対して何の遠慮もしない人間が、主君に害をなした相手に躊躇するわけがない。
「何を考えているんだお前は!!」
怒鳴るならもっと迫力のある声を出すべきだ。何よりまず心配がにじみ出るような悲壮な声では、言い返しようがないだろう。まあ、もっとも今は咳き込んでいて返答どころではないが。
「他は?どこか痛むところは?何で一人でこんなところにのこのこ入っていった?」
「……あの、息、ちょっと、」
「しゃべるな馬鹿!!」
「理、不じ、――――痛い痛い痛い!!」
「血が出てます」
「グリグリしちゃだめでしょう、が!!」
「止血するほどじゃない、滲んでるだけだ。だがそのまま押さえておけ」
「わかりました」
「締めてる締めてる締まってるぞこれ」
まだ少々空気が足りない気がするが、立て続けに食らわせられる攻撃に対応せざるを得ない。首に掛けられた凶器を外そうとして爪でむしってしまった部分からの出血はラルゴの言う通り滲んだ程度であるにも関わらず、カトレヤによって両の手で締め上げられる形で押さえられている。彼女の握力はそれほどないし押し当てられた布は柔らかいのだが、だからと言って圧迫されて良しとするわけにもいかない。地味に苦しい。
「血の管を切ったわけじゃないのだからそんな押さえなくても、」
「そんな状況に陥ったら手当てした後に殺してやる」
「ほっとけば死ぬのにどうして?!」
「カトレヤ、そのまま帰れるか?」
「へーかに抱っこしてもらえれば」
「よし」
「良くない良くない、話の流れが全く見えない」
どんどんと俺を置いて進む会話を何とかとどめようとしたら、この前見たのと同じ温度の目で睨まれる。首を絞められたら視線で灼き殺されそうになる。なんでだ。
「そのまま帰ったら大騒ぎになる。こいつはスカーフ代わりださっさと持ち上げろ」
「絞殺は確かに初めてだが他の方法での未遂は結構経験があるぞ。今更大した騒ぎにはならないのではないかね」
「そう言うとなんだか不死身の怪物みたいですよ」
「何度も殺されかけたという事実について、お前の認識はおかしい。が、それに対する処罰はイベリス様に任せる。今は何より、首元のその痕だ」
なぜか従兄殿にまで話が遡及してしまう。あの男は俺がふらふらして怪我をしたり多少彼岸の景色を垣間見たりする度にさらっと救出してはしれっと制裁を加えてくるので話は通さないでほしい。ついでにその従兄殿でさえ明確にしない殺意を伝えてこないでくれ。
というか。首の痕がどうしたって?
意図がわからずぽかんとしていると、カトレヤが困った顔をしている。子ども達を諭す時に、彼らにもわかるようどう平易に説明しようか悩むときと同じ表情である。まさかカトレヤから何かを諭される時が来ようとは。ほんの僅かに感動してしまう。
「――刃が滑らないように、髪の毛は切るんでしたよね。今のへーかの長さ、それ位なんですか?」
「僕も実際に見たことはないから、何とも言えないが」
2人の会話から漸く話の流れが読めた。要は首を巡るようについた痕と無残に切り取った頭髪が結び合わさって良くない連想になったらしい。
しかし、流石に飛躍しすぎだろう。思わず笑ってしまうとラルゴは視線をさらに鋭くし、カトレヤはもっと困った顔をしてしまう。当時、彼らは俺と同じくほんの子どもだったはずだし何より接点がないのだからそんな顔をする必要はない。だから、立てた親指で首をなぞる振りをしつつへらりと言う。
「余は、これでは死なんよ」
姉とは、違うのだから。
*************
「カティねえちゃん、ケガ?」
「そんな感じです」
「いたい?たいじょーぶ?しなない?」
「そう簡単に死なない、ほらどいて。手当てしに行くから」
「ラルにいも、手、赤いよ?2人でケンカ?」
「これは不慮の事故」
「そうそう。お兄さんは人を殴ったりしませんよ。ちょっと手を振り下ろしたら思わぬところにぶつかったんです」
「その割には腰が入ってましたがね」
「あれ、あんただれ?」
「さて誰でしょう」
「ねえちゃんだっこしてずるい!!」
「気に入らないことがあるからといって人の脛を蹴ってはいけない」
「グーならいい?」
「こらこらダメですよ」
規模の大きな教堂には養護院が併設されていることが多い。アルディジア主教堂もその例にもれず、我々は帰り道に子どもの群れと出くわした。脛に蹴りとパンチを入れられてなお抱えた歌巫女殿を落とさなかった自分を褒めよう。なぜなら他の誰も褒めてくれないから。
