その四 みなも姫
みなも姫。
頭中将と牡丹宮との間に生まれた姫は、そう呼ばれている。
水面のように、静かに澄みきっているから。
というのが貴族たちの間での通説だ。
でも、石を投げた時も、嵐がきた時も、水面は荒れるじゃない。
水面だって、年がら年中じっとしてなんかいないわ。
芙蓉は、そう思う。
だいたい、あの牡丹宮の娘が、そんなに大人しいわけがない。
大抵の場合、娘は母親に似るものだ。
特に、あんな強烈キャラの母親だし。
みなも姫は、絶対に静かな水面の下に何かを隠しているに違いない。
意外にも、芙蓉はみなも姫のことをあまり知らない。
牡丹宮は、みなも姫を伴って宮中に来ることはなかった。
大抵の親は、少しでも帝や中宮、東宮の目に留まるように、宮中に寄越せる機会を狙ってやまないというのに。
牡丹宮は、一人で来て、芙蓉と楽しいときを過ごして一人で帰って行く。
不思議に思った芙蓉は、牡丹宮に理由を尋ねてみた。
「だって、飽きるじゃない。
それに、おしめをしてるころから知ってる女の子なんて、なかなか女としては見れないものよ」
それはそれで、なるほどと思ったものだ。
しっかり者の牡丹宮のことだもの。
絶対に、何か作戦を立ててくるんじゃないかしら?
そう思うと、楽しみで仕方ない。
なんて言っても、お兄さまと牡丹宮の子供なのだから。
他の二人に比べて、みなも姫はまだ幼い。
どんな作戦でくるのかしら?
芙蓉は、わくわくしていた。