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その五 東宮元服前夜

元服を明日に控え、東宮は憂鬱だった。


「三人かあ〜」


元服したら入内してくる姫君たちのことを思うと、ぞっとする。


陽の宮も香君も好きだし、みなも姫の母である牡丹宮も好きだ。


だから、みなも姫のことも好きになるだろう。


けど、三人?


どうやって、三人もいっぺんに愛せばいいのか。


「あー、これもあのバカふーふのせいだ」


梨壺の床にごろんと横になる。


自分たちは、マンツーマンで愛を育んだくせに、僕にだけ三人も押しつけるなんて。


だいたい、何人も一度に愛すなんて、どうすればいいのかわかんないよ〜。


見本だっていないしさ。


しかも三人いたら、もっと増えても一緒だよね的なことを言いやがった。


まったく、あのふーふは・・・


他人事だと思って。


かずら髷に結ってある髪は、ひらひらと肩のあたりをくすぐる。


もうすぐ大人になれるのは嬉しいけど、大人になってすぐに後宮をまとめなくっちゃいけないのか。


その時、ほのかにお香の香りがした。


「かあさま?」


さやさやと衣擦れがして芙蓉が東宮を覗き込む。


「あら、すぐわかっちゃったのね」


芙蓉が、くすくすと笑う。


「中宮さまが、こんなとこで何してんだよ」


東宮は、そんな憎まれ口を叩く。


「またまた〜、嬉しいくせに〜」


芙蓉は、東宮に抱きつく。


「もうそんな年じゃないってば」


そう言いながらも東宮も、満更ではなさそうだ。


「こうしてグリグリ出来るのも、今日が最後だもの」


そのために来たのか〜。


東宮は、そう思うと苦笑いしてしまう。


「別に、大人になったからって、全部一遍に変えなくたっていいんじゃないかしら?


新しく入ってくる女御たちとだって、一歩ずつ関係を築けばいい。


それに、女御たちの上に君臨するのは、中宮にして東宮の母たる私なのよ?


あなたは、まとめることなんて、まだ考えなくていいの」


頭をなぜなぜされながら、そう言われると、不思議と落ち着く。


この人は、本当はこれを言いに来てくれたのかもしれない。


そう思う。


中宮と東宮として、いつもいつも一緒にいれたわけではない。


けど、この母は、折に触れて会いに来てくれた。


幼いころ、ぎゅっと抱きしめてくれたように、今でも折に触れて母の愛を感じる。


「かあさまは、いつまでもかあさまだよね」


母の香りが好きだ。


この香の香りが漂ってくると、あ、母が来てくれたのだなと気付くから。「女御たちは、みんないい子だから心配しなくても大丈夫よ」


「うん・・・」


母に甘えるのも、今日が最後。


その香りを、胸一杯に吸い込む。

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