その二 陽の宮
院の姫宮は、お二人いらっしゃる。
上の姫宮が陽の宮。
下の姫宮が月の宮と呼ばれている。
今回、入内されるのが陽の宮である。
陽の宮は、その名の通り、太陽のように明るく温和な姫宮である。
この上ない身分に生まれたからか、気品漂う物腰。
柔らかな色の衣を好まれるのか、桜色や桃色、萌葱色といった衣をまとわれ、陽の宮のまわりはいつもふんわりした空気になる。
美しい姫宮なのだが、ぱっと輝く華やかな美しさというよりは、なんというか、穏やかな春の陽の光のような雰囲気の人である。
幼いころは、陽の宮と月の宮、どちらが入内するのか決まっていなかったのだが、いつのまにか自然と、陽の宮が入内するということに決まっていた。
月の宮は、どちらかといえば、物静かで人見知りする性格で、東宮妃として他の女性と競わせるのは忍びない。
周囲の大人たちもそう思ったのだろう。
陽の宮の脇に控えめに座る月の宮。
美しさも才知も陽の宮に劣るところなどない。
陽の宮は月の宮を。
月の宮は陽の宮を。
お互いにいつも慈しんできた。
周囲の大人の思惑もあってか、自然と東宮や弟妹の宮と過ごす時間の多い二人であったが、そのような中で、自然と東宮と陽の宮は、仲良く過ごすようになっていった。
ただ、その仲の良さが、姉弟のような愛なのか、男女としての愛なのか、お互いに、そして周りもはかりかねていた。
陽の宮という呼び名は、妃の宮にも通じるところがあり、東宮が呼ばれるようになった御名である。
その呼び名によって、この度の入内が決定したともいえる。
母である皇太后の宮が、しっかりとベテランの女房をつけて教育されている。
皇太后の宮は、芙蓉に母のように愛して欲しいと望みはしたものの、東宮の寵愛を得る女御としての教育は求めなかった。
寵愛を争ったことのない芙蓉には難しいからなのか。
陽の宮が、東宮元服にあたっての添い臥しの役目も務める。
ある意味、東宮が入内を自らの手で決めた唯一のひとであるとも言える。