その六 東宮元服
東宮の元服は、輝く陽光のもと、厳かに行われた。
いま最も権力をもつひとを外祖父に持つ東宮であるから、豪華絢爛な式である。
帝も中宮も、いつのまにか大きくなった息子を、感慨深げに見つめている。
東宮は、物心ついたころから東宮であったし、元服すること自体に特別な感慨はない。
それよりも、今夜のことで頭がいっぱいである。
添い臥しの儀。
陽の宮と、一晩中一緒にいるのだ。
東宮は、遠くのほう、中宮たちのいる一角にちらりと目をやる。
御簾でしきられた一角。
そこには、陽の宮もいるはずだった。
陽の宮が入内する。
それが楽しみなのか、よくわからなかった。
東宮にとって陽の宮は、大好きな女の子だ。
明るくて優しくて、きれいなお姉さん。
大好きなんだけど、それが両親の間にあるような感じと一緒なのか。
よくわかんない。
けど、これから先、二人の関係は大きく変わっていくかもしれない。
でも、自分がどう変わりたいのか、よくわからない。
そんなことを考えながら、思わずぼーっとする。
長い儀式の間も、顔だけはきりりとしたまま。
あどけない顔立ちが残っていた童姿から、冠をつけると急に大人びて見える。
儀式は、滞りなく進んでいく。
次第に、夕闇が濃くなり、灯籠に火がともる。
そして、添い臥しの儀式が始まる。
東宮は、久々に会う陽の宮の顔をみつめる。
長い黒髪。
灯火が、長いまつげに影をつくる。
こんなにも静かなときを過ごしたことがないから、どうすればいいのかわからない。
幼いころから姉のように慕っていたひと。
普通にしゃべっていたはずなのに、なんと口を開けばいいのかわからない。
何かしゃべろうと口を開くが、言葉が出てこない。
陽の宮も、なんだか照れくさいのか、何も言わない。
二人の間には微妙な距離がある。
東宮は、意を決して、陽の宮の側ににじりよって、顔を覗き込んだ。
陽の宮は、思わず見つめ返す。
そんな陽の宮に、東宮はにっこりと微笑みかける。
「これからよろしくね、陽の宮」
陽の宮は、思わず微笑みかえす。
東宮は、そんな笑顔をみて少しほっとする。