その三 香子女王
東宮に入内する二人目の姫は、今上帝の兄宮である式部卿宮の姫君。
かつてちい姫と呼ばれていた方である。
あの三の君の娘。
けれども、教養はばっちり叩き込まれている。
父宮から。
名前を香子さまとおっしゃる。
三の君譲りの美貌と、式部卿宮譲りの教養で名高い姫君である。
もっとも、三の君譲りなのはその美貌だけではなさそうだが。
明るく朗らかで、多少はっきりしすぎる物言い。
芙蓉にとっては、昔の友を思い出して懐かしい。
東宮とは年も近く、幼馴染みでもある。
東宮の元服の少し前に、裳着をすませた。
昔から、自分が東宮のもとに入内するものだと知ってるからか、参内するたびに東宮にまとわりついていた。
東宮も、妹のように可愛がっている天真爛漫な姫君である。
・・・でも、宮筋の姫君だもん。
実は、ものすごーくしっかりしてたりして・・・
なんて、芙蓉は密かに思ってたりする。
なんてったって、牡丹宮と紅梅尚侍で学習済みだ。
それでも、三の君の娘だもの。
可愛くないわけがない。
三の君も陰謀なのか、香君をつれてよく参内していた。
・・・まったく、私がたくらんでるみたいじゃない。
芙蓉は、思い返してため息をつく。
他の貴族連中から、中宮さまのお身内の方ばかり、東宮の女御さまに上がられるのですかな?なーんて、何回言われたことか。
でも、来てくれると楽しいのだけどね。
けど、身分としてはやはり、陽の宮の次になる。
東宮の愛情的には何番目になるのか。
芙蓉ってば、悪い母親である。
女御レースを楽しんでいるふうにも見える。
まあ、今のところ誰かを取り立てて贔屓する気もないし、他人ごとと言えば他人ごと。
細かいことは、入内してきてから悩めばいい。