カトレヤや教堂に用があるときに時間があれば玩具になっている間柄だが、髪の色と長さが変わり薄く化粧もしているので見たこと無い玩具扱いをされる。幼児などそんなものだし、どちらにせよ扱いは変わらない。俺の身分など知らないまま生きている上に、俺が何者か十分に理解しているはずのこの教堂の主及び堂吏の面々が彼らの所業をニコニコ笑って見ているだけだからだ。笑いを堪えているともいう。
そう、あれはいつだったか。
いささか精神年齢の発達が早い4歳女児から「顔が好みだから嫁に行ってやってもいい」という趣旨の有難いお言葉を賜ったことがある。気持ちは非常にうれしいが、自分の好みは年上の女性なのでと丁重に辞退した。泣かれた。周囲の子らはその女児の味方で、集中砲火を受けた。教堂の面々は震える背中を向けていた。俺は泣きたかった。
「こっちだ。父たちに見つからないように」
「なんでどーちょーに見つかっちゃだめなのー」
「このお兄さんがとっても怒られちゃうからです。可哀想でしょ、怒られたら」
「おにいさん…?」
「そんな不服そうな顔をされてもどうしようもないことだってあるんですよ、お子達」
「いいから早く来い――堂長に、この人のことは言わないこと、いいね」
「はぁい」
なんだかんだで「大人」の言うことは聞く素直な子どもたちである。俺の言うことが彼らに何の効力も持たないのはきっと俺の問題なのだろう。
通り過ぎる中で何発かおまけをくらいつつ、こっそり敷地内に入る。この間鞍を預けに行ったばかりの部屋が近くなったところでカトレヤを下した。腕の限界が近かったのである。
わずかに震える腕を見てカトレヤが少し申し訳なさそうな顔をした。
「重かったですよね。最近増えたかもです」
「俺が鍛えてないだけだ。君達はもっと重くなっていい」
「…ララちゃん横抱きにしたことあるの?」
「ないけど。大体同じくらいだろ」
「そんなわけあるか」
「じゃ、ラルゴの半分くらい?」
「それじゃあ体重無くなっちゃいますよ」
「そんなわけないだろ」
くだらないことを言うなと言われつつ部屋に入る。
途端に首根っこを掴まれて椅子に強制着席される。抵抗もできたが、ここで反抗的な態度を見せれば先ほどの様に一撃を食らってダメージを受けるだろう。主に殴った本人が。
思いっきり骨のある部分に拳を入れてきたので、本当に喧嘩慣れしてないのだろう。大分赤くなっているが大丈夫だろうか。思わず加害者の被害部位を見つめると居心地が悪そうにする。
「先にそれ冷やしたほうがいいんじゃないか」
「必要ない」
「腫れてない?ヒビいったり砕けたり、折れてないか?」
「ない。僕を何だと思ってるんだ」
「か弱い生き物」
「お前にだけは言われたくない」
それはどういう意味だろうか。ぱちぱち瞬く俺をちらと見ただけで放置し処置の準備を進めるラルゴに何か言い置いて、カトレヤは部屋を出ていく。
なんともなくその背を見送っていたらぽつんと声が聞こえた。
「昔、よく寝込んでいただろ」
「んん?」
「疲労がたまったり少し無理をするとすぐ熱を出す。酷いと寝込む。御母堂と同じ体質だと、師匠が言っていた」
「あー、うん。おかげさまで今はすっかり丈夫になったがね」
「体質というのはそうそう簡単に変わらない、とも」
雲行きが怪しい。
確かに、そよ風に当たっただけで今にも死にそうな扱いをされた時期も、実際些細なことで熱を出して部屋から出られなくなったこともある。けれど、それは昔の話だ。今は健康優良とまではいかないが、発熱や呼吸困難を起こしているところを発見され彼の師匠の厄介になることはほとんどない、人並みの生活を送っている。
「カトレヤはよくお前に引っ付いているよな」
自分の体調を把握して適度に休息を入れることを覚えたことがまず1つ。成長に伴い体力をつけたことも、あのおっかない侍医との接触が減った理由である。
体質はあれだが、俺はそこそこ運動神経は良かったらしい。体力づくりのために剣術やら乗馬やらを叩き込まれてそれなりに身につけることができた。講師があの侍医だったことだけが疑問である。
そしてもう一つ、侍医の世話になることが減った理由のうち最も功績が大きいものがある。
しかし、それを言ったらおそらくこの生真面目な人物は烈火のごとく憤るだろう。いつもなら平然と受け流せるだろうが、今はちょっと、避けたい。
「さっきまでも、首に縋りついていただろ」
「あれはお前がするように言ったからで、」
「いつもより温度が高かったそうだが」
咄嗟に立ちあがろうとするが、額に手のひらを押し当てられて阻まれる。熱を測ろうというのか、単に立ち上がれなくさせるためか。
「平熱、平熱だから」
「お前の平熱など知るか」
「ならこの手は何だ」
「カトレヤが湯を持ってくるまでの拘束だ」
「湯?」
「お前にかけるそうだ」
「なして?!」
熱さましの水の間違いではないだろうか。いや、水であってもかけられたら困る。
「その染料は湯で落ちるらしい。頭から一気にかぶればいい」
「大惨事だろ、服とか部屋とか!」
「部屋は片づければいい。替えの服くらい恵んでやる。首と発熱の処置はその後だ」
「ちょっと休めばすぐに下がるはずから!」
「…それは経験則と言うものか?」
「も、黙秘するっ」
「湯をかぶればどのみち上がるだろう。気にするな」
「ついでに火傷の手当てもしてもらえるのかね?!」
「知るか」
無慈悲な答えに打ち震えていると、カトレヤがよたよたと桶を持ってきた。
「待つんだカティ、早まるんじゃない!!」
「はい?」
俺の必死の静止に驚いた様子の彼女は、床に置いた桶にタオルを浸している。
「…熱くないの?」
「人肌より少しあったかいくらいですよ。これで拭えば落ちるそうですから、少しの間じっとしててくださいね」
平然と騙してきた相手は涼しい顔をしている。何と腹立たしい。未だ額にかかる抑止で立ち上がれないので、足を軽く蹴ってやる。若干顔をしかめた。ざまあみろ。
「ラルゴ、場所変わってください」
「額を抑えておけ、そうすれば立ちあがれない」
「熱測ってたんじゃないんですね」
「いつもの体温など知らない」
「そうですか」
おもむろに湯で湿らされたタオルで髪をぬぐわれる。
お湯を無造作にかけられるよりずっといい待遇である。が、しかし。
「待って。目に入、ちょっ!」
「あれぇ?」
「……もう少し強く絞った方が良かったんじゃないか」
結局服を恵んでもらわなければならないようだ。
*************
「ひどい目に遭った…」
借りた服に恐る恐る袖を通しながらため息をつく。髪の色を戻す代償に服は赤い水に塗れ、目も同じ運命をたどりかけた。色水を入れたところで瞳の色が変わることがないのは子どもの頃に実証済みなのでその点を心配することはないが、物凄く痛いこともそのときに学んでいるので避けられて何よりである。
首元にまかれた包帯が見えないようにと言いつけられたので、ボタンを一番上から閉める。普段、襟元は緩めているので窮屈で仕方ない。この間の様にこの教堂の長男坊の物を借りられればもう少し隙間が空くだろうが、あの男は襟元の緩い私服しか持っていないらしい。仕方がないから次男坊のを借りている。
背丈はほぼ一緒だが、果たして。
「…良かった着られた」
「着られないわけないだろうが」
「でもちょっときつそうなところありますけど。腕とか」
「触れちゃいけないこともあるんだ、カティ」
そっと額に手をかざして体温を測るカトレヤがボソッと言ってはいけないことを口にするので慌てて止める。
でも実際少し突っ張るので、ラルゴには是非とも食事の量を増やしてもらいたい。
「大丈夫、下がったみたいです」
「ならいい。さっさと城に戻って寝ろ」
「はいはい…服は今度新品用意して返すから」
「兄の時も言ったがそこまでしなくていい」
他人が着た服など着たくないだろうと思うのだが。ここで問答していてもしようがないので黙っておく。どう言おうが実際に渡してしまえば受け取らざるを得ないものである。
「そんなことよりも。その怪我と髪、お城の人たちにどう説明するつもりなんです?」
「…やっぱり、髪伸びるまでかくまってもらえないかね」
「私のお部屋とララちゃんのお部屋、どっちがいいですかね」
「無理に決まってるだろ、何年いるつもりだ」
「マルガが絶対怒る…あの声、頭に響いて堪えるんだよ…」
「皆さんへーかが髪切るのものすごい形相で止めてましたもんねぇ。今の長さも悪くないと思いますけど、切り口そろえた方がいいかもですね」
「お前は何もするな。前に兄上に施した惨劇を忘れたとは言わせない」
「ちょっと失敗しただけじゃないですか」
「数か月間室内でも帽子を手放せなくなった、あれを些細なこととして扱っていいと思うのか?」
恐ろしい話を聞いてしまったので慌てて毛先を隠す。肩にかかるかかからないか程の長さになってしまったので、少々の失敗でも取り返しのつかないことになってしまう。一応、公務などで外に姿をさらさなければならない身としては、帽子をずっと被ることは望ましくない。
俺の髪をかばうかのような仕草を見たカトレヤはむぅと膨れる。むくれた顔も可愛いが、可愛さと器用さは何の相関関係もないので手に持ったはさみを置いてほしい。
ラルゴも彼女の手にある凶器に気付いたようで、そっと回収作業に入る。ますますむくれるカトレヤに、扉の向こうから声がかかったのはそのときだった。
「カティ、ここにいるのかな」
堂長の声である。条件反射で逃走経路に目を向けたら、ラルゴに頭をはたかれたついでに首根っこを掴まれ、カトレヤは胴にしがみついてきた。ここは確かに3階だが、窓の近くに大きめの木があるのでそこに飛び移れば怪我はしなくて済むというのに。
「はい、いますよ」
「…ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ラルゴもいる?」
「どちらも今手が離せないのでそこで済ませてください」
「えっ、一体何を」
「用件は」
年頃の息子が同年代の女と私室で手が離せないことをしていると聞いて若干焦っているチャービルの心情など全く察さず、淡々と対応するのは流石というかなんというか。とにかく首が締まるので手を離してもらえないだろうか。仕方ないのでこっそり第2ボタン辺りまで外す。
「こ、子どもたちがね、カティが怪我をして帰ってきたというもんだから」
「大した怪我ではありません」
「あ、手当てしてただけなんだね。ならちょっと中に入っても、」
「ダメです!!」
「どうしてかな?!」
「ちょっとその、障りが」
「何の!??」
慌てたカトレヤの返答によって、扉の向こうの声がますますひっ迫してきている。ようやく父親の様子がおかしいことに気付き怪訝そうな顔になる相手に、己がどういった嫌疑をかけられているかを教えてごまかし方の方向性を変えるか。それとも、正直に俺がいることを宣言して何らかの制裁を受けるか。
…前者は嫌疑を伝えた段階で確実に1名、使い物にならなくなるので無理だな。
ということで。
「余が障りとは少々失礼にもほどがあるのではないかね?」
「わっ、へーか、しー!しー!」
意識的によく通る声を出してみる。途端に扉の向こう側の雰囲気が変わった。
「ラルゴ、ここを開けなさい」
「ですから手が離せないと、」
「そうかい。なら、」
あとで直すから怒らないでねと言う声と共に扉が無理やりこじ開けられたのをみて、背後の2人を咄嗟にかばう体勢をとってしまう。本当にこの男は後ろの人物の父親なのだろうか。少し力技に覚えがありすぎやしないかね?
「カティを横抱きにしてたっていうのもアンタかこのクソガキ――」
素直な子どもたちは俺の存在には触れないという指示を守りつついろいろと話してしまったらしい。ラルゴがカトレヤを抱えられるわけがないので、チャービルが不審に思って様子を探りに来るのも無理はない。
しかし毎度毎度よくもまあこんなに軽快に主君を罵倒できるなぁと一周まわって感心していたら、初めの勢いはどこに行ったのか、チャービルはこちらの姿を見て呆然としている。
「…どうした?」
「それは、こちらの台詞、です」
なぜか顔色が悪くなっているようだ。どうしたというのだろう。
首をひねっていると、急にラルゴが俺の首元をのぞき込んで舌打ちをしてくる。なんでだ。
「お前、なんで外した!」
「首締まるから」
正確にはお前に締められていたからだと言いたかったが、それが許されないような雰囲気である。何故そんなに深刻になっているのか。
「――誰がそのようなことをしたのです。お怪我は、お身体は何ともないのですか?」
「何とかあるように見えるのか?」
「ふざけてないではっきり仰い!!」
平時の怒鳴り声とは色の違う声に体が硬直する。心底不安に思っている音だ。
だから、思わず聞いてしまう。
「この形は、それほどアスターの最期を思い起こさせるのか?」
答えは返さずに盛大に顔を歪めた相手にため息をつく。
「…馬鹿らしい」
きっと、城に帰っても同じような反応をされるのだろう。
――俺の姉は、つくづく厄介な女である。